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かけはし2011.12.12号
土も海も人が作ってきた
亀谷――日本の一次産業を支えてきた技術力は他の国に比べても相当に進んでいる。日本の農家のコメ作りというのは、一軒、一軒、うまいといわれるコメを作る。白いご飯がうまいかうまくないかは問題でない、というところとは違う。魚でも、生で食える、なおかつ新鮮でないとダメ、という要求にどう対応するかという技術だ。
そういうものがTPPで壊される。農民、漁民が問題にすることは、どうでもいいものを持ち込まれることによって価格が一気に引き下げられる、ということだ。コメでも、日本でつくっている七〇〇万トンを世界でつくれないことははっきりしている。しかし、世界から日本に輸出される味を気にしない一〇〇万トンの価格で日本の七〇〇万トンの価格を下げられることが問題なのだ。それでは今までのコメは作れない。それを言わずに、ただで土地を、浜を取り上げて大型化すれば、企業化すれば、いかにも今までのコメが作れ魚がとれるかのような、復興計画のいかさまさをもっと分かりやすくはっきり打ち出す必要がある。
大内――そういう技術を支えるものとして、農業も、漁業もそうだと思うが、やはり土作りだ。農家は家を建てるときも自分が作ってきた土を三〇pから五〇p取り出して自分の畑にもっていき、家のところにはわざわざ別の土を入れて家を建てる。それは何年もかけてつくってきた土だからだ。野菜などの場合は特に連作障害があるから次々に移っていく。そうやりながら土をつくってきた。
そこに資本の論理を入れたらそんなやり方はしない。取れるうちにどんどん取るということに変わるはずだ。
亀谷――農業でも福島含めて、親子でやっている人たちは全部地元復旧を言う。なぜそうなるかと言えば、大内が言うように、田んぼも海もそうだが、何百年も営々とものすごい努力をして作ってきた土ということがある。漁業でも漁民は、海の底を清掃し、毎年場所を変えながらたとえば三年で元に戻るというようなシステムを、一人一人が自分のやり方で作ってきた。三里塚と同じだが、企業で効率的になどと、それを何で二束三文で取られなければならないのか、ということだ。
企業は戻すが農漁業は排除
亀谷――ところが一方を見ると、三陸のいろいろな企業も特に大手は、大船渡も釜石も、元の位置に戻すといっている。流される分にはもう一回カネを出せばいいということだ。それを農業と漁業だけは何で別枠なのか、ここに最大の対立点がある。
大内――石巻のパルプ工場ももう一度元のところで復旧する。ただ縮小するといっている。しかしそれは、別に震災がなくても計画していた合理化を、これ幸いに便乗したものだ。多賀城のソニーも明らかにそうした便乗合理化だ。本当に小さなところの便乗解雇に限らず、大手も震災、原発事故にかこつけて自身の企業構造を一気に変えようとする動きがある。しかしそのほとんども、元の場所から動くわけではない。
亀谷――仙台新港周辺の物流倉庫なども、津波でみんな壊されたがやはり同じ場所で再開する。仙台空港脇のさまざまな倉庫にしても、流されたにもかかわらず全部がもう一回再開している。貨物便がものすごく多いからだ。
大内――空港周辺は全部田んぼだった。しかし砂が入ったとかの理由を付けて、そこで農業はダメだという。そして岩沼市の復興計画は、名取市の一部も入るが、空港を中心とした企業誘致の復興だ。それはつまり、その辺の土地は全部巻き上げる、ということを意味する。
亀谷――津波に襲われたところはダメだというのなら、仙台空港もとうにダメだ。ここは、五メートルもの津波を受けて、飛行機まで流されているところをテレビに映されている。
大内――そこで空港の防災対策はどうなっているかといえば、何もない。機械などを二階に移しただけだ。対策はと言えば、備蓄を増やしましたで終わり。あの時は一三〇〇人が、火の気のないところでビニールを体に巻き付け一晩も二晩も過ごした。そのことへの対策はない。それでも空港であればそれでいいとされている。
亀谷――それらの企業が戻っているのに、家は建てさせないとか、農業はもうダメだとかいうのは理屈に合わない。結局結果として残るのは土地の取り上げだ。
しかしくり返すが、何百年にもわたってつくってきた農地を津波だからといってただ同然で取り上げられる筋合いはない。だから農家の人や漁民が反対するのは当たり前だ。村井や行政はそれを押さえるために、住宅地の高台移転という形を利用している。
行政と原発が一次産業圧迫
――その中で、現実問題として農家の人はどうしているのだろうか。
大内――コメを作れないところと作れるところが出ている。塩水が入ったところでは、仙台の方は塩抜きができ、作れたところがあるが、名取ではできなかった。塩抜きをするためには何回も水を入れなければならないが、名取の場合はポンプ場が壊れて排水ができず結局塩抜きができなかった。塩害のなかった上流の方に田んぼを持っている人も、自主的に作付けをやらなかった。代掻き、田植えに伴い下流で水が溢れるからだ。被災地を水浸しにすることは、津波を受けてもっとひどい目に遭っている人に申し訳ないと、特にエリア指定されているわけではないが自粛したわけだ。
しかし行政がいつまでもポンプ場を直さず住民を追い出したのを見て、そんなことをやるんだったら作付けをやればよかったという声が今になって出ている。塩抜きをやらずに作付けを自粛した場合には補償がないのだ。農協共済の補償は実害主義、つまり作付けが前提で、冷害などで被害を受けた場合に対する補償だからだ。行政に対する不満はここからも出ている。
一方岩沼の方では、がれき撤去が今問題になっている。田んぼの中にはあちこちに小高い丘になっているところがあるが、それは全部ヘドロを集めたものだ。なぜ集めるかというとまだ行方不明者がいるからだ。三〇〜五〇pのヘドロの中に埋まってしまう。だからがれき撤去は、ヘドロを取り除いた上でやらなければならず、田んぼは結局後回しになっていた。
それが今始まっている中で問題が出てきた。共同であれ戸別であれ、農家が自力で撤去しそこに補償として日当が出るというのが基本の形だが、高齢者世帯の場合はその撤去作業ができない。結果、高齢者世帯の農家ではがれき撤去が進まない上に現金収入も入らない。今年一年コメを作れなかったわけだから生活が非常に大変になっている。
もう一つ、特に仙南の場合深刻な問題がある。漁業も農業も共通に放射能汚染の問題だ。誰も表だって口に出しては言わないが、いくら検査してOKと言われようが買ってもらえなければどうしようもないとの恐れが厳然とある。そのために、大変な思いをしてまでつくる必要はない、というような動きが兼業農家などに出てきて、それも農業の担い手がいないと言いたい行政に利用されている。農業を止めたがっている人がいるという場合、そこには今、跡継ぎの問題だけではなく放射能汚染への懸念も大きく作用している。
亀谷――原発問題はみんな意識している。われわれが関わっているカキの人たちも、言わないだけで、来年検査したときにダメになる可能性はゼロではないと意識している。しかし言ってしまうと踏み出せないから言わない。それはそれとして、結果として来年セシウムが出たときはその時また考える、という覚悟の仕方だ。
大内――いずれにしても農民にとって一年間作物を作れないということは、経済的にというだけでなく気持ちの問題として非常に大きい。そういうことも含めて被災地の農業を取り巻く状況は今かなり厳しい。村井はそこに乗じるつもりだ。
震災復旧名目の経済対策
――ここまで見ただけでも村井の復興方針なるものが被災者の思いとかけ離れたものであることは歴然だ。土地の取り上げと一体となった高台移転など、大規模宅地造成も含めたいわば地域改造的側面も透けて見えるが。
亀谷――明らかに大規模開発の発想がある。
大内――だからがれき撤去にしても、岩手県とは対照的だが、宮城県の場合は全部ゼネコンのJVになっている。一番大きい石巻の千何百億円の事業は鹿島中心のJVだ。しかし実際に働くのは地元の業者だ。だからそこで何割かピンハネされて、がれき撤去の作業をやっていた人たちの賃金が、最初の行政直接雇用の時からJVになった途端、一割から二割減になった。
亀谷――最初の頃は一日一万二〇〇〇円位だったが、今は七五〇〇円位まで下がっている。
大内――そこで理由にされたのがスピード感だ。地元業者に任せていたのでは延々と片付かない、復興のためにはがれき撤去が最優先、と打ち上げた。しかし進まないのは別に業者の問題ではない。二次処理場をどこも引き受けないからだ。二年間ぐらいしたら元に戻すから土地を借りたい、という虫のいい話だからある意味当然だ。この問題はJVだからといって片のつく問題ではない。だからこのJVには別の意味があると言うべきだ。
亀谷――村井や国の考えていることは田中時代的な土木国家だ。がれきを集めて道路を高く造る、道路の海側は住宅を造らせずに安く買い上げてTPPをにらんだ農業地域化、そのように地域コミュニティーを分断してしまう。そこに向かうためにも、ともかく経済効果が上がるようにここ二〇年間のゼネコンの仕事を東北全土に準備しよう、そのような感じを受ける。それを税金でやろうというのだから、まさに震災復旧という名目の経済対策だ。
加えて高台移転には三〇〇〇万から五〇〇〇万円かかるとすれば、家を失った人が宮城県だけでも膨大な数生まれたわけだから、銀行や建築業にもとんでもない特需を作り出す。
こういう計算をする政府と、明日から生活を作るためにどうするかという人たちの開きは非常に大きい。
「ショックドクトリン」
――その明らかな開きに対して行政はどう対応しようとしているのか。
大内――復興方針は県議会で決定したから、今度は各市町村の方針の問題になった。しかし各市町村で説明会は開くけれども、どこの説明会でも全部紛糾してまとまらない。どこかの段階で判断して強行、という腹づもりなのではないか。
亀谷――議員はチェック機関であって行政機関ではないというシステムだ。自身には予算も行政権限もなく、いわば会計監査みたいなものだ。システム上は、終わったあといいか悪いか言うだけの存在になっている。地域の人たちが行政に対して要請したときそれが受け入れられるシステムがあるかどうかという問題になると、結局それは一票でとなるが、その一票でといわれた議員はチェック機関にすぎない。システム上、住民が直接意見を行政に反映するものがない。それは、どうしようもないときに説明会だけやって、それさえやれば納得しようがしまいがあとは実行するだけというシステムだ。
大内――国と県の間にもある種の責任たらい回し的な関係が見える。たとえば水産特区を見れば、国は現地の要望があるから計画に入れたと言い、逆に県は、国の復興方針に盛り込まれたのに言い出したわれわれが拒否するわけにはいかない、などと強弁する。
他方で被災者はまだまだ余裕はないし、精神的にも区切りがついていない。その中でどんどん進められるから何も言えないうちにもう次に行ってしまうという状況がある。TPPと同じように、迫られて迫られて、よく考える時間を与えられないまま進められているという感はある。
――ある種のショックドクトリンに見えるが。
大内――宮城の場合それははっきりしている。村井のバックに野村総研と三菱総研が付いている。震災復興と称してはいるが実態は、震災以前から進められていた「富県構想」の拡張とその強行だ。そして意図的に復旧を遅らせている。高台移転だからと、沿岸部のインフラ復旧などは放置されている。
亀谷――今まで生きてきた生活と歴史を全部否定して、日本経済のためというところに吸収しようというこの路線と、それを進める行政とどう対決するか、これがわれわれに突き付けられている大きな課題だ。
大内――問題は結局、今まで見てきたような被災者の思い、さらに行政を当てにせず自ら動いて自ら望むふるさと復興を果たそうという人たちとどうつながれるかだ。その決め手を今言えるわけではないが、少なくとも、被災者がどういう気持ちで何を望んでいるかは常に意識的に受け止めることを出発点に置きたい。
復旧・復興と一体的な脱原発を
亀谷――その上で、脱原発の闘いを進める上でこの間の経験から感じていることを少し言いたい。脱原発の運動の底にある思いは命の大切さということだと思うが、その観点から見て福島に何度も行って一番しんどいと思うのは、大熊とか浪江、相馬だ。
ここの人たちは最初に津波で流され裸になっている。おびただしい命も奪われた。しかし現実にはそれは表に出ず、原発被災者との間にある種の格差、分断がある。たとえば三〇キロ圏外の津波被災者には補償金はなく、義援金だけだ。そしてその復旧・復興、一次産業の原発事故被害も含めた福島県全体の復旧・復興という問題となると、原発の議論が焦点になる中で消えている。ニュースなどでも、復旧・復興と言えば宮城と岩手だけで、福島の復旧・復興はない。
原発を推進してきた佐藤福島県政自体がそれにフタをして、最初から津波被災と原発事故を完全に遮断したという大問題がある。厳しい批判が必要だ。しかしそれはそれとして、人の命を失わせないとして脱原発を進めるのであれば、人の命に区別はない以上同じ観点から太平洋岸の復旧・復興も問題としなければならない。二〇キロ圏内、三〇キロ圏内、飯舘村の復旧・復興は今すぐ出せないとしても、それ以外のところ、相馬とかいわきの復旧・復興をどうするかは問題にしなければならないと思う。そうでないと、原発問題に関し福島県内でも全体化が難しくなると感じている。
同じ観点から除染にも、全国に呼びかけて攻勢的に取り組んでもいいと思う。一時的にでも効果があるとすれば、そこに子どもが住んでいる、あるいは住まざるを得ない状況がある以上、それは必要なことだ。そして山の木を全部切ることができないとすれば繰り返しやるしかない。その費用は政府、東電にということはあるにしろ、そこが決まらなければ動かないというのは、人のいのちを守る側から言えば間違いではないだろうか。
作業に伴う被曝の問題は、常には被曝の低い県外の特に年配者に引き受けてもらう、そのような踏み込みが脱原発の運動の側にも求められているのではないだろうか。放射能汚染が全国化する中で脱原発の課題も全国化している現在のある意味での好機に対し、実体のある連帯に支えられた攻勢的かつ迫力ある闘いを作り上げるための一つの問題提起だ。(以上、一〇月二八日収録)
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