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2011.11.26 「大阪維新の会ブーム」はすでに終わっている、大阪ダブル選挙 における事前予想と投票行動のギャップ
〜関西から(43)〜
広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)
おそらく、これが投票日以前の「大阪ダブル選挙」に関する私の最後のブログになるだろう。本来ならば、市長・知事選の当落予想も含めて選挙後の大阪の変化や全国への影響を語るべきだろうが、残念ながら私にはそれを分析するだけの材料や情報がない。それほど選挙情勢が日々刻々と変化しており、私の情報網のスピードがそれに追いついていけないのである。一歩遅れ、半歩遅れで付いていくのが精いっぱいなのだ。
そんな情報ギャップのなかで気になるのが、11月18日から20日にかけて各紙が一斉に行った世論調査の結果だ。各紙とも見出しは、市長選が「橋下氏先行、平松氏追う」、知事選は「松井氏、倉田氏競り合う」というあたりで足並みがそろっている。具体的な数字は示されていないが、その差は10%台とも1桁台とも言われており、いずれにしても接戦であることは間違いない。それも終盤に近づくにつれて、「大接戦」になるとの予想しきりなのである。
大阪市長選はこの間ずっと低調だった。過去3回の投票率は、33.3%、33.9%、43.6%というもので、30%台から40%台前半で低迷している。また、知事選の投票率はこれよりも少し高いが、それでも44.6%、40.5%、49.0%と、50%を超えたことがない。しかし今度の選挙は「ダブル選挙」ということもあって、有権者の関心がすこぶる高い。府選管と市選管は11月21日、期日前投票者数と不在者投票者数の中間集計(11月20日現在)を発表したが、市長選は計7万3290人で前回の1.7倍、知事選は計20万125人で前回の1.5倍に達した。
2011年9月現在、大阪市の有権者数は213万人、大阪府は711万人である。投票率を高く見積もっておよそ50〜55%だと予測すると、投票総数は大阪市が106〜117万票、大阪府が355〜391万票になる。大阪市長選の当選ラインを過半数、大阪府のそれを4割だとすると、大阪市長選は53〜59万票、大阪府知事選は142〜156万票を得票しなければ勝利できない。今年4月の統一地方選挙の「大阪維新の会」の得票数は、大阪市議選は33.7万票(33.1%)、大阪府議選は126.8万票(40.6%)だった。となると、橋下氏は大阪市内で20〜26万票、松井氏は15〜26万票をこれに上積みしないと当選できないことになる。
今年4月といえば、「維新の会ブーム」が絶頂のときだった。しかし今回のダブル選挙に関する世論調査では、「維新の会」を支持するのは全体の10%前後でしかない。これは「維新の会」が地域政党だと銘打っているものの、実態は“橋下私党”そのものであって、明確な支持基盤が形成されていないためだ。その時々の離合集散メンバーでつくった即席政党など、出来るのも早いが消えるのも早い。「維新の会ブーム」はすでに終わっているのである。
このように統一地方選とは一変した状況のもとで、1割支持程度の「維新の会」が3〜4割もの得票を獲得するのはいくらなんでも難しい、だから橋下・松井陣営は、全体の50%近い比重を占める無党派層を取り込む以外に方法がない。問題はその無党派層が橋下・松井氏を支持するかどうかだ。
調査時点での支持政党別投票動向では、橋下氏は維新支持層をほぼ固め、自民の2割、民主の3割、公明の4割の支持を得ているとされるが、肝心の無党派層は5割弱の支持にとどまっている。松井氏に至っては、維新支持層の7割弱は固めたものの、それ以外の政党支持層は1〜2割程度で、無党派層は2割強にすぎない。これでは「橋下氏先行」「松井氏一歩リード」とはいうものの、橋下・松井陣営が「安心できない」のも無理はない。
選挙の世論調査で重要なのは、調査時点での支持率もさることながら、その時点での各陣営の“勢い”をどう把握するかだ。前者は「スタティック」(静的)な指標であるのに対して、後者は「ダイナミック」(動的)な指標であり、勝敗を決するのは明らかに後者だからだ。競馬レースでいえば、橋下・松井陣営はスタート地点で先行したものの、第3コーナーからホームストレッチに入った現在、明らかに後続陣営の激しい追撃を受けている。このままで行けは、ゴール前で「かわされる」のは必至の情勢だろう。
その証拠には、各紙とも市長選では2割、知事選では3割余りが誰に投票するかをまだ決めておらず、選挙戦後半の展開次第では情勢が流動する可能性が大きいとの含みを持たせている。通常の選挙でも投票日ギリギリまで一定の「様子見層」はいるものだが、今度のダブル選挙では政策が「よくわからない」有権者が多いのでその傾向がとくに強いのだ。この層を「よくわからないまま」浮動票として取り込み、圧勝するのが橋下・松井陣営の戦略だったが、これだけ「様子見層」が多いことを見ると当てが外れたというわけだ。その所為か、終盤になって橋下・松井陣営に注目すべき変化があらわれてきた。兆候の幾つかを上げよう。
第1は、橋下氏が記者団に対して「投票率を上げるためにダブル選を仕掛けた。投票率が60%なければ維新は惨敗する。自民党、民主党、共産党が敵方になっているからきつい」と弱音を漏らし始めたことだ。だから最近の街頭演説では、オバサンや若者たちに向かって「投票に行ってね!」としきりに呼びかけるようになった。当初はこんなことは微塵も言わないで、大言壮語の繰り返しばかりだった。
第2は、「大阪の指揮官は自分ひとりでいい」といっていたのに、最近では「24色の輝く大阪」などと歯の浮くようなことを言いはじめた。「24色」とは大阪市の行政区が24あるので、それぞれの地域性を尊重して特色ある行政をやるというのである。“暗黒の橋下一色”で染め上げる大阪都構想を「24色の大阪」などと言ってごまかせるはずもないのだが、そう言わざるを得ないところまで追い詰められてきたということだろう。
第3は、最近大阪の友人から送ってもらった「維新の会」の法定2号ビラに、驚くなかれ、「だまされないでください! 大阪維新の会は大阪市をバラバラにしません。大阪市は潰しません。町会はなくしません。敬老パスはなくしません。」と書いてあったことだ。この選挙ビラは、橋下氏のいう「24色の大阪」と表裏一体ものであって、大阪市を解体する大阪都構想がいかに大阪市民の激しい批判に曝されているかをいみじくも示している。
麗々しく掲げた公約を平気で変えるのは「橋下流」の最たるものだが、しかし選挙戦の終盤になって大阪都構想の(名前は変えないで)中身を180度変えるなどというのは、もはや詭弁を通り越して「ウソ」というほかはない。それは、ダブル選挙で府知事選に出ている松井氏の公約とも根本から矛盾するものだ。有権者の目は、ダブル選挙であるがゆえにその矛盾に鋭く注がれている。
とはいえ、選挙は水モノだ。大阪市民・府民の有権者には「大阪維新の会」の本質を見破り、橋下・松井陣営の策略に打ち勝って、見事大阪に勝利をもたらしてほしい。これが大阪府立高校ОBからの心からのお願いである。
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