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昨日(7日)の朝刊P.5に掲載されている「核心」というコラムを読むと、メディアが煽ったことで、日本が、対中国そして対米英蘭へと戦争の道を突き進んでいった当時の状況がわかる気がする。
添付した記事を書いた日経新聞社のコラムニスト平田郁夫氏がどのような人か存じ上げないが、是が非でも日本をTPPに参加させたいが「ために」書かれた文章で“政治的プロパガンダ”としか言えない恥ずべきコラムだと思う。
コラムを読むと、政府やメディアが「交渉に参加しなければ交渉の内容はわからない」と言ってきたことがウソであることもわかる。
コラムは、「政府調達」について、「交渉参加国のうち米国とシンガポールを除く7カ国は開放を約束していない。米国も50州政府のうち13州はまだだ」と書いているくから、政府や大手メディアは、他にも交渉に関する重要な情報を数多く知りながら秘匿していると思われる。
見苦しい政治的プロパガンダ記事を書くより、世界に情報収集ネットワークを持つ有力新聞社として、TPPに関し知っている生の情報を提供することに注力すべきだ。
(今日の別の投稿に書いたように、具体的な交易ルールは二国間のサシによる交渉で決まるものだから、日本の“抵抗線”(それさえ合意されていないが)がどうなるかは交渉に参加しなければわからないのは確かだが...)
ときに書いているように、価値観の違いを責める気はないので、新自由主義者であれ、親米主義者であれ、掲げる主張の妥当性を論理的にきちんと説明してもらえれば、それが理にかなったものなのか合目的的なものなか判断して対応するつもりだ。
しかし、アジ演説・アジビラとほとんど変わらない論理で、日本の経済及び社会生活に包括的に深く関わるTPPへの参加に、理と利があると言われても笑うしかない。
当該コラムは、「痛みなきTPPは意味なし」とか「良薬は口に苦し」と、TPP参加による痛みがあることを認めつつ痛みに耐えることを読者(国民)に求め、「痛みを感じる人の顔は見えるが、利益を得るのは往々にして未来の国民だから見えにくい。政治家は見える顔だけ見ていると国の将来を過つ」と締めくくっている。
しかし、コラムを読み終わっても、一定期間の痛みに耐えた後に享受できるはずの“利益”がきちんと説明されていない。
いちおうそれに相当するのかなと思われる部分をいくつか引用し、その妥当性を考えてみる。
● 「農産物の関税撤廃と引き換えに交渉参加国の工業品関税をゼロにできれば、嵐のような製造業の海外移転を多少とも抑えられる」
【コメント】
まあ、「多少とも抑えられる」という書きかただから、書いた本人も本気でそう思っているわけではないと推察する。
TPPだから、日本だけが対米輸出などで関税がゼロになるわけではなく、ベトナムも同じ恩恵を受けるはずだ。日本が輸入する工業製品の関税も参加国に対しゼロとなる。
ベトナムは中国よりも労賃が安く労働者の質も結構高い。また、ベトナムは人口が8千万を超える将来の有望市場でもある。
中国は労賃の上昇も大きく普及商品の製造拠点としては魅力が薄れてきており、TPPに参加するベトナムは、衣料品や雑貨など日用品製造業にとって絶好の移転先や開発先となるはずだ。
ベトナムからの日本向け工業品関税もゼロになるのだから、大手商社がベトナムで日本向け日用品の製造拠点を開発すれば、国内の関連企業は独自色をもっているところ以外は倒れてしまいかねないだろう。
「製造業の海外移転抑止」にたいして効果があるとは言えない工業品の関税撤廃と引き換えに、農産物の関税撤廃を差し出せという主張は誤りである。
● 「公共事業など政府調達の対外開放も建設会社の活躍の場を広げる」
【コメント】
本人が、「政府調達」について、「交渉参加国のうち米国とシンガポールを除く7カ国は開放を約束していない。米国も50州政府のうち13州はまだだ」と書いている。
さらに米国の横暴さを示す一例として、「政府の物品購入や公共施設工事には、米国の製品・資材を使わせる78年前の法律がまだ生きている」とも書いている。
大手建設会社はすでに海外に進出しているが、海外雄飛を夢見る中小の建設会社が活躍できる可能性のある場は、TPPに参加しても、あの狭いシンガポールだけという状況なのだ。
その一方で、すでに世界レベルで実績がある米国企業は、世界第3位のGDPを誇る日本が政府調達で開放に動くのを手ぐすね引いて待っている。
笑ったら申し訳ないが、「海外に活路を求める中小の建設会社も多い」と書き、ある建設会社が「ネパールやブータンから道路工事を受注した」と紹介している。
日本が政府調達を開放する引き換えのメリットとしては、両国には失礼ながら、あまりにもさびしい話ではないか。
その建設会社が「大きな仕事ではないが、国内の工事が少ない現状では貴重」と語ったのを受けて、「TPP交渉に期待する建設会社も多い」と書いているが、中央政府レベルのみならず県や市町村のレベルの公共事業までが外資に開放されると知ってなおそう思うかはなはだ疑問である。
「一部中小建設会社は外国勢の進出を心配する」と「海外に活路を求める中小の建設会社も多い」という二つの表現は、「多くの中小建設会社は外国勢の進出を心配する」と「海外に活路を求める中小の建設会社もいる」に書き換えたほうが現実に即しているはずだ。
● 「「アジア・太平洋地域で携帯電話関連のビジネスを伸ばしたい」というNTTドコモなどにとっては、電気通信事業の共通ルール作りは死活的に重要だ」
【コメント】
NTTドコモがわざわざ進出して利益を享受できる市場規模を持つ国と言えば、TPP参加国の中では米国と将来のベトナムくらいだろう。
その一方で、米国やシンガポールなどの通信事業者が魅力あふれる日本市場に参入できることになる。
携帯電話や放送などは電波という限られた資源を使うビジネスなので、お互いに新規参入は難しく、とりわけ日本企業が米国で電波の割り当てを受けることは至難だと推測する。
この話が、痛みに耐えても価値がある日本の将来にとって利益になる話とは言い切れない。
● 「模倣品・海賊版を取り締まり、国営企業の横暴を許さず、直接投資先の国から技術移転を迫られたりしないようにする。これらはアジアに出ていく際にとりわけ大事になる」
【コメント】
中国が念頭にあると思われるが、TPP参加国ではベトナムに適用性が高い話だ。
模倣品や海賊版を取り締まりは必要だが、直接投資に限らず輸出でも、技術移転の問題は当事者間の契約で他者との競争につきまってくる話だ。技術移転が嫌なら、目先の利益にこだわる商売をしないことだ。
ドイツの企業が技術移転を受け入れれば、条件を合わせざるを得なくなるし、他の面で劣っていれば、勝つために、技術移転を承諾することになるだろう。
● 「日本国内で反対が根強い外国人看護師・介護士の受け入れについても、加盟国内での制度づくりを積極的に提案してよい」
【コメント】
この種の問題でいちばん嫌なのは、前にも書いたが、医療や介護が日本ほど充実していない外国がおカネをかけて養成した看護師・介護士を母国より高い給料を支払えるからといって連れてくる(受け入れる)ことを良とする考え方である。
たしかに、日本でおカネを多く稼げる看護師や介護士には喜ばしいことかもしれないが、先進国がカネにものを言わせて新興国や途上国から役に立つひとを連れてくるという政策に与することはできない。
「アジア各国が高齢化するなかで、これらの人材は確実に足りなくなる。早めにルールを決めるのは日本の中高年のためだ」というセリフに反吐を催す。
日本の若年層も8%を超える失業に苦しんでいる。彼らを活用することを考えるのが先である。
● 「利益を得るのは往々にして未来の国民だから見えにくい。政治家は見える顔だけ見ていると国の将来を過つ」
【コメント】
当該コラムを読んでもっとも寒かったのは、アジテーションの締めくくりに使われた根拠である。
「TPPは各国の経済制度の調和を目指す点で約20年前の日米構造協議に似ている。米側の要求に国内では反発が強かったが、合意に基づくスーパーなどの出店規制緩和や独占禁止法の強化は後に、人々の暮らしを便利にしたし、鉄鋼業や建設業の談合を減らした」がその根拠だが、独占禁止法の話はともかく、地方都市の郊外に瞬く間に増えたスーパーが「人々の暮らしを便利にした」というのはあまりに表面的な評価であろう。
自動車を乗り回すひとにとっては、品揃えもバラエティに富み価格も安い大型SCやスーパーは確かに魅力的な場所だと思う。
しかし、そのために一方では、歩いて行って買い物ができる商店が次々と店を閉め、町が寂れただけでなく、老人を中心に日常生活がままならないひとも出ている。
さらに、大規模駐車場を有する郊外型ショッピング施設の隆盛は、かつて華やかににぎわっていた中心部の商店街が“シャッター街”に変わってしまい、深刻な問題を引き起こしている。
「利益を得る」「未来の国民」といっても、大規模資本ということがよくわかる例だ。
大規模資本の企業が利益を得ても、そこに雇用される従業員やパートが利益を得るわけではないことは02年から07年の好況期のことを考えればわかる。
日経新聞やテレビ東京に広告を出稿してくれる企業以外はどうなろうと構わないという気持はわかるが...。
次に、戦前の日本に米国が見せた横暴に、“撃ちてし止まん”と国民を煽った戦前・戦中を思い出させるような勇ましい対米交渉に関する記述を見てみよう。
まず断わっておくが、そのような記述が、TPP参加にしゃにむに動く政府やメディアの基礎に対米従属があると思われないための空威張りの“駄話”でしかないことは承知している。
コラムは、TPP交渉について、「この交渉は進め方しだいで大きな利益を得られるからだ」と宣言し、筆者が横暴と考える米国のやり方に、「こんなものは、日本が交渉に参加し、米国以外の国々と結んでつぶしたい。米国の横暴を止める好機だ」と意気込んでいる。
しかし、筆者が「米国以外の国々と結んでつぶしたい」と叫んでも、具体的な通商ルールは2国間で交渉され合意されるものだから、虚しいだけだ。
さらに言えば、日本がTPPの交渉に参加する来年の6月ころは、すでに他の参加国相互の2国間交渉も終わり、9カ国が日本との交渉を待っているという交渉段階だ。
そのようなスケジュールを知りながら、「米国の横暴を止める好機だ」と煽る筆者はとことん腐っている。
また、政府調達に関する米国の横暴は、「交渉参加国のうち米国とシンガポールを除く7カ国は開放を約束していない」のだから、日本とシンガポール以外の国々にとっては無関係の話で藪蛇になるような口出しはしない。
「「米国流を押しっけられる」という見方もいじけている。日本側に譲るものがあれば、米国の身勝手な要求には「ノー」と言える」とも書いているが、戦後の日米外交史をたどれば、対米交渉に関して、「交渉は進め方しだいで大きな利益を得られる」と考えるのは夢想でしかないことがわかるはずだ。
筆者はコラムの内容から経済的自由主義者と思えるので、ある人たちにとって“身勝手な要求”と思えるものも、正当だと評価する可能性が大きい。
「農産物の関税撤廃と引き換えに交渉参加国の工業品関税をゼロにできれば、」と書いているくらいだから、それは即時農産品関税撤廃も筆者にとっては“身勝手な要求”ではないはずだ。
「日本側に譲るものがあれば」と書いているが、政府の口先“安心”販売と同じで、譲るもの、死守するものを具体的に示さないまま口先だけで言っても意味がない。
「交渉の音頭を取るのは米国の通商代表部。21の交渉分野も米主導で決まった。だから米国に都合の悪い話は省いている」というTPPに、今参加表明しても、交渉機会も交渉時間もほとんどないことがわかっているのみならず、利益があることさえきちんと説明できないのに、なにがなんでも参加しろという主張は狂気の沙汰としか言いようがない。
● 対中国問題として、「「米国陣営に入れば中国と対立する」といった議論はおよそナンセンス。中国は独自の安全規制や基準・認証などをもち、深い内容の協定を結ぶのは困難だ。TPPでルールを決め、そこに中国を誘い込んでロシアなども入るアジア太平洋自由貿易圏づくりにつなげるのが本道だろう」
【コメント】
少し支離滅裂な説明だ。
イメージしている時間軸が長いのかもしれないが、「中国は独自の安全規制や基準・認証などをもち、深い内容の協定を結ぶのは困難だ」と書きながら、「TPPでルールを決め、そこに中国を誘い込んでロシアなども入るアジア太平洋自由貿易圏づくりにつなげる」と言っても、筆者の説明を根拠に、無理な話で夢想でしかないと言えてしまう。
私も、TPP参加で「米国陣営に入れば中国と対立する」とは考えていない。
中国は、日本のTPP参加を、どうぞお勝手にと思っているはずだ。
日本や韓国との賃金格差を考えれば、10%・20%の関税を撤廃してもらう代償に外国から内政にまで首を突っ込まれるよりは、保護主義的政策で調和のとれた国内の経済発展を進めるほうを選択したほうが有利だからである。
日経新聞のコラムニスト平田氏が、TPP参加推進派を装いながら、TPP参加をつぶそうと考えているひとならなかなかのものだ(笑)。
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「核心」
痛みなきTPPは意味なし
本社コラムニスト 平田 郁夫
甘言より「攻め方」を語れ
人心安定策とでもいうのか。「農業にも建設業、看護師にも深刻な影響はない」と、政府は環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加に向け、しきりに反対派をなだめている。
交渉参加が先決とあればそれも理解できる。だが「影響ない」と言い過ぎるとあとで引っ込みがつかず、言霊に導かれるように本当に影響がなく、経済効果も薄い代物になりかねない。
良薬は口に苦し。改革の痛みを伴わないTPPには意味がない。政治家は甘言をろうせずに痛みを認め、引き受けて、それに倍する果実を得るための「攻め方」をむしろ語るときだ。
それというのも、この交渉は進め方しだいで大きな利益を得られるからだ。
交渉の音頭を取るのは米国の通商代表部。21の交渉分野も米主導で決まった。だから米国に都合の悪い話は省いている。
たとえば「不当に安い」と認定した輸入品に重い関税をかける反ダンピング措置を米国は乱用しがちだ。また政府の物品購入や公共施設工事には、米国の製品・資材を使わせる78年前の法律がまだ生きている。
最近では小型のリチウム電池を危険物とみなし、航空貨物で米国に輸出するのを制限することを検討中。
こんなものは、日本が交渉に参加し、米国以外の国々と結んでつぶしたい。米国の横暴を止める好機だ。
もちろん21分野でも日本が成果を得られるものは多い。まず農産物の関税撤廃と引き換えに交渉参加国の工業品関税をゼロにできれば、嵐のような製造業の海外移転を 多少とも抑えられるだろう。
公共事業など政府調達の対外開放も建設会社の活躍の場を広げる。この分野で日本は先を行き、交渉参加国のうち米国とシンガポールを除く7カ国は開放を約束していない。米国も50州政府のうち13州はまだだ。
交渉では、対象となる事業の最低額を下げるよう求められるだろうとあって、一部中小建設会社は外国勢の進出を心配する。
だが、海外に活路を求める中小の建設会社も多い。丸新志鷹建設(富山県立山町)はネパールやブータンから道路工事を受注した。
「大きな仕事ではないが、国内の工事が少ない現状では貴重」と同社。交渉に期待する建設会社も多い。
「アジア・太平洋地域で携帯電話関連のビジネスを伸ばしたい」というNTTドコモなどにとっては、電気通信事業の共通ルール作りは死活的に重要だ。
また、模倣品・海賊版を取り締まり、国営企業の横暴を許さず、直接投資先の国から技術移転を迫られたりしないようにする。これらはアジアに出ていく際にとりわけ大事になる。
さらに日本国内で反対が根強い外国人看護師・介護士の受け入れについても、加盟国内での制度づくりを積極的に提案してよい。
その焦点は、ある国で資格を得たら、はかの囲もそれを認めて、受け入れる「相互認証」だ。どの国も納得のいく水準の試験を加盟国に義務づければ、互いに受け入れやすい。医師の相互認証も検討に値する。
アジア各国が高齢化するなかで、これらの人材は確実に足りなくなる。早めにルールを決めるのは日本の中高年のためだ。
将来の経済、社会にとってこれはどの可能性を秘めた交渉ならば、早めに参加したい。交渉に入ってから何を目標に、どう立ち回るかこそが大事だ。
「米国陣営に入れば中国と対立する」といった議論はおよそナンセンス。中国は独自の安全規制や基準・認証などをもち、深い内容の協定を結ぶのは困難だ。TPPでルールを決め、そこに中国を誘い込んでロシアなども入るアジア太平洋自由貿易圏づくりにつなげるのが本道だろう。
「米国流を押しっけられる」という見方もいじけている。日本側に譲るものがあれば、米国の身勝手な要求には「ノー」と言える。
交渉参加に反対の議員があげる農業の問題は、今のままではいずれにせよ解決できない。改革は急務だ。
ロサンゼルスの友人に調べてもらったところ、現地米は10キログラム換算で1170〜3120円。日本の銘柄米並みの昧のものも、日本のほぼ半値という。
土地の集約が進まず、減反政策もあってコストを下げられない。そうした農政に業を煮やしているのが、意欲ある農家だ。
農業生産法人、新潟ゆうき(新潟県村上市)の佐藤正志代表取締役は「TPP参加を機に直接支払いのやり方を改め、規模拡大によるコメの生産性向上を目指すべきだ」と語る。20〜30ヘクタール規模の水田営農を目標に政府が打ち出した構想の行方を注視する。
競争力が著しく低い乳製品・砂糖、山間地農家や、被災地の農家には配慮が要る。その場合でも財政による保護だけでなく、転業支援なども進めるべきだ。
TPPは各国の経済制度の調和を目指す点で約20年前の日米構造協議に似ている。米側の要求に国内では反発が強かったが、合意に基づくスーパーなどの出店規制緩和や独占禁止法の強化は後に、人々の暮らしを便利にしたし、鉄鋼業や建設業の談合を減らした。当時と同様、痛み違感じる人の顔は見えるが、利益を得るのは往々にして未来の国民だから見えにくい。政治家は見える顔だけ見ていると国の将来を過つ。
[日経新聞11月7日朝刊P.5]
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