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TPPはおカネの損得勘定だけでは是非を問えないテーマだが、日曜夜にフジテレビ・関西テレビ系列で放送されている「Mrサンデー」で、TPP参加で日本の暮らしがどう変わるのかというシミュレーションをドラマ仕立てで見せていたので少し考えてみる。
野田首相がTPP参加表明した途端、それまで肝心な情報を秘匿したままでTPP参加推進キャンペーンに狂奔していた大手メディアが、掌を返すように、TPP参加が国民生活にどのような影響を及ぼすのかという問題を取り上げ始めた。
10日に予定された野田首相の“TPP参加表明”記者会見が延期されたことに多くのメディアが噛みついたワケは、“表明”以降の番組や新聞のために作りためていた「予定稿」が使えないことの鬱憤を晴らすためではないかと思わせるくらいの豹変ぶりである。
先日も書いたが、12日以降に各テレビ局で放送されているTPP関連情報が1ヶ月前から流れていれば、国民のTPPに対する見方や判断は大きく違ったものになっていただろう。
「Mrサンデー」は、TPP賛成派・反対派それぞれの主張を考慮しながらシミュレーションを行ったそうだ。作られた映像の内容をどう評価するかは、その人が現在置かれているポジションで違ってくるだろう。
営利目的の病院の出現を取り上げ、営利目的病院を認めたことで進んだ英国の“医療惨状”(非営利病院の経営難・医師などの海外流出)や従来から問題になっている民間医療保険社会米国のとんでもない医療状況も紹介していた。
食の安全性に関する問題についても、残留農薬や遺伝子組み換え農産品の取り扱いが米国寄りの劣化した基準に変わる可能性を指摘していた。
加熱専用の卵が販売されるようになったり、サメ漁規制でハンペン(蒲鉾もだが)が超高級品になった食卓の様子なども取り上げていた。
シミュレーションドラマの全体を約めて言えば、TPP参加で日本の暮らしや文化(住宅様式を取り上げていた)が大きく変わるというものだ。
本論に移る。
番組も、TPP参加のメリットを最初に出すのがスジだと思ったのか、オープニングは、輸入関税が撤廃されることで輸入品の物価が下がる話だった。
10年後にはコメの関税もゼロになっているという想定なのだろうが、「輸入農産品弁当」200円、「国産農産品弁当」980円という象徴的な比較やアイスクリームが安く買えるようになった家庭の風景を見せていた。
さらに、衣料品やベルトの現行関税率を示しながら、関税がなくなることで安く買えると紹介していた。
野田首相がTPPへの参加を表明する前の日に行われた衆参両院の予算委員会で、「TPP参加でデフレがより進むのではないか?」という質疑に対し、枝野経産相が「デフレが進むようなことはないと考えている」と答えていた。
円ドルレートが変動しない条件で素直に考えれば、輸入関税がなくなることで物価は安くなりその分デフレが進むはずである。
質疑応答はそこで止まったので枝野氏が何を根拠にそう答えたのかはわからないが、推測できるのは、
○ 農産品のごく一部の品目を除き、日本の関税率は元々低いので、関税が撤廃されたからといって物価にあまり影響はない。
○ 雑貨類はともかく、家電や事務機械などのブランド工業製品は、日本企業が逆輸入して国内で販売しているものが多く、価格下落ではなく利益上乗せのほうに回る。
○ 最後に、ほとんど言われていないが、15年ころに消費税がアップする予定なので、それが関税撤廃のもたらす物価下落効果を打ち消す。(物価指数は消費税を含む価格で算定)
関税や消費税よりも、マージン(粗利益)の率のほうが高い。だから、関税と消費税がともに5%の状況から、関税ゼロ・消費税10%に変わると、販売価格は下落する。
(消費税は、関税と違って転嫁できるものなのでコストに含める必要はない)
その意味で、2、3%の関税しかかかっていない品目であっても、関税がゼロになればちゃんと物価下落要因になる。
簡単に、関税と消費税の税率変更と物価の関係をみてみよう。
直接輸入しているディスカウンターが仕入れ価格から30%のマージンで価格設定している例:
【関税5%・消費税5%】→税込み小売価格1433円
輸入価格1000円:関税50円:消費税50円:本体小売価格1365円:税込小売価格1433円(消費税68円)
【関税0%・消費税10%】→税込み小売価格1430円
輸入価格1000円:関税0円:消費税100円:本体小売価格1300円:税込小売価格1430円(消費税130円)
【関税0%・消費税15%】→税込み小売価格1495円
輸入価格1000円:関税0円:消費税150円:本体小売価格1300円:税込小売価格1495円(消費税195円)
最初の二つを較べるとわかるように、関税が5%下がり消費税が5%上がった場合、マージン率(30%)が消費税率(10%)よりずっと高いことから、税込小売価格は下落する。
輸入と小売りのあいだに輸入商社などが入ると、そこのマージンも発生するので、関税ゼロによるコスト減少はさらに価格を下落させる要因になる。
このことから、100%を超える高率の関税がかかっているコメや乳製品は、工業製品をはるかに上回る価格下落をもたらすことがわかる。
ところで、冷静に考えれば、消費税も政府の税収(4%分)なら、関税も政府の税収である。
ただでさえ“財政危機”が叫ばれているのだから、9ヶ国(11ヶ国?)からの輸入に関税がかからなくなり税収が減ると、その分を別の税目で補填しなければならない。
現在画策されている消費税税率アップの目的は、増大する社会保障対応だとされているが、間違いなくTPP発効で発生する関税減収の補填も潜り込んでいる。
それでも小売価格が下がるのならゼニカネ勘定では損ではないが、価格支配力を有する大企業は、よほどの価格下落圧力が生じない限り、関税撤廃分を利益増加に回すはずだ。
TPP参加による輸入関税の撤廃は、消費税がアップするまでのあいだいくつかの商品が安く買える可能性を生み出すが、消費税のアップにより打ち消され、消費税が上がるにつれ価格も上昇することになる。
工業製品の関税撤廃については、グローバル企業を中心とした大企業の利益に貢献するだけで、一般消費者はその分を消費税でカバーさせられることになると考えたほうが実態に合うはずだ。
もっとずっと恐ろしいことに、消費税のアップは、それ自体が、グローバル企業=輸出優良企業の利益増加につながるものである。
これが、消費(付加価値)税が“悪魔的税制”と言える一つの根拠である。
国内売上高が3兆円以上ありながら、トヨタは、消費税を1円も納付していないどころか、輸出戻し税(還付金)を3千億円ほど受け取っている。
しかも、インボイス制度でないこともあり(あってもトヨタなど超有力企業にはあまり関係ないが)、その還付金には納品企業や外注企業が納税した消費税の分までが含まれている。
現在の制度である限り、消費税税率が上がれば上がるほど、輸出企業の戻し税(還付金)が増える。
還付金は、全体で3兆円と言われているが、消費税の税率が10%になれば、6兆円(消費税率3%に相当)にまで膨れあがる。
消費税税率を上げると輸出戻し税(=輸出補助金)が増大する、だから、さらに消費税税率をアップしなければならないというイタチごっこの側面もあるのだ。
米国の州税である売上税と日本や欧州の消費(付加価値)税は、この事実だけでも、似て非なるものであることがわかる。
さらに、3年間は減税幅が小さいとはいえ、法人税の減税も行われる。
財政危機と社会保障費の増大が同時並行的に進んでいるのだから、その減税分の補填は必須であり、法人税減税とTPP参加による関税減税は消費税の税率アップにストレートにつながっていく。
TPPで農産品の関税が大きく下がるか撤廃されるという前提だが、TPP参加による都市生活者の価格メリットは、消費税のアップにより、コメや乳製品に限られたものになる。
要するに、農家(農村)や勤労者の犠牲のうえで、グローバル企業が利益を増大できるようにするふざけた政策がTPP参加&消費税増税なのである。
別の言い方をすれば、賃金をアップさせずに消費税をアップできる“糊しろ”を生み出すために、農家を犠牲にする関税撤廃(TPP参加)に踏み出したのだ。
※ 関連投稿
「グローバル(輸出優良)企業があれほどTPP参加に執着するワケ[その1]:輸出ではなく輸入の関税撤廃こそ利益源」
http://www.asyura2.com/11/senkyo122/msg/123.html
「グローバル(輸出優良)企業がTPP参加に執着するワケ[その2]:恐いのは米国企業?それとも日本企業?」
http://www.asyura2.com/11/senkyo122/msg/131.html
「グローバル(輸出優良)企業がTPP参加に執着するワケ[その3]:デフレになじみデフレを利としているグローバル企業」
http://www.asyura2.com/11/senkyo122/msg/136.html
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