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日本は資源小国だから貿易立国しかないと、自由貿易がバラ色に描かれている。だが逆に、木材の市場開放が、自然資源を破壊し、森林の荒廃、限界集落の引き金になったのだ。どの国も、地域も、固有の資源を持ち、仕事と暮らし、文化と社会を築いてきたのである。
また自由貿易は、保護貿易と裏腹に、大恐慌後のブロック経済による市場争奪の歴史を持っている。1944年に、ブレトン・ウッズ体制で、ガット・IMFが発足し、現在のWTOとなった。だがブロック経済は、戦後もEU・アセアンや、1994年にNAFTA(北米自由貿易協定)が結成されている。
そして2001年のドーハ・ラウンド後に、二国間のFTA.・EPAが進展する中で、2006年にシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4か国でTPPが発効した。
これに2010年11月、オーストラリア、ペルー、アメリカ、ベトナム、マレーシアの5か国が加盟を表明し、米大統領を議長に2011年のAPECを目標にしてきた。そして野田首相が協議参加を表明する直前に、TPP9ヶ国首脳会議は、TPP交渉の大枠を決定した。TPPは、アメリカ主導のブロック経済なのだ。
TPPを廻る論議では、農業を軸に24分野での交渉参加の利害が争点となっている。またFTA・EPAとTPPが、バイかマルチか、日米間、日・中・韓間、日EU間の連携・市場開放も問われている。TPPは、アセアン・プラス3やアセアン・プラス6と並ぶ市場圏構想なのだ。
野田首相は、TPP交渉参加で、アジアの成長力を取り込み、日本のプレゼンス(存在感)を示して、震災・円高の苦境から貿易立国の繁栄を取り戻すと述べた。アジアの成長力を取り込みたいのなら、この市場圏の選択が論議されねばならない。そしてアメリカ主導のTPPは、米韓FTAにつながっている。
だが日本のプレゼンスは、米主導のTPP参加で、アジア分断の役割を担うものとならないか。また日本は、これまでもアジアの成長力を取り込みながら、失われた20年から脱け出せなかったのではないか。
そして自由貿易を前提に、国益の追求、メリットとデメリット、農業や医療など除外分野を担保する交渉力が論じられている。だが、円高を始め内外が直面しているのは、市場のグローバルな開放による矛盾が浮上し、歴史的な仕組みの変革に取り組むことではないだろうか。
加えて、貿易立国の繁栄は、成長神話が咲かせた「あだ花」ではなかったのか。
遡るが、中継加工貿易のスペイン・オランダは、国内に世界の工場を持つイギリスに、覇権の座を譲った。そして金融自由化した英国に、過去の栄光を見ることはできない。落日のアメリカも同じである。歴史的には、自由貿易も、貿易立国も、幻想でしかないのだ。
自由貿易の基軸には、技術文明が生み出した高い生産力と、市場のグローバル化、実体経済と金融の乖離、基軸通貨ドルの制度疲労がある。そして国際競争力の優先は、規模の利益と比較優位で、商品・産業構造を特定分野に偏らせ、内需の懐を狭隘(きょうあい)にするのだ。
政権交代後、鳩山元首相は、「せめて県外」と東アジア共同体を掲げて挫折した。その延長で、沖縄の日米合意具体化とTPP参加が要請されている。普天間では、日米と沖縄県民という対抗軸に、先の首脳協議で、オバマの圧力が加わった。
その背景には、リーマン・ショック、米国債の格下げ、ウオール街デモなど、落日のアメリカ経済・財政危機、中東テロ戦争の破綻がある。TPPと普天間移転も、米韓FTAも、厳しい大統領選を控えたオバマのアジア外交カードだ。その実体が、日米のFTAであることは間違いない。
これに対し、失われた20年の経済、活力の消えた社会、短命な首相という政治を抱える日本に、自主的な外交カードがあるのだろうか。その場凌ぎ、先送り、辻褄合わせは役立たない。一千兆円の累積債務は、何故つくられたのか。同じく、富国強兵の成功神話と敗戦、原発の安全神話も問われている。
TPP参加是非の論議は、損か得かの国益が軸である。だが、それは、グローバル市場争奪の現実に対応していても、二つの大戦の誘因となった市場争奪の歴史を忘れてはならない。日米従属同盟と成功神話にしがみつく日本は、欧州統合により自立の道を歩んだドイツに、何を学べばよいのだろうか。
そこで、鳩山前首相の「せめて県外や東アジア共同体」発言を教訓に、今、日本ができることは何かを考えたい。それは、東アジア諸国と、国レベルに止まらず地域レベルでも、地方自治体間や民間団体レベルで、更に連携を深めることではないだろうか。
こうしたアジア・シフトは、相互間の課題について、相手国べったりではなく、互恵の道を切り開くために、知恵を出し協力することが軸となる。そこから、新たな日米関係も生まれるのだ。
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