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●「消費増税には3つの壁がある」(EJ第3191号)
2011年11月30日 :{Electronic Journal}
野田内閣は、来年1月の通常国会に消費増税準備法案を提出するつもりでいます。そのためには、年内に消費税率引き上げ幅と時期を書き込んだ社会保障と税の一体改革の大綱を決定する必要があります。
しかし、政権中枢幹部から年内の決着無理という声が出てきたのです。TPPのときは表立って発言しなかった小沢一郎元代表の消費増税反対宣言もあり、TPPのとき以上に党内をまとめ切れないとの判断があるからです。
これに対してなぜか強気なのは、藤井裕久党税調会長です。消費増税反対の声を上げた小沢氏に対し、「そういう政治信条であるなら離党すればよい」とケンカを売り、「除夜の鐘を聞く頃にはまとめる」と豪語しています。藤井氏にしてみれば、今回は財務省がバックにいるので、強気になっているのでしょう。
しかし、消費増税をまとめる側の戦略としては、非常に稚拙であったといえます。ここでネックになってくるのは「復興増税」をやったことです。財務省の立場に立つと、その狙いは、復興増税をしなければならないほど、現在の日本の財政状況が厳しいものであることを国民に知らせることにあったと思われます。
しかし、国民の側からは、復興増税の後に消費税も上がることは相当の重荷として受け止めることになります。それだけではないのです。先ほど行われた提言政策仕分けで、物価スライド制の年金制度なのに、物価が下がっても高いままの年金給付をしているのは問題で、引き下げるべきだという提言があったのです。
この提言を行ったのは、慶応義塾大学教授の土居丈朗氏なのです。この人物はテレビに出てくるときは、慶応義塾大学教授の肩書ですが、もともとは財務省財務総合政策研究所主任研究官を務めていた財務省寄りの人物であり、財務省の増税キャンペーンの一翼を担っているのです。悪くいえば「御用学者」といってよいでしょう。やさしい語り口でフジテレビの「知りたがり」などに頻繁に登場するので、増税が必要といわれるとそうかなと思ってしまうものです。もっとも土居氏本人も自分が「御用学者」と呼ばれていることを承知していて、次のように述べています。
(子どもの頃)単に増税が嫌だという感覚だけで何ら論拠もなく反対している大人を見て、大いに呆れ、賛成にせよ、反対にせよ真っ当な論理を持って是非を議論できる大人になりたいと思った。増税反対派から「御用学者」と揶揄されても、こんな人気のない主張を続けるのは、真っ当な経済理論に基づくものであり、政治家や官僚に媚びるつもりは決してない。
──土居丈朗氏
http://d.hatena.ne.jp/nyankosensee/20110612/1307821900
問題なのは、この提言を受け小宮山厚労相は、2012年度から3年間で、給付水準を段階的に引き下げる意向を示したことです。復興増税に消費税、それに加えてこの年金給付の引き下げ、「国民の生活が第一」という党のスローガンを無視することを平然と行う「冷たさ」が民主党にはあるとつくづく思います。
確かに年金の給付は正しい水準に戻さなければなりませんが、増税を連発しようとする今やろうとする──時期とかタイミングを完全に無視しているのです。こういう給付の調整は、デフレを克服して物価が上がるようになった時点で、本来なら給付を引き上げる状態になったとき、それをしないで調整して行うというのが正しいのです。なぜ、そのように考えないのでしょうか。民主党議員の正体見たりという感じです。
とにかく増税で対応する必要のなかった復興増税という愚策をやってしまったため、消費増税をやるときにそれが大きなネックになってくるのです。それが野田内閣首脳部にわかっていないのです。自分の省益だけを考えている財務官僚の提案を受け入れたので、党首脳部は、全体として、国として、国民としての視点をすっかり忘れてしまっているのです。
経済学では「課税の標準化」ということがあります。100年に1回の大震災なら、その負担を100年間で平準化すればよいのです。それを増税でやろうとする財務省の意向をそのまま受け入れた結果が現在の状況なのです。これについて、高橋洋一氏は次のように述べています。
国債発行によって、地域的にも時間的にも分散処理すれば、対応コストが平準化できる。具体的には100年国債を発行し、100年間で償還し、時空を超えて国民全体で負担をする。裏を返せば、この経済原則からいえば、増税という手段は災害というショックに対応する政策としてはまったく根拠がない。ところが、増税が公平だという論議にいつの間にかすり替わっている。ちなみにショックの平準化という観点からいえば、「つなぎ国債」は、時間の分散が不十分なので増税と変わりない。
これまたショックの平準化の大原則を踏み外している。
──高橋洋一著
『財務省の隠す650兆円の国民資産』/講談社刊
11月28日のロイター電では、消費増税は次の3つの壁があり、実現は困難との見通しを示しています。
1. デフレの壁
2.国と地方の配分の壁
3. 政局の壁
野田首相は何が何でも消費増税を進める考え方のようですが、もし強行突破すれば党が割れかねない。首相は党の調整は党(輿石幹事長)にまかせてあるとつねにいいますが、自ら説明する姿勢をなぜ見せないのでしょうか。
── [財務省の正体/17]
≪画像および関連情報≫
●消費増税に「3つの壁」
[東京 28日 ロイター] 消費税引き上げ論議が本格化している。野田佳彦首相は年内に税率と増税時期などの具体案を大綱にまとめ、来年3月までに関係法案を国会に提出する段取りを描くが、年内の大綱とりまとめにこだわらないとの声が閣内からも飛び出すなど、政府・与党内に方針の揺らぎがみえる。
消費税引き上げの前提となる経済情勢は欧州債務問題を契機に先行き不透明感が増しており、国と地方の配分をめぐる協議も難航が予想される。経済、政局、そして国と地方の配分という3つのハードルは高く、野田政権は正念場を迎えている。
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnTK067241420111128
元記事リンク:http://electronic-journal.seesaa.net/article/237793029.html
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