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[その1]で、TPPを含むFTAの「関税撤廃」について、輸出面で得られる利益の限定性と輸入面で得られる利益の確定性・永続性を説明した。
そこで示した論理に従えば、グローバル企業は、家電や衣料など自社ブランドの完成品を大量に輸入している中国とのあいだで工業製品関税ゼロのFTAを結ぶことが大きな利益であることがわかる。
現時点では、中国側の事情だけではなく、日本のグローバル企業も、輸入関税の撤廃で得られると利益と中国ブランドの国内市場への浸透で被る不利益をはかりにかけて損得を勘定している状況だろう。
機会があれば書きたいと思っているが、薄型テレビの低迷に象徴されているように、家電のグローバル企業は韓国や中国と国際競争しなければならない品目(製品)にこだわり続けていると、今後の持続的成長は見込めないと思っている。
近代を諦めるのなら別だが、現在の生活様式を持続させたいのなら、規格大量生産品は国内生産を縮小し海外に移転し、国内製造業は、移転先及び中国・韓国のメーカーに輸出する製品に特化していくべきである。
とは言っても、雇用問題や地域問題から先行して海外移転という流れはできないし、勧めない。
近代産業テクノロジーで先行している強みを活かした高付加価値・高競争力の製品ウェイトを高めながら、普及品になってしまった製品から順次に海外に移転し、そこでの生産を増大させることで、日本からの高付加価値製品の輸出も増大させていく構造をつくることしか日本の産業の未来はないと考えている。
総花的な製品ラインアップにこだわっていると利益が縮小し、そのための研究開発や工場建設も不如意になる。
金融とちがって、製造業の国際分業は、相互が利益を受ける可能性がある。移転先で現地の人たちを雇用することでその国の購買力がアップし、日本からの高級品輸出も増大させられる。
私に言わせれば、農業(農家)より以上に「改革」が必要なのは、これまで蓄積してきた“既得権益”に寄りかかりすぎて、新しい国際経済環境への対応を怠っているグローバル企業だ(笑)。
本題に戻り、今回は、農業問題や医療・金融問題について考えたい。
気持はわかるのだが、反対派にひとつ苦言を呈させてもらうと、TPPがもたらす弊害が米国企業によってのみもたらされるという見方が強すぎるように感じる。
政府調達分野については、外国企業によってもたらされる不利益でいいだろう。
ただでさえ政府調達のパイが小さくなっている状況(これがデフレの大きな要因でもある)で、外国(米国)企業が参入するようになれば、日本企業は純粋に売上も利益が減少することになる。
公共事業は人手が必要だから、元請は外国企業でも施工業者は日本ということなら利益が減少する範囲で不利益は済むが、見積価格を下げるために安い賃金の労働者をプロジェクト期間限定で連れて入ることが許されるようになってしまえば、建設業者の不利益にとどまらず雇用が大きく損なわれることになる。
医療や金融についても、ノウハウや資本を持ちながら自由にアクセスできなかった米国企業がいちばん多くの利益を得るだろう。
米国企業と言っても金融(保険を含む)や医療が中心であり、彼らの利益=国民からのカネ吸い上げということになり、国民生活はさらに疲弊の度合いを深める。
しかし、資本力やノウハウで劣るとはいえ、同じ分野には確固たる日本企業も存在する。
「混合医療」の解禁で生まれる民間医療保険は、これまでないまったく新しい市場だから、米国保険会社が80%のシェアを握ったとしても、20%は日本の保険会社のものになる。
TPPという「外圧」がなければ、「混合診療」の解禁は難しい情勢だから、保険のグローバル企業はTPP賛成になる。
営利企業による病院などの医療分野への進出も同じ話である。
TPPでいう自由化は、内外非差別だから、日本企業も病院経営に参入できる。介護保険制度創設以来介護関係の企業が一気に増えたが、高齢化社会ということを考えれば病院経営は実に魅力的な投資分野であり、それが「混合診療」とともに可能ということであれば、知恵の出し方で大きな利益を手にすることができる。
この分野では、病院建設を請け負う可能性もあるゼネコンも利益のおこぼれにあずかる。
しかし、「混合診療」も営利企業の病院経営容認も、国民多数派にとっては、今以上の負担を強いられる話である。
自由診療を受けたりや株式会社病院に行くのをやめればいいという反論もあるかもしれないが、あらゆることが連関している近代社会ではそういう話では済まない。
「混合診療」が解禁されたら、04年の混合診療解禁問題を通じて生まれた保険外併用療養費は自由診療に移るだろう。ガン治療などで藁をもすがりたいひとは自己負担が増大する。
営利病院の増加も、巧妙な宣伝と仕掛けで高中所得者の人たちを呼び寄せるようになると、同じ地域にある他の非営利(微妙な話だが)病院の経営は苦しくなり、ゆくゆくはほとんどの病院が営利事業として営まれるようになるだろう。
営利事業だから、当然、受ける必要のない検査や治療、飲む必要のない薬剤も勧められるはずだ。ただでさえ弱い立場にある患者は、官僚や政治家が米国にそうできないように、なかなかノーと言えない。
最後に農業問題に触れる。
この問題も、外国から安い農産品や危険な農産品が入ってくることで、農業が壊滅的打撃を受けたり、食生活の安全が脅かされるという観点で語られている。
確かにその通りだが、なにもそういう結果をもたらすのは外国(企業)だけとは限らない。
食の安全性については、日本では農薬規制が行き届くようになったことや輸入水揚げ前の“消毒”がないことから、外国から輸入される農産品のほうがずっと問題が大きく危険であることは確かだが、農家が受ける打撃については違った見方ができる。
あるコメント欄で書いたが、日本のコメづくりが危機的になるとしたら、外国人の手ではなく日本人の手によってだと考えている。
土壌の疲弊や干ばつで苦悩している米国やオーストラリアの農業には、日本にコメを大量にかつ持続的に輸出できる力はないからである。
可能性があるのは、日本の商社などが、ベトナム北部などで広い土地を取得し、現地の人をつかってジャポニカ米を生産し日本に輸出することだと思っている。
国内に関しても、野田政権が農地の集約による大規模農家の育成を政策に掲げているが、そのあとに続くのは、病院と同じように、営利企業の農業参入容認だと予測している。
海外でのコメ作りと国内での農業参入が同じ企業であれば、国内の農地は、野菜や果物に特化したかたちになっていくだろう。
それで日本の自然環境や歴史的文化が守られるとはとうてい思えない。TPP参加がどうなるかわからないが、農家の方々には、自家消費だけでも農地を手放すことなく、田作りコメ作りを維持していただきたいと願っている。
こうして考えていくと、なんのことはない、グローバル企業が限定的ないし縮小的な国内市場で少しでも多く儲けられる機会を手に入れようとする策の一つがTPPであることがわかる。
まさに「外圧」を利用した自由主義的国内「改革」がTPP参加の目的なのである。
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