http://www.asyura2.com/11/senkyo122/msg/136.html
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このシリーズの締めくくりとして、TPP参加とデフレの関係を考えながら、それはグローバル企業の利益とどうかかわるのかをみていきたい。
[その1]、[その2]で説明してきたように、TPPへの参加は、米国の無理強いであるように見えながらも、実のところ、グローバル企業が利益を拡大するための政策を「外圧」で実現しようとする側面も強くある。
それが国民多数派の生活条件向上に結び付くなら、少々のことなら目をつむってもいいが、ただたんにグローバル企業の利益(配当&内部留保)が膨らむためのものでしかないのなら断じて認められない。
これまで述べてきた以外に、グローバル企業がTPP参加=「外圧」で手に入れたいものは、雇用形態や解雇方式でより自由度を高められることだろう。
それらは、ワーキングプアや働き盛りの生活保護受給者増大という、この10年間で大きく問題視されているテーマに直結するものである。
いまだ可決していないが、与党も派遣労働者問題に規制をかけようとしているくらいだから、グローバル企業は、内政に委ねたままであれば、自由度が増すどころか規制が強まると恐れているはずだ。
日本のグローバル企業が、自由主義的経済合理性で雇用問題をすべて割り切るとは思っていないが、その傾向は年々強まっているし、従業員にやさしい企業でもいざという時のために、できるだけ規制されずフリーハンドでいたいと考えているだろう。
そのように考えているグローバル企業にとって、外国に進出する企業ができるだけ“自由”に活動できる条件を手に入れようとする米国の姿勢は、「渡りに船」である。
解雇条件や非正規雇用などに関する日本の労働規制は自由な企業の活動を阻害すると主張し、米国と同等の規制にとどめるという合意に達すれば、その“恩恵”を手を汚さずに享受できる。
続いて、TPP参加が15年以上も続いているデフレ(不況)にどのような影響を与えるのかという本論について考えてみたい。
TPP参加問題のテレビ討論や議論を見聞きしたが、TPPに参加すると輸入物価が下がりデフレがもっと悪化するのではないかという疑念や問題提起がけっこう出されていた。
先日投稿した「TPP:変動相場制における関税撤廃の意義:関税撤廃の効果は短期間のみで中期的には円高になって喪失」(http://www.asyura2.com/11/senkyo121/msg/777.html)でも、「TPP参加となれば、輸入品の価格は一気に下がる。つまりTPPは、低所得の国民にとってやさしい政策なのだ。 関税では官僚に無駄遣いされておしまい」(http://www.asyura2.com/11/senkyo121/msg/777.html#c2)という意見をいただいた。
デフレが経済社会に及ぼす影響はかつて何度か書いてきたが、基本的には次のような概略的説明ができる。
○ デフレでは資本財や土地の価格も低下していくから、設備投資や不動産開発(住宅購入)は、更新など必要不可欠なものや価値性の高い物件に限られ、他はぎりぎりまで引き延ばされる。
これは、大きなインフレ要因である資本形成へのおカネ投入が減少することだから、それがさらにデフレを深化させるというデフレスパイラルに陥る主たる要因である。
インフレであれば、将来の名目資産価額や機械設備価格の上昇を考えるので、景気の見通しが悪くなければ投資に積極的になる。
○ 設備投資や土地取得(住宅購入)など多額の投資は、その多くが借入金で賄われる。
借入れ後に貨幣価値が上昇していくデフレ状況では、返済負担が実質的に増大することになるので、借入れを忌避する傾向が強くなる。
この間、優良企業を中心に、稼いだ利益を借入金返済に優先的に回してきた(いる)のもそのためである。
デフレ状況では、債務を減らし、過去の債務もできるだけ早く解消したほうが有利である。
個人の場合は、デフレで所得そのものも減少する可能性が高いので、借入れは実質負担の増加とダブルで重荷になる。
インフレであれば、よほど過剰な金利でない限り、取得した資産の名目価値の増加や収入(所得)の増大が見込めるので、実質的な債務負担は時間経過とともに軽くなっていく。
○ デフレを約めて言えば、時間の経過とともに、モノの価値が下落しカネの価値が上昇する状況であることから、企業やヒトは、モノをできるだけ持たないように、カネはできるだけ持つように動くため、生産も購買も控えられ、国民経済が沈滞する(非活性の)経済状況である。
デフレについては、「内外価格差」(購買力平価が為替レートに比して高いのは先進国の証)が縮まるとか、生活条件が良くなる(金融資産家や限定的な存在だが安定した中高所得者については確実にそう言える)といったデフレ是認論(良いデフレ悪いデフレ論)もあるが、この15年超に及ぶデフレ基調下の日本経済を考察すれば、国民経済総体にとってデフレが望ましいものでないことがわかる。
最近、財務省も、財政の持続性を考慮するかたちで、デフレ容認=インフレ危険論(金利問題が根拠)を唱え始めている。
銀行は金融資産家と同じポジションだから当然だが、製造業が多数派である日本経団連も、デフレ状況に心地よさを感じ始めているように見える。
それは、新興国や途上国との国際分業拡大や一次産品の国際価格の上昇を考えると見えてくる。
デフレは円高誘導要因だが、それは、資源や機械装置など生産活動に必要なものから、国内市場で販売する完成品までが安く輸入できることを意味する。
日常生活に不可欠の食料は、一般勤労者の支出でなお高いウェイトを占めるものだから、野菜や果物そして加工食品の価格が下がっていることで、農家には大きな打撃になっているが、勤労者の給与を抑え込むことができる。
日本では不思議なことに、円安待望論が常に渦巻き、“円高被害”や「円高脅威論」が声高に叫ばれ、為替レートに関するトータルな利害が冷静に語られない状況にある。
韓国は、ウォン安で輸出企業が国際競争力とりわけ日本企業との競争で有利になっていると言われているが、国民の生活はウォン安のために困窮度を深め、サムスンや現代など一部の財閥系優良企業を別にすれば、企業の経営も苦しくなっている。
一次エネルギー資源もだが、韓国の産業基盤は日本よりもずっと貧弱だから、輸出向け製品を生産するためにも、日本から基幹部品や製造装置を輸入しなければならないからである。
デフレ状況をそれほど悪いものとは思わなくなった日本経団連など財界や官僚機構は、TPP参加の最強力推進派である。
グローバル企業の利害関係を想定しながら、輸入関税撤廃と物価の関係を考えてみる。
● 関税撤廃で仮にデフレが深化してもグローバル企業は問題としない
02年から07年を経て、現在200兆〜300兆円と言われる内部留保があるといわれるグローバル企業は、その意味で金融資産家でもあると言える。
東証一部企業の半分が実質的無借金経営になったと言われている。
よほど投機に才覚がある人を除けば、金融資産家にとって、インフレで貯め込んだおカネがインフレで減価していくことは破滅的問題である。
BSフジに出演していたコンサルタント会社経営の中国人宋氏が、「ぼくの友達はインフレになったら政府や日銀の連中を殺してやると叫んでいるよ」と冗談めかして話していたが、グローバル企業は、宋氏のお友達と同じようなポジションにあると言える。
● 関税撤廃による物価下落は農家を直撃する。
日本の工業製品の関税率は、皮革製品など少ない品目を除くと極めて低い。
TPP参加9カ国のうち日本がFTA/EPAを締結していないのは、交渉が完了したペルーを別にすると、アメリカ・オーストラリア・ニュージーランドの3カ国だけである。
アメリカとは国際水平分業が確立していると言える。日本の食料自給率が下がってきた最大の要因は、この国際水平分業である。建前とは裏腹に、大豆や小麦そして飼料用トウモロコシなどを増産するわけにはいかないのである。農業は、産業の輸出振興のためにずっと犠牲になってきたのである。
このようなことから、TPPで工業製品分野の輸入関税が撤廃されても、物価を下落させるというより、グローバル企業の利益増加に回ると予測する。
可処分所得の減少状況と飽和的な小売業の競争環境から、物価が下がりやすいのは確かだが、できるだけ高く売って利益を確保したいのがメーカーであり小売業である。
タックスフリー(免税)は、ベネフィットフリー(利益上乗せなし)というわけではないから、免税店で買うより市中で買う方が安い商品は数多くある。免税のタバコも、消えている税金の額を考えれば値引きはわずかなものだ。
このような話がよりよくわかるのは、ここ3年ほどで40%近く円に対して安くなっているユーロ通貨圏のワインやブランド品などが、ほとんど安くなっていない現実を見たときだろう。
ドルも円に対し35%ほど下落しているが、ドル建て輸入農産品はやや下がった程度でドル安のレベルには追いついていない。バナナなども、セール対象として活用されているのが実状だ。
外国為替レートの変動の大きさに比べれば、工業製品にかかっている関税は一部を除きずっと小さいのだから、そのような現状からどうなるか推して知るべしである。
TPP参加で物価が明瞭に下がるとしたら、即時に関税が撤廃された場合のコメと乳製品くらいだと思う。
(ちなみに、現在品薄のバターの関税率は、35%+1,159円/Kgで、1箱450gのバターには輸入価格の35%の他に522円の関税がかかる。エシレバターが高いはずだ(笑)。スーパーなどで売られているバターは350円程度なのでその倍の関税がかかることになる)
加工用や飼料として輸入される農産品は、輸入品のシェアを引き上げ国内の農家を圧迫するが、価格下落に直結するわけではないと考えている。
乳製品には大企業も関わっているが、これまでの歴史を断ち切るという割り切りができるのなら、国内産から手を引き、NZや豪州から輸入した乳製品を販売するという逃げ道もある。
付加価値的には国内産生乳を原料として製造販売するのと変わらないものが得られるだろう。
こうやって考えると、TPP参加がデフレに及ぼす影響は、食料品に関しては確かにあるが、工業製品については、デフレ脱却(インフレ)要因ではないことは確かと言える程度であることがわかる。
TPP参加は、グローバル企業や一部の大手企業の利益にはつながっているが、その利益を従業員や取引先に還元しない姿勢が続く限り、一般勤労者・農家・スーパーを含む小売業のメリットにはることはない。
(年金生活者は、給付水準がこれまでのように維持されるのなら、ゼニカネだけで見る限り、TPP受益者と言えるかもしれない)
とりわけ打撃を受けるのが、津波や放射能汚染で過酷な状況に追い込められている人たちもいる農家(畜産家を含む)や漁師と言うことになる。
おカネでどうこうできない国柄という問題をとりあえず別にすると、国内で打撃を受ける人たちがいれば、政府は救済策を講じることになる。
ゼニカネの問題に矮小化したくはないが、その財源は消費(付加価値)税の増税で賄われようとしているから、TPPの受益者であるグローバル企業の負担ではなく、ただでさえ過酷な状況に置かれていく国民多数派の負担になるということになる。
消費(付加価値)税の増税は、間違いなく明確なデフレ要因だから、これからの日本はさらにつらく厳しい経済条件が続くことになる。
デフレから解放されるのは、おそらく、政治的な問題からなかなか収拾することができないインフレに転化したときであろう。
それが、3年後なのか、5年後なのか、10年後なのかわからないが、ひたひたと近づいていることだけは確かだ。
そのとき、政策次第では、現在のデフレが懐かしく思えるかもしれないほど悲惨な状況になりかねない。
グローバル企業は、そのときまでには資本を逃避させているから打撃を受けない。
そのキャピタルフライトこそが、制御できないインフレの序章になると考えている。
野田首相は、誰かの説得を受けているのか、政治的策謀なのかはわからないが、予定していた“決断”の公表を先延ばしにしたという。
心ある民主党の国会議員には、できる限りの手段を講じて、APECでのTPP参加表明を封じてもらいたいと切に願っている。
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