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野田政権の対米追従 警鐘 オバマ再選戦略の影 「太平洋の大統領」演出
東京新聞 2011.11.08 朝刊 「こちら特報部」
野田政権の目指す方向が浮き彫りになってきた。米軍普天間飛行場の沖縄県内移設を具体化し、環太平洋連携協定(TPP〕を推進し、消費税を引き上げ、武器輸出三原則を見直す―。いずれも自民党政権でさえ慎重だった難題に踏みだそうとしている。いずれも「対米追従」批判を免れない内容であり、官僚主導やオバマ米大統領の来年十一月の“再選戦略”の影も。識者はどうみているか。 (秦惇栽、中山洋子)
TPP
TPPは、米国が自国の輸出拡大と雇用創出を狙って主導しており、すべてのモノの関税を原則撤廃して自由化する。中国や韓国、タイ、インドネシアなどは参加しない。野田佳彦首相は、十二日から米ハワイで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で参加を表明する方針とみられる。
第一生命経済研究所の永浜利広主席エコノミストは「日本が参加すればTPPの経済規模は桁違いに大きくなる。輸出倍増計画を掲げるオバマ大統領にとって、日本の参加が実績になる」と、再選戦略の影響を指摘する。
一方で、TPP交渉は「大統領選に利用される分だけ、具体的には進展しないのではないか」とも。「再選を控えたオバマ大統領は、米国世論を意識してむちゃな要望を出してくる可能性もある。だが、そうなると他の参加国が通さないはずだ」と推察する。
「門戸開放と機会均等は、二十世紀初頭以降の米国の対外政策における伝統だ。日本だけでなく太平洋全域を対象に門戸開放を実現することは、米国内向けのアピール材料にはなる」と、同様に再選戦略の影響を指摘するのは東洋学園大の桜田淳教授(国際政治)。「オパマ氏にとって『太平洋の大統領』という自分の存在証明を強く打ち出すことにもつながり、TPPはその舞台として演出できるだろう」という。
学習院女子大の石沢靖治学長(政治社会学)も「TPP参加は米国主導の経済ブロックに入ることを意味する。しかし、日本の貿易額だけをみるなら米国より中国のほうが大きい。欧州への対処も考えなければならない。オパマ大統領が求めるから日本も参加するというのでは、戦略的ではない」と、米大統領選への配慮が対外戦略を見誤る可能性を懸念する。
普天間
識者が「対米追従」の色合いが最も濃いと口をそろえるのが、沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場移設問題だ。政府は同県名護市辺野古に移設するため、環境影響評価(アセスメント)の最終段階に当たる「評価書」を年内に同県に提出する方針を決め、米側に伝えた。
軍事評論家の神浦元彰氏は、オパマ大統領が野田首相に普天間問題の前進を求めた背景について「少し大統領選を意識しているのかもしれない」という。「沖縄の地元紙が、昨年から今年にかけて普天間飛行場との統合案もある米軍嘉手納基地(嘉手納町など)内で、住宅建設が急進していると報じた。米国は実質的に辺野古移設をあきらめたのではないか」と指摘。辺野古移設を進めるかのような動きは「打つ手がない現状を隠す米国のポーズにすぎないのでは」とみる。
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官僚主導 説明足りぬ 「国を売るようなもの」
外交評論家の天木直人氏も「日本が辺野古移設に固執する理由が分からない。米議会から辺野古移設以外の案(嘉手納統合案)も出ている。野田政権は官僚主導で戦略がないため、最初から米国と交渉する気がない証拠だろう」と、対米追従に終始する日本の姿勢を批判する。
日米安保のツケ回った
一方、「スターリン暗殺計画」などの著書がある推理作家の檜山良昭氏は、「根本約に日米安全保障条約で日本が自国の安全を米国に依存している以上、普天間問題もTPP問題も対米追従にならざるを得ない。米国の怒りを買わないように、ご機嫌取りになってしまう。自分で自分を守ることもせず、一番楽な方法をとってきたツケが、いま普天間問題やTPP問題で回ってきた」と指摘する。
消費税
消費税引き上げの「国際公約」はどうか。米国はじめ国際社会は、日本の財政再建に厳しいまなざしを向ける。野田首相は先のG20首脳会合で「消費税を二〇一〇年代半ばまでに10%に引き上げる」と表明した。
天木氏は「日本はギリシャとは違うと言いたいのだろう。しかし、裏を返せば基軸通貨ドルを守るため、国際通貨基金(IMF)体制が崩れては困る米国の意向通りであり、これも財務省主導だろう」という。
一方、永浜氏は、消費税引き上げ表明について「米国のプレッシャーではなく、財務省の意向」と指摘。桜田氏は「日本の政策課題がオバマ氏の再選戦略に利用されているという読みは一見もっともらしいが、普天間問怒や消費税問題はお門違い」とみる。
石沢氏も、消費税引き上げの国際公約について「米大統領選とは関係ない。野田首相は言うべきことを言った」と評価する。日本の政治家は既得権にこだわり、これまで問題の本質に切り込もうとしなかった。ギリシャの財政問題はイタリアに飛び火し、先進国の財政が深刻なことを示した。日本国債が暴落しないのは消費税率を上げる余地がまだ残っているため。野田首相は週一回でも記者会見し、消費税の必要性など巷説明すべきだ」
武器輸出
それでは、日本が戦後続けてきた「武器輸出三原則」の見直し問題はどうか。民主党内では前原誠司政調会長らが見直しに積極的だ。
天木氏は「これは対米追随よりも経済界の要求か強い。家電業界や海外への産業移転も行き詰まり、技術革新も望める武器が商売になるとの思いもある」とみる。「野田首相はオバマ大統領再選というよりも、対米追随すれば済むと思っているのではないか。自民党政権以上に対米従属の意識が強い。自民党は追及しづらい状況だろう」と分析する。
神浦氏は「大統領選は関係ないと思うが、日本政府は明らかに米国にごまをすっている」と断じる。「野田政権が長期政権の後ろ盾と引き換えに武器輸出三原則を崩すのならば、兵器と一緒に国を売るようなもの」と非難。「日本の民間技術は優秀で軍事技術と合体すれば高性能の兵器製造も可能だろう。一時的にはメーカーも潤うかもしれないが、日本のような資源も市場も海外に依存している国にとって、戦争や政情不安こそが大敵。長期的な視野に立てば経済への打撃は計り知れない」と警戒する。
経済評論家の上念司氏は、米国では大統領選に向けてさまざまなロビー活動が活発化しているという。「日本をたたく方が票になると踏んでいるうちは、日本から雇用を奪う施策も歓迎されるが、米国もー枚岩ではない。日本はむしろこの機会に、日本経済が復活して日米関係が良好になった方が、米国の利益になると主張し、積極的にロビー活動すべきだ」と提案する。
<デスクメモ>
七日の衆院予算委員会は低調だった。閣僚に与党が質問するのだから当然か。ならば与党は質問をやめたらどうか。政府と与党の調整は官邸でもどこででもできる。国論を二分する懸案が山積しているのだ。野党がたっぷり時間をとって、政府の見解をただすべきだろう。国会は本当に無駄が多すぎる。(立)
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