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昨夜(8日)BSフジで放送された「プライムニュース」に、元大蔵官僚の榊原英資青山学院大学教授と伊藤元重東京大学大学院教授が出演し、ユーロ危機とTPP問題おまけとして財政問題について議論を交わした。
TPPに対するお二人の立場はご存知だと思うが、榊原氏はTPP参加に反対で、伊藤氏は参加推進のために積極的に動いている。
誰のためなのか血眼になってTPP参加に向かう世論の形成に励む政府ですら、「開国」や「改革」そして「未来」といった情緒的な言葉でしかTPP参加の理念は語れていない。
TPP参加で今後の日本(国益)はどうなるかという肝心な問題についても、輸出企業のメリットをあげる程度で、慎重派が提示している疑念や危惧には、ただ“大丈夫”と口先だけのゴマカシに終始している。
政府にTPPへの早期参加を要請する組織の会長を務める伊藤氏も、TPP参加に賛成する理由を問われ、「参加しない理由がないからだ」、「TPPに参加することすらできないようでは先がない」と言うだけで、TPP参加がもたらすメリットを具体的に説明することはなく理念的、抽象的な話しかしなかった。
伊藤氏は、フジテレビ若松論説委員長が、経産省と農水省がTPP参加後の日本経済について試算していることを踏まえ「円高とか為替水準とかなかなか読めないですが、5年後10年後の日本のメリットを正確に見通せるものなんですか?」と問いかけると、「30年間ずっと国際経済学を勉強してきたが、過去200年間、開国しないで栄えてきた国はない」とだけ答えた。(日本の江戸時代は開国しないで栄えた例外とも指摘)
具体的な将来のメリットを提示できないことはさておき、国際経済学者として東大の大学院で教えているひとが、国際経済について実にイイカゲンな理論を披歴するものだと驚いた。
過去200年間に近代的に繁栄した国々の歴史を考えれば、「保護政策をとりながら産業を育成強化し、国際競争力で優位に立ったら、諸外国に市場開放を迫り自国製品の販売市場を確保する。そのため、ときに、武力を行使し、暴虐も働く」というのが概括的な説明になる。
(一方で、市場開放を迫られた国の多くは、国民生活の疲弊に苦しみ、その状況を打破するために多くの犠牲を払う戦いを挑むことも多い)
このような概括的説明は、19世紀の英国にも、19世紀後半から20世紀前半の米国やドイツにも、そして、20世紀の日本にも適用できる。
産業革命発祥の地である英国も、19世紀前半は「穀物条例」で地主=農業を保護し、同時に様々な機械化で綿織物製品の生産性を上昇させたが、インド市場でうまく販売を拡大することができず、インドの織物職人の腕を切り落とすことまでやって市場をようやく我が物にできた。
自由主義経済の権化のように考えられている米国も、19世紀いっぱいまで、南部農場主は自由貿易派そして北部産業資本家は保護貿易派という構図で、その対立が南北戦争を引き起こす主要な原因でもあった。
米国が強力な産業国家として立ち現われるのは20世紀の初めで、第一次世界大戦を好機として現在につながる地位を獲得した。世界最強の産業国家となった米国は、相互の「門戸開放」を交易の柱に据えた。
日本も、戦前、軽工業製品の市場として大陸(朝鮮半島・中国)を標的とし、重工業で軍事力を強化しながらその実現に努めたが、中国そして米英と激しく対立するようになり戦争に突入、敗戦を迎えた。
戦後は、米国の援助のもと産業の再生と強化をはかり、対日直接投資制限・輸入制限・政府補助制度を後ろ盾にしながら、対米中心に輸出を拡大していった。
輸入制限は80年代前半まで残り、米国とのあいだには、自由貿易の掛け声とは裏腹に、繊維・鉄鋼・自動車・半導体と主要な対米輸出品で対立が生じ、日本が妥協するかたちの政治的決着で乗り切った。
伊藤氏の「開国しないで栄えてきた国はない」という部分は、ある発展段階については正しい指摘である。
国際競争力で圧倒的に優位に立ったからといって、輸出のみに固執し、輸入を忌避すれば、輸出したくとも輸入代金を支払える国がなくなってしまうからである。
かたちは様々だが、直接投資を含む国際的分業を形成するために自国を開かなければ、どんな経済大国でも持続的な繁栄を得ることはできない。
この論理は現在の日本でも通用するが、日本はすでにそうしてきた。家電製品に見られるように、日本企業が海外で製造したものを輸入するかたちが多いので、消費者(国民)には見えにくい。
伊藤氏は、日本国内だけの政治的力では氏が考えている改革ができないと判断しており、改革を実現する絶好の機会としてTPPを利用したいと考えるいわゆる「“外圧”活用論者」である。
伊藤氏が説明した抽象的な参加意義の多くは榊原氏によってほぼ否定され(榊原氏の主張を紹介する折りに触れる)、つまるところ、「既得権益の温存で沈滞し内向きにもなっている日本を、TPPという“外圧”を利用することで変革し、世界に攻めていける未来を切り拓く」というものに収れんした。
榊原氏は、“外圧活用論”について、「私も15年前は外圧を利用してなんとか変えようとした。外圧の活用はかつて有効だったが、今の外圧は、維持すべき日本的制度を破壊するもの」と指摘した。
伊藤氏やフジテレビの論説委員長若松氏が交渉に参加して日本の言い分を強く主張すればいいという見解を示すと、榊原氏は、内政はともかく、外交はまったくダメと反論し、その理由として:
● 対米交渉はシビアで、米国は勝手な国。対米保険交渉に実際に携わったが、後ろに控えているAIGなどの企業利益をむりやり求めてくる。TPPでも、国有化されたAIGが「混合診療」解禁を押すはず。
● 日本は米国のマスコミを使ってアメリカ国民の世論を動かすことはできないが、米国は日本のマスコミ対策に長けており、今回のTPP問題でも、反対が1、2社あってもいいのに、日本のマスコミすべてが参加に賛成しているのはそのせいだと思っている。
● そのような日本のマスコミは、対米交渉に臨んでいると後ろから鉄砲を撃つようなものなので、交渉力を発揮できない。
● 外務省は、対米交渉で、半分アメリカ側につく。
ということをあげた。
榊原氏が番組内であげたTPP参加に反対する理由:
○ 伊藤氏などの「開国」論に対し、日本はすでに十分「開国」している。関税率も、コメを除けば、先進国で一番低い。
○ 米国の言うグローバリゼーションとはアメリカナイゼーションのことであり、「混合診療」の解禁に代表されるように多くの分野に関わるTPPへの参加は、“日本をアメリカにする”ということだ。
TPP参加は、アメリカの制度やシステムでつくられた“EU”に加盟するようなものだ。
米国とのFTAは必要だと思うが、危険なTPPの交渉に飛び乗る必要はない。
≪伊藤氏:TPPのルールが世界化する可能性もある。早く入って関与すべきで、遅れて入ると不利になる≫
○ TPPは関税撤廃を原則ではなく前提とする経済同盟であり、FTAと違ってコメなどが例外(永続的に)になることはない。日本がコメの関税をゼロにすることなんかできるはずもない。
「事前協議」で関税撤廃を承知して交渉に参加するわけだから、あとになって関税撤廃の例外品目化がダメだったのでやめるというわけにはいかない。
≪伊藤氏:農業はこの10年、20年なにをしてきたのか。このままでは農業は衰退する。(「外圧活用派」だから、)TPPを機会として、新しい農業経営の道を築くべき≫
○ 「混合診療」を認めるようになれば、公的保険の一部が崩れる。「政府調達」の開放でも、地方の建設業者10万社がばたばたと倒れていく。「金融」では、ゆうちょ、かんぽが問題になる。
≪伊藤氏:「混合診療」も解禁で問題はなく、保険診療とうまくバランスがとれればよい。医者不足など今の医療制度はひどい≫
○ 米国や豪州がTPPを進めているわけは、成長著しい東アジアに入りたいからである。
日本にとってはASEAN+3のほうがより重要な経済連携である。国益をかけてそこに入りたい米国や豪州をいつまでもはねつける必要はないが、こっちから乗る必要もない。
冗談めかして、TPPは、米国とオーストラリアが大きな国で、日本が参加して初めて実体的なものになる。米国が日本を必要としているのだから、待っていればいい。
≪伊藤氏:日中韓のFTAはこの10年間まったく進んでいない。TPPを進めれば、中国はわからないが、韓国は入ってくる≫
○ TPPで確固たる中国包囲を敷き、中国を誘いこんでTPPのルールで中国の内政を変えていくという考え方に対し、中国が入るようなことは絶対ないと笑い飛ばした。
○ TPP=「日米同盟」という考え方に対し、なんでも米国に従わなければならないという立場ならそう言えるが、もう米国のいいなりになっていればいいという時代は終わった。
心は右、財布は左という話が通用するのかという問いに、安全保障は米国、経済はアジアということも可能で、日本も国益を追求すべきだと切り返した。
○ すっとTPP参加に乗ってしまった野田首相の資格(資質)を問いたい。
※ 番組前半で語ったユーロ危機がユーロの解体につながりかねないという榊原氏の見立てには同意できない。
ユーロはTPP以上に壮大な歴史的社会実験で、WWP(ワールドワイドパートナーシップ)の先駆けというかたちで取り組まれてきたはずだ。
ギリシャやイタリアの財政危機を大きくクローズアップすることで、ユーロ加盟国の財政自主権を奪い取る下地(環境)を整えようとしていると考えている。
※ 榊原氏は、番組の最後で、日本の財政再建について、消費税を15%程度までアップさせる必要があると語った。これも何度か書いてきたように、財政再建にはつながらないまま経済状況=国民生活のみが悪化する愚策だと考えている。
榊原氏は、野田首相があまりにも財務省の言いなりになっているとの苦言を呈した。
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- 『欧州財政危機最新情報 有効な超円高対策は? TPPは経済を救うか』 gataro 2011/11/09 10:19:55
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