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【野田総理のTPPへの参加は、米国の長年の要請を取り入れた確信犯なのだ。(岡留安則の「東京ー沖縄ーアジア」幻視行日記)】
2011.11.12 05:01
■11月某日 野田総理は、記者会見を開いて「TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入ることにした」と表明した。これで、一番喜んだのは誰か。むろん、外貨獲得と雇用を生むことにつながるTPPに国家としての命運をかける米国であることは言うまでもない。他にもいる。松下政経塾に私財を投入した故人・松下幸之助だ。ここの塾生だった野田総理、前原政調会長、玄葉外務大臣という、関税枠を全廃して自由貿易を推進しようという3人の政治家を育て上げた人物だからだ。
「国家経営の哲理」を語り、「繁栄によって平和と幸福を」というPHP研究所のスローガンも松下幸之助イズムである。「人生ってすばらしい!」とか、「素直な心」、「昨日よりも今日を、今日よりも明日を」といった宗教がかった標語を好む松下幸之助が、創価学会の池田大作名誉会長との深い絆があったことは、「週刊朝日」も記事にしていた通りだ。「噂の真相」では、休刊号(04年4月号)の中で、「松下政経塾出身政治家に気をつけろ!」というタイトルで読者への最終メッセージを掲載した。休刊から7年、まさに現実のものになったともいえる。
民主党内部においても、山田正彦元農水大臣を中心にTPP参加見送りで二分され、「みんなの党」を除く全野党が反対したにもかかわらず、なぜ野田総理が時期早尚説や論議不足という世論を無視してまで参加表明を急いだのか。この一点がすべての事情を物語っている。
本日から野田総理が参加するハワイで開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)において、交渉参加の意思表示をするというスケジュールがあらかじめ決められていたためだ。野田総理のTPPへの参加は米国の長年の要請を取り入れた確信犯なのだ。思いのほか、民主党内でも参加への反対の声が強かったため、党内亀裂を恐れた輿石幹事長と参加慎重派の鹿野農水大臣が両者の間に入り、野田総理の参加表明記者会見を一日だけ延ばして玉虫色の妥協案を持ち出したためだ。対立した参加賛成派と反対派のどちらも都合のいい解釈ができるような政治決着を謀ったのである。
しかし、日本のマーケットに最大の期待を持つ米国が野田総理の「関係国との協議に入る」という表明に対し、さっそく歓迎の意を示している。その他の関係国がTPP推進のトップリーダーである米国に異を唱えることなどあり得ない。いずれ米国が、米、砂糖、乳製品、牛肉などの日本の高い関税率に「例外を認めない」と完全撤廃を迫ってくるのは目に見えている。その時になって、「参加できない」という日本側の言い分など通用するはずがない。野田総理にそれだけの強い決意もなければ、実務的な窓口役を担うことになる外務省や経産省官僚に対米交渉力があるとは思えない。それは、米軍基地を抱える沖縄県民が普天間問題で痛感させられたことでもある。
TPPも辺野古新基地建設も米国の政治的圧力なのだ。TPPで一番得をするのはどこの国なのかという事は、誰が見ても明らかだ。資本の論理からいっても、軍事力を含めた国力から見ても、日本の対米従属路線からいっても、米国にいいように利用されるだけだ。「日本は貿易立国なのだから、TPPに参加しなければ取り残される」、だから「船に乗り遅れるな」!との言い分や「現在の豊かさを次世代に」、「アジア、太平洋の成長力を取り込む」、「日本は蚊帳の外」といった推進派の主張は官僚がつくった都合のいい詭弁と疑った方がいい。
トヨタやパナソニックといった輸出産業にとってはバラ色との夢を振りまく一方で、「国民皆保険の医療制度や日本の伝統文化、美しい農村は守り抜く」と野田総理がいくら力説しても、公約破りの常習犯でもある民主党政権の言うことを信用できるはずがない。
国民向けの開かれた十分な議論やTPPで予期される深刻な事態に対するシュミレーションもやらないままに参加に踏み込めば、日本の将来は取り返しがつかないことになり、米国に骨まで絞られる属国になるのは間違いないだろう。気候条件などでサトウキビしか栽培できない沖縄の離島に住む人々の生活は、再び霞が関の国策により踏みにじられようとしている。まさに亡国の政治家たちによる犠牲者なのだ。
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