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田んぼない風景…亡国/TPPに警告 安田節子さんに聞く/米国産コメ安いけど安定供給の保証なし
東京新聞 2011.11.12 朝刊 「こちら特報部」
野田佳彦首相が十一日に交渉参加の方針を表明した環太平洋連携協定(TPP)。そのテーマは幅広いが、何よりも国民生活に直結する問題が「食の安全だ。福島原発事故による放射能汚染が消費者を不安に陥れている今、衰退する日本の農業にとどめを刺すことにならないか。「食の安全と真っ向から対立するTPPは亡国への道」と警告する食政策センターピジョン21代表、安田節子さん(64)に聞いた。 (佐藤圭)
TPPは「例外なき関税撤廃」が原則。日本が加われば、農林水産省の試算によると、自国で食料を賄う指標の一つ、食料自給率(カロリーベース)は二〇一〇年度の39%から13%程度に急落する。米国から安いコメが大量に流入するからだ。
「日本は農産物自由化の優等生だ。その証拠に世界最大の農産物純輸入国になっている。日本の食料安全保障を支える主食のコメ、地域経済に欠かせない北海道の乳製品や小麦、沖縄のサトウキピやパイナップルには高い関税をかけて守ってきたが、TPPによって壊滅的な打撃を受ける。米国が『放射能汚染のないカリフォルニア米が安いよ』と売り込みをかければ、みんな飛び付くだろう。水田がなくなった日本の風景を想像してみてほしい。途方もない損失だ」
ハイチでは一九九五年、米国の圧力でコメの関税率を35%から3%に引き下げたところ、安価な米国産米が出回り、農家は競争に負けて自給能力を奪われた。トウモロコシ原産地のメキシコは、関税フリーの北米自由貿易協定(NAFTA)に加盟した結果、トウモロコシ畑の多くを失った。「明日はわが身」ではないか。
安い輸入農産物は一見、消費者にはプラスに見えるが、「TPPは輸入国には関税撤廃義務を負わせるが、輸出国に輸出義務はない。十年後、五十年後も安定供給されるとは限らない」。
世界の穀物価格は、農産物輸出国での干ばつや洪水による減産、投機マネーの流入などによって高騰している。ハイチでは〇八年、食料品高騰に端を発した暴動が原因で首相が交代した。エジプトやリビアなど中東・北アフリカで相次いだ独裁政権の転覆劇も、食料価格高騰が引き金の一つになった。
コメの自給は日本の生命線
「世界の緊迫した食料状況をよそに、日本が安閑としていられるのは、主食のコメを自給しているからだ」
米国には市場価格が低迷した際、政府が設定する目標価格との差額を、生産者に支払う不足払い制度がある。
「実質的な輸出補助金だ。安価な穀物を大量に輸出することで相手国の農産物をつぶし、米国の穀物に隷属させる。そうなれば価格を上げていく。日本は、コメ以外の穀物と飼料では既に支配されている。TPPでいよいよ主食のコメも米国に明け渡すことになる。穀物の中でも、国際市場で流通する量が少ないコメの価格は急騰が激しい。コメの自給を守ることは日本の生命線だということを肝に銘ずべきだ」
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TPPに警告 食の安全 規制あってこそ/人工ホルモン剤 注入牛肉 食卓に/遺伝子組み換え 表示撤廃の圧力
東京新聞 2011.11.12 朝刊 「こちら特報部」
「自由貿易という言葉にだまされている。『規制は悪い』と言うが、食品や環境には規制を設けなければ、安全、安心は得られない。貿易は本来、相手国の安全基準を順守して行うペきだが、日本は日米同盟の名の下に、米国の身勝手な要求に従って規制を緩和してきた」
自民党の中曽根政権は一九八五年に策定した市場開放行動計画(アクションプログラム)に基づき、安全基準の緩和や輸入手続きの簡素化を推進した。二〇〇一年に小泉政権が発足すると、米国は毎年「年次改革要望書」の形式で、さらなる規制緩和の詳細な要望を突きつけるようになった。
〇九年の政権交代後、「対等な日米関係」を掲げた鳩山政権は、要望書の交換を取りやめたものの、菅政権下の今年一月、米国は要望書の復活板といえる「日米経済調和対話」で約七十項目の規制緩和の対日要望リストを提示。農業関連には「農薬の収穫後利用に関わる枠組み」とある。
農薬残留食品 あふれる懸念
「船で輸送する前の穀物やかんきつ類などに、長期保存などを目的に殺虫剤や防腐剤を散布するポストハーベスト農薬のことだ。収穫後にかけるため残留農薬の値は高くなる。日本の法律では認められていないが、日本政府は苦肉の策として食品添加物扱いにしてきた。米国はもっと農薬を使いたいから、ポストハーベスト農薬を認めろということだ。TPPで自給率が低下すれば、日本の食品はポストハーペスト農薬だらけになる」
牛海綿状脳症(BSE)対策として導入した米国産牛肉の輸入規制については、この日米経済調和対話に盛り込まれていない。
「米国は日本の全頭検査を撤底させ、月齢二十カ月以下に限って輸入を再開させた。政府は月齢制限の撤廃に向けて審議している。要求するまでもないということだ。米国産牛は人エホルモン剤使用など問題を抱えている。そんな肉がTPPで何の規制もなく日本の食卓に上る」
実際、玄葉光一郎外相は十日にホノルルで行われた日米外相会談で、米国産牛肉の輸入規制緩和に向けた手続き準備を開始したと述べた。
TPPの交渉分野に目を凝らせば、遺伝子組み換え作物の表示問題が浮かび上がる。外務省のTPPに関する文書でも、「問題が生じる可能性」と明記している。
米国の化学メーカーが開発し、九六年から栽培が始まった大豆やトウモロコシなどの遺伝子組み換え作物について、日本は同作物が原材料の食品に表示を義務付けている。「米国では、遺伝子組み換え食品表示はバイオ企業などの圧力で認められていない。米国は、日本の表示義務の撤廃を要求している」
TPPに加わると、海外企業が日本の安全規制によって公正な競争が阻害されたと思えば、日本政府を訴えることもできる。「米国企業が、表示義務の規制撤廃や賠償金を求める可能性がある。日本の食品包装にある『遺伝子組み換えではない』旨の表示もやり玉に挙がるかもしれない」
大企業が得をする自由貿易
TPPで食の安全が脅かされる一方で、誰が得ををするのか。「大企業だ。国内の規制が撤廃されれば、輸入農産物を扱う国内の大手商社にも巨大な利益が生まれる。自由貿易とは一貫して大企業の利益を追求するものでしかない」
野田首相は「高いレペルの経済連携と、農業再生の両立を図る」と大見えを切る。
「TPP向けの新しい農政などあるわけがない。鵬社能汚染のない地域の減反をやめてコメを大増産し、汚染地域に届ける。高い農業技術をもった福島の農家が、ほかの地域で活躍できるよう支援する。それしか再生の道はない。何を生産し、何を輸入するか。それを決めるのは日本国民だ。米国企業に押しつけられるいわれはない」
<デスクメモ>
失言や妄言、大風呂敷で前任者が追い込まれたからといって、首相が考えをギリギリまで明かさないのはひきょうだ。これでは議論しようにも議論できない。熟慮するフリをして、後ろ足で砂をかけるような表明だった。国のあり方や方針をこんなぶざまな形で示すなんて、国民をこけにするつもりか。(立)
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