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ゴマカシであっても、国民にいちおう訴求性があるTPP参加のメリットは、嫌中国意識を利用した「日米関係維持」を別にすると、関税撤廃による輸出拡大で製造業が活性化し雇用も拡大するということだろう。
経産省は、添付した記事に書かれているように、TPP交渉9カ国に自動車関連の関税1300億円を支払っていることを公表し、TPPに参加することでその負担がなくなるとアピールした。
1300億円は白動車産業の営業利益約1兆1000億円の1割以上に相当し、「TPP参加で輸出時の関税が完全撤廃されれば、この分だけ利益が上乗せされたり、製品の値下げ余地が生じたりする」(日経新聞記事)と説明したようだ。
輸入関税は、輸入側の業者(自動車の場合日本企業の現地法人の場合が多い)が支払うもので輸出業者が支払うものではないが、関税撤廃が、利益の上乗せや値下げ余力による輸出拡大の可能性を秘めていることは限定的に認める。
しかし、日本経団連やトヨタ自動車がこのような話を持ち出してTPP参加を求めるのは理解できるが、財政危機を叫び国民に消費税税率アップの受け入れを求めている国家機構に属する経産省が、嬉々としてアピールしているのは錯乱以外のなにものでもない。
相互の関税撤廃は、輸出企業が“減税”を享受する一方で、国家(国民)は外国企業の対日輸出(輸入)から得られる関税収入を失うからである。
例示された内容に即せば、自動車業界は関税の撤廃で利益を得るが、国民は関税の撤廃で損失を被るわけである。
そのように指摘すると、“いや、輸出が増加し企業の利益が増大すれば、法人税収入が増え、所得税も増える。雇用だって拡大する”と反論するだろう。
しかし、震災復興で3年間の猶予があるとはいえ、法人税は5%減税される(その減税規模は10年間で12兆円とも言われている)。
また、02年から07年の戦後最長の好景気で、有力企業が最高益を更新する状況が続いた一方で、GDPベースの雇用者所得は減少を続けた。
製造業の雇用も、リーマンショック後だが、100万人ほど減少し、非正規雇用という“調整弁”の活用は拡大され、安定的な就労条件が失われてきた。
トヨタをはじめ輸出優良企業が、総合的な視点から日本に立地のメリットがあるとはいえ、雇用問題を考慮して製造拠点を維持していることも理解している。
しかし、02年から07年の好況期に利益=生産性上昇に見合う賃上げをサボタージュしたことで、デフレ不況からの脱出機会を葬り去ったことは非難に値すると考えている。
なんにしろ、経産省が自動車産業の恩恵約1300億円を持ち出すのなら、日本が9カ国に対して関税を撤廃することで被る損失(関税収入の喪失)も、どの程度の額になるか示さなければおかしいだろう。
関税が撤廃されて、他の条件がまったく変わらなければ自動車産業が1300億円得することは認められる。
しかし、TPP参加反対派からすでに指摘されているように、関税撤廃が輸出拡大に貢献するとは一概に言えない。関税が低くなる=利益や価格競争力が増加するというわけではないのだ。
その根拠とされているのは、米国市場ですでに高い割合になっている現地生産化と外国為替レートの影響である。
ここでは、関税撤廃と外国為替レートの関係を少し考えてみたい。
まず、外国為替が固定相場制であれば、競争国に先んじた関税撤廃はダイレクトにメリットとなる。輸出入の交易条件が変わらないまま、関税だけがなくなるからである。
関税は国内産業の保護という目的だけでなく国策を実行するための税収源でもあるが、固定相場制においては、関税が強力な障壁となり保護政策の主要な柱となる。
だからこそ、固定相場の金(為替)本位制であった戦前や戦後の71年までは、関税障壁を乗り越えたり生産性の劣位をカバーするために、先進国の平価の切り下げが頻出した。
輸出したい相手国が20%の関税をかけていることで、その国や他の競争国との価格競争力が5%ほど劣っているのなら、平価を30%切り下げれば、価格競争力でも逆に5%優位に立てる。
たとえば、韓国と日本とも対ドル相場が固定化されており、競争力も拮抗しているとすれば、日本だけが対米輸出で関税撤廃の恩恵を受けることで、2%(自動車)や5%(家電)とはいえ、有利な競争条件(利益獲得条件)を得ることは間違いない。
しかし、現在は変動相場制である。
変動相場制においても、農産品のように高率の関税がかかっている品目の関税が撤廃されれば、輸出国はほぼ無条件に有利な条件を手に入れることになる。主食であるコメの関税は700%を超えている。
変動相場制に移行してから円の対ドルレートは、300円ほどから76円ほどまで上昇している。40年近くかけて74.7%の上昇だから、外国為替レートの変動で高い関税障壁を超えるような変化はまずないから、関税の存否が国際競争力で劣位にある国の農業にとって死活問題となる。
外国為替相場は、超短期の変動はともかく、短中期でも5%くらいは容易に変動する。円の対ドル相場は、08年から11年の3年間で35%ほども上昇している。
さらに、同じ生産性推移であることを条件に、他国企業との競争力関係は、絶対的な為替相場の変動ではなく、それらの国々との相対的な相場変動に規定される。
例えば、韓国ウォンが対ドルレートで5%安くなれば、円の対ドルレートが変わらなくとも、日本が米国から享受した自動車の関税ゼロという有利な条件はすっかり消えてしまう。
08年から11年のあいだに韓国ウォンの対ドルレートが変わらなくとも、韓国企業と競う輸出企業の価格競争力は、35%とは言わないが、相当程度の率で低下する。
ご存知のように、韓国ウォンの対ドルレートは円とは逆にウォン安に動いたので、より大きな差になったはずだ。
※ [補足説明]
輸出企業や経済団体は、自動車や家電分野で昨今競争力を高めてきた韓国がウォン安でさらに競争力を手に入れたことに強い懸念を示している。
確かに、国民生活を犠牲にしてでも輸出を拡大するという韓国の政策はウォン安が国際競争力の上昇につながりやすい。
自国通貨高は原材料や一次エネルギーさらには部品や完成品などの輸入コストを軽減し、自国通貨安は輸入コストを増大させることから、真の国際競争力は、為替レートだけでは説明できない。
ただ、電力料金などは国策で決まる要素があるので、コスト上昇を料金に転嫁しない政策を採れば、輸出企業への“補助金”として機能する。
さらに、通貨安で輸入物価が上昇し消費者物価も上昇したにも関わらず賃金を据え置きすれば、国民生活を疲弊させるかたちでの競争力強化をはかっていることになる。
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最後に、関税の撤廃が外国為替レートにどのような影響を与えるかを考えてみたい。
そのために、まず、外国為替レートが中長期的にどのような要因で変動するのかを見てみたい。
※ 参照データ
「ドル円購買力平価と実勢相場」グラフ:公益財団法人 国際通貨研究所
http://www.iima.or.jp/pdf/PPP/doll_yen.pdf
二国間の為替レートは、長期的にはインフレ率の差に規定されて変動する。短期として、金利差がそれからの乖離要因となる。
参照データのグラフを見るとわかるように、消費者物価指数や企業物価指数といった全般的インフレ率の差よりも、輸出物価指数という国際交易性の高い品目のインフレ率の差が、為替相場の変動ともっとも高い相関性があることがわかる。
(※ このグラフは、02年から07年の戦後最長かつ空前の好況がなにによってもたらされたかを如実に示している。金利の低い円を借りて金利の高い通貨を買って利ザヤを稼ぐ「円キャリー取引」や一般人までのめり込んだハイレバレッジのFXで、理論的には高くなるべき円が安くなるという“異常事態”になったことが輸出企業の利益増大を後押ししたことが主要因である。金利差がほとんどないことを前提にグラフを読めば、円の対ドル相場が60円前半になってもおかしくないことがわかる。日本のデフレと労働条件の切り下げが円高の主たる要因である)
変動相場制は、もともと、国際競争力が相対的に低下した国(貿易収支赤字)の通貨は安くなり、国際競争力が相対的に上昇した国の通貨が高くなることで、貿易の不均衡が徐々に是正されていくことが期待されてつくられたシステムである。
(農産品は日米間の貿易で占める金額的割合が低く、農産品の輸出物価がトータルの輸出物価に与える影響は低いので、外国為替レートに与える影響も低い)
結論的に言えば、関税の撤廃は、「輸出価格」の低下と同じことを意味するから、円高に振れる要因となる。
このことは、他の条件が不変であれば、関税が撤廃されてしばらくは関税がかかる競争相手よりも価格競争力で優位に立てるが、その後は、為替レートの変動(円高)により関税撤廃がもたらした優位性を失っていく可能性が高いことを意味する。
関税撤廃が国際競争力を高めることであれば、その違いを為替レートで調整することを目的につくられた変動相場制ではその効果が限定的であることは、TPP参加推進派にもわかるはずだ。
記事の最後に、経産省が「このほか外国政府が突然、規制を強化したり変更したりして日本の投資案件が中止に追い込まれることを防ぐほか、外国政府がレアアース(希土類)などに輸出規制をかけるのを制限することで資源の安定的な確保も目指すとしている」と説明している。
いわゆるISD条項に関する説明である。
笑えるのは、一方的な説明だけで、日本政府が規制を強化したり変更したりしようとすると、他の9カ国の企業が日本政府を訴えられることを言わない経産省の姿勢だ。
すでにNAFTAでISDを発動している米国企業とそれを後ろでサポートする米国連邦政府を考えた時、日本企業のメリットより日本政府=国民のデメリットのほうがずっと高いことは自明であろう。
「外国政府がレアアース(希土類)などに輸出規制をかけるのを制限する」というのも、中国をダシにつかった説明だろうが、中国がそのような条項を持つTPPに入ることはないだろう。
いずれにしても、ビジネス上の契約をめぐる企業同士の衝突ならわかるが、軍事力の行使も厭わずわがまま放題の米国を見習って、外国政府の政策に文句を付けてカネをふんだくる企業を抱える国にはなりたくないと思う。
そのような場合は、政府が相手国政府とじっくり交渉して解決をめざすのがスジであろう。
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車の関税1300億円 TPP交渉9カ国に支払い 経産省公表 参加に向けアピール
経済産業省は4日、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加9カ国に対し、日本の自動車産業が2010年に合計1300億円以上の関税を支払っていたことを明らかにした。同年の白動車産業の営業利益(約1兆1000億円)の1割以上にあたる。仮にTPP参加で輸出時の関税が完全撤廃されれば、この分だけ利益が上乗せされたり、製品の値下げ余地が生じたりする計算だ。
4日に開かれた民主党の経済連携プロジェクトチーム(PT)総会で公表した。米国に対しては乗用車で約700億円、自動車部品で約148億円を支払っていた。豪州への支払額は乗用車などで約284億円、マレーシアには乗用車で約186億円だった。
また同省は、TPP交渉に日本が参加した場合に交渉の枠組みの中で実現を目指すルールも同時に明らかにした。例えば外国政府に模倣品・海賊版の取り締まり強化を求めることで日本製の正規品の販売減少を防止できる。外国政府による自国製品の優遇措置もTPPのルールによって制限し、日本からの輸出品が差別されることを防ぐ。
このほか外国政府が突然、規制を強化したり変更したりして日本の投資案件が中止に追い込まれることを防ぐほか、外国政府がレアアース(希土類)などに輸出規制をかけるのを制限することで資源の安定的な確保も目指すとしている。
[日経新聞11月5日朝刊P.4]
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