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11月に入ってからの報道各社の世論調査では、野田佳彦内閣の支持率は軒並み50%を割ってしまっている。内閣発足後の支持率の下落は珍しいことではないが、それにしても前月比の低落度が大き過ぎる。共同通信調査では、1ヵ月で13.5ポイントも下落している。私の耳に入る野田首相の評価では、実直な人柄は認められているものの、「官僚の言いなり」、「説明不足」という印象が一段と強まっている。おそらく支持率下落の理由もそこにあるのだろう。
野田首相は「官僚の力を120%発揮させる」と意気込んでいたが、言いなりになれば彼らは200%の力も発揮するだろう。ただ、その力を出す方向が正しいかどうかは別問題だ。これでは民意の代弁者ではなく、官僚の組織的利益に沿う“官意”の代弁者になりかねない。
消費増税法制化後に国民の信を問う:“追認民主主義”は近代国家の政治手法ではない
さて野田首相は、11月3日のG20首脳会議の場で消費税増税について、「2010年代半ばまでの10%引き上げ」を明言した。この発言をメディアは国際公約と受け取ったが、首相は同行記者団に「従来の政府方針だ」と弁明。自らは国際公約と断定しなかった。
また、消費税増税の是非を問う衆院総選挙については、「法案が通り、(増税)実施前に信を問うやり方にしたい」と語った。これでいよいよ首相の目指す増税シナリオが明らかになってきた。首相は、G20での発言を“国際公約”となることを願い、消費税増税が世界に公約した既定路線となることを狙ったのだ。
だが、首相は、今回の所信表明演説の中で一言も消費税増税について言及しなかった。実に奇妙なことだ。これから首相は、「消費税増税は国際公約だから、これを実施しなければ国際信用が失墜する」との論法で突進するつもりだろう。だが、この増税シナリオが不首尾に終わっても、首相や政府の国際信用が失墜するだけで、必ずしも日本の信用失墜とはならないだろう。
実施を法制化してから国民の信を問うというのは、結婚届を出してから親の許しを乞うのと同じこと。このような“追認民主主義”はとても近代国家の政治手法とは言えない。これに対して、自民、公明両党は、消費税増税法案の国会提出前の解散・総選挙を強く要求した。当然である。
特に、今回の消費税増税は、大幅であることに加え、「税・社会保障の一体改革」の一環として位置づけられているから、先に選挙で信を問うのは当たり前だ。各党は、それぞれの税制改革案と行政改革案を高く掲げて国政選挙で審判を受けるべきだ。
TPPも“国際公約”にするつもりか:生煮えでの参加は国論に亀裂を生む
ところで、首相はハワイでのAPECで、TPP参加を明言するつもりらしい。またもや“国際公約”の国内での政治効果に期待しているのだろう。実は、この“国際公約”を先行させることこそ、現在の日本の官僚政治の最大の切札なのである。
すなわち、外交舞台での発言の原稿を書いて、それを巧みに首相や閣僚に吹き込んで功名心を煽り、国内での決定手続きを単なる追認過程としてしまう。こんなカラクリに首相は気がつかないのか。一体、民主党の政治主導とは何なのか。自民党のほうがよほど官僚にとって手強い相手であっただろう。
問題は、日本が一致結束すべき今、生煮えの議論で消費税増税とTPP参加に走ると、国論に深い亀裂を生むことだ。それに、今のシナリオでは、決して政治的成功を収めることはできない。首相の見通しが甘過ぎると言わざるを得ない。
http://diamond.jp/articles/-/14804
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