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選挙モードに入るのか?
http://www.the-journal.jp/contents/kokkai/2011/11/post_282.html
2011年11月28日 田中良紹の「国会探検」
第三次補正予算は成立したが、震災からの復興体制が万全になったとは言えないうちに、解散・総選挙の話が与野党双方から出始めた。
きっかけは11月3日、G20の首脳会議に出席した野田総理が「2010年代半ばまでに消費税を段階的に10%に引き上げる」方針を示し、「消費税法案を2011年度内に提出する」事を国際公約したからである。同行記者団には「法案の実施前に国民の信を問いたい」と述べた。
21日には五十嵐文彦財務副大臣が「2013年10月以降に消費税率を1回目として2〜3%引き上げ、残りの2〜3%は15年4月か10月になる」と野田総理の発言を補足した。実施予定の2013年10月以降というのは現在の衆議院議員の任期を越えており、その前に必ず総選挙は行なわれる。しかし法案を決める前に国民の声は聞かないと言う。
民主党は2009年の総選挙で「消費税を4年間は上げない」事を国民に公約して政権交代を果たした。従って引き上げの実施時期は公約を守る事になるが、決めるのはそれより1年以上も前なのである。しかも決める前に信を問わず、決めた後で信を問うというのは、いかにも霞が関の官僚が考えそうなやり方である。
官僚から見れば野田総理は消費税引き上げを決めてくれれば良い訳で、それで野田政権が潰れてもその後の政権が増税路線を引き継ぐと見ている。おそらく野田総理は「市場の信用を失わないために日本は財政再建の強い姿勢を国際社会に見せる必要がある」と言われ、G20で消費税引き上げを国際公約にした。
しかし国際公約にすると総理は逃げる事が出来なくなる。国際公約を守らなければ政治責任を問われて退陣に追い込まれる。07年の参議院選挙に敗れた安倍総理は、国際公約していたインド洋での海上給油が「ねじれ」によって不可能になった事に気づいたところで退陣を表明した。
そうした意味で野田政権は官僚にとって消費税引き上げのための「使い捨て」政権であり、国際公約した事で「二階に上らされた」と見る事ができる。ハシゴを外される可能性がないわけではない。
野田総理の国際公約を見て政局が動き出した。自民党の谷垣総裁は「増税をやるなら決める前に総選挙で国民の信を問うべきだ」と言い、石原幹事長は「自民、公明、民主の3党が消費税法案の成立と引き換えに話し合いで解散する」可能性に言及した。自民党は民主党が消費税増税に踏み込んでくれれば政権奪還の勝機と見て、早期解散を求めている。
一方、民主党では小沢元代表が野田総理の政権運営を厳しく批判し始めた。消費税増税を決めて早期解散に追い込まれれば民主党は大惨敗する可能性に言及した。
そして政界には再編に向けた動きも加速してきた。石原幹事長は「民主党と自民党の二大政党がいずれも増税を巡って分裂する」と言い、国民新党の亀井代表は政界再編を見据えた新党構想を発表した。
亀井代表が新党構想を打ち上げた背景には、国民新党にとって最重要課題である郵政改革法案の成立が見通せない苛立ちがあり、こちらも連立離脱をちらつかせて野田政権を揺さぶっている。震災からの復興を万全にするには、郵政改革法案を成立させ、郵政株の売却によって増税を圧縮する方法がある。公明党は賛成しているが、自民党の小泉改革支持派が反対している。
野田総理が消費税増税を言い出して自民党を選挙モードに追い込み、対立を先鋭化させてしまえば、郵政改革法案を成立させ、郵政株の売却で復興増税を圧縮する事も出来なくなる。亀井氏にすれば政策の優先順位が逆だと言いたいところだろう。
亀井氏の新党構想は「一人芝居」と政界から冷ややかに見られたが、連携する相手の中には既成政党と一線を画す地域政党が含まれていた。その地域政党の代表格である「大阪維新の会」は27日の大阪府知事、大阪市長のダブル選挙で圧勝した。愛知県と名古屋市でも見られたが、こうした地域では既成政党はもはや守旧政党である。
2年前の総選挙での民主党に対する熱い期待は幻想であった事が分かり、とはいえスキャンダル攻撃しか出来ない自民党には一層の幻滅を感じ、国民は地方首長の唱える「改革」にしか光明を見出せなくなっている。これら地方の「第三極」は必ずや国政を目指して選挙に候補者を擁立してくる。「第三極」は今や再編の柱の一つである。
この夏に野田政権が誕生したとき、その課題は震災復興と原発事故対応の一点に尽きると私は思っていた。それを万全にした上で定数是正と選挙制度改革の難題に取り組み、さらには世界経済危機に対する経済の舵取りが問われていた。それで任期1年を燃焼しつくす。選挙モードに火をつける段階ではないと思っていた。
ところが国際公約をした以上、野田総理は消費税引き上げに突き進むしかない。「使い捨て」になるかもしれない路線である。野田総理は次期通常国会で2013年実施の増税を決めようとしているが、現在の世界経済を見れば、2013年の日本経済がどうなるか予測などつかない。
ヨーロッパの経済危機は中国経済に影響を及ぼし、それが日本経済にも波及してくる。一方で震災復興と原発事故を乗り越える事は急務である。その行方が分からずとも増税を決め、選挙モードに入る事は、この国の行方を神のみぞ知る世界に委ねる事になる。
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