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つぶれかかった会社に税金をつぎ込み利権化する「東電国有化」は最悪の選択だ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/31067
2011年12月23日(金) 長谷川 幸洋「ニュースの深層」:現代ビジネス
東京電力を政府が実質的に国有化するという報道が相次いでいる。読売新聞が12月21日付け朝刊1面トップで報じると、朝日新聞と日本経済新聞も同日夕刊の1面トップで追いかけた。東電は読売の報道をホームページで否定したが、どうやら政府部内で東電国有化が検討されているのは間違いなさそうだ。
10月に発表された経営・財務調査委員会の試算によれば、1年以内に原発を再稼働したとしても、値上げしなければ2013年度に純資産が873億円に落ち込むと見込んでいた。これに膨れあがる廃炉費用や火力発電に伴う追加の燃料負担を加えると、どうみても資産超過から一転して債務超過への転落は必至である。
今回浮上した国有化案は、そんな経営実態を踏まえて、政府が原子力損害賠償支援機構を通じて1兆円規模の公的資金を投入するという内容だ。各紙によれば、それでも足りず、電気料金を10%値上げしたうえ、定期点検で停止している柏崎刈谷原発を再稼働するという。
日経は22日朝刊で来年4月から工場など企業向け料金を2割前後値上げすると伝えた。すると、東電はその日のうちに西沢俊夫社長が記者会見し、企業向けだけでなく、家庭向けも10%程度の値上げを来春にも申請すると発表した。
この東電国有化と値上げ案をどう考えるか。
政府と東電に求められているのは電力の安定供給を確保したうえで、国民負担を最小化しつつ、福島第一原発事故の被災者に対する十分な賠償と除染、さらに安全な廃炉である。この目標を達成するために、どういう方法が望ましいか、という問題である。
まず「13年度にも債務超過に陥る」のは、経営が破綻するという話だ。それはいまになって突然、あきらかになった話ではない。初めから分かっていた。賠償と除染費用が巨額に上るからだ。10月時点で廃炉費用の見積もりが甘いという指摘もあった。
最初から支援機構による支援とリストラで東電が存続できるというシナリオ自体がフィクションだったのである。それがどうにも覆い隠せず、経営破綻が避けられないと分かって、政府は突如として国有化案を流し始めた。
なぜ国有化なのかといえば、どうせ東電がつぶれるのは避けられないなら、いっそ国有化してしまえば、官僚たちが電力業界に対する支配力と既得権益を守れるからだ。しかも国有化に合わせて民間銀行からの追加融資を抱き合わせれば、銀行の腹も痛まない。銀行はすでに融資した分の債権カットを恐れていた。それが国有化ならつぶれないうえ、新しい融資に政府保証がつくからだ。
各紙は公的資金の1兆円に銀行の追加融資1兆円を合わせ、投入する資金は計2兆円と伝えている。ようするに「政府が1兆円のカネを出す。これまでの債権カットも目をつぶってやるから、銀行も新たに1兆円出せ」という話である。
これまでも繰り返し指摘してきたように(たとえばhttp://gendai.ismedia.jp/articles/-/4911)、東電が被災者への十分な賠償と除染、廃炉を賄う財務能力がなく債務超過が避けられないなら、資本主義と株式会社の原理原則にしたがって株式は100%減資、銀行は債権カットして会社を整理したうえ、足りない分を国民に負担を求めるのが筋だ。
それを債務超過になるからといって国有化するなら、つぶれた会社を政府が国民負担で救済する形になってしまう。まして1兆円の公的資金を投入しても、まだ足らず、電気料金も値上げとはとんでもない話である。それで株主と銀行が素知らぬ顔で通るのか。
株主も銀行も元はと言えば、自分たちの金儲けで東電に投融資した。事故原因に何の関係もない国民に、株主や銀行が投融資に失敗した負担を背負わせるような案が支持されるはずがない。
国有化は原発の安全確保からも最悪の選択だ。
東電社員からみれば、国有化は「日の丸会社になったのだから、もう絶対つぶれない」という話になる。当然、リストラも安全確保にも手を抜く。「国が保有すれば安全」などと考えるのは、まったくの倒錯である。民間企業として厳しい競争を迫られ「事故を起こせば大損失」という規律が働くからこそ、効率を高め、安全確保に力を入れるようになるのだ。
国有化で企業統治の規律付け(ガバナンス)はますます働かなくなり一層、でたらめがまかり通るようになるだろう。
電力事業の再編も進まない。発電と送配電の分離もできなくなってしまう。本来なら東電は送配電部門だけを残し、発電所は順次売却していくべきだ。それによって発電分野への新規参入を促し、技術革新や新エネルギーの導入が進む。
このままなら東電は倒産し電力の安定供給が危うくなるというなら、安定供給を保証する手だてを別途構築しつつ、東電を解体する道を探ればいい。日本航空だって経営破綻によって飛行機便の運行は止まらなかった。それと同じである。
もっと規模が小さい会社なら、民間ファンドによる会社買収と再売却(exit)によって企業が再生できる場合がある。東電の場合、1兆円もの資金を用意できる民間ファンドはないから「国による買収もやむなし」という理屈があるかもしれない。
百歩譲って一時的な国有化を認めたとしても、せいぜい3年以内での民間売却、再民営化が絶対条件になる。ところが各紙報道をみる限り、国有化した後のexit戦略について触れた部分はまったくない。まして発送電分離につなげる道筋はまったく見えていない。
つまり、今回の国有化話は官僚たちがつぶれかかった東電に巨額資金を投入して、新たな利権にする狙いがみえみえなのだ。消費税引き上げに加えて、電気料金値上げでは消費者はたまらない。官僚が主導する野田佳彦政権の本性がいよいよ露わになってきた。
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