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≪関岡英之 著『国家の存亡―「平成の開国」が日本を滅ぼす』 より抜粋(1)≫ Roentgenium
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(前回、1頁からの続き)
■グローバル化における「労働」問題とは?
≪≪1997年の「対日直接投資環境の改善に関する米国政府の提言」における3本柱として、「M&A」「土地」と共に「労働」分野が挙げられていた。
現在進行中のTPPの24作業部会の1つにも「労働」がある。しかも「投資」と同様、オリジナルTPPでは協定本文に存在せず、米国が敢えて追加した分野である。「労働」分野はWTOの協定にも、日本がこれ迄締結してきた2国間EPAにも存在しない。
「労働」分野の国際的ルールは、米国がNAFTAで初めて導入したもので、その後、米国は2国間EPAを締結する際、必ずこの分野を入れるよう要求してきている。≫≫
どのような内容かと言うと、貿易を促進する為に国内の労働関連法規や労働基準を緩和してはならないというもので、その目的は、労働者の権利を守る為だとされている。株主資本主義の米国が、何故このような「左翼的」な主張を展開するのか、不思議に思う読者が少なくないだろう。勿論、「労働者の権利保護」というのはあくまでも建前に過ぎない。真の狙いは、発展途上国の国際競争力を削ぐ為である。
発展途上国が低賃金を武器に安価な工業製品を米国に輸出すれば、人件費の高い米国は太刀打ち出来ない。米国はこれを「ソーシャル・ダンピング」だと非難を浴びせてきた。「ソーシャル・ダンピング」という非難は、米国に限らず先進国が新興国の追い上げに直面した際にしばしば発せられるもので、第1次世界大戦後、綿紡績品の分野で輸出世界一の座を日本に奪われた英国も、女工の低賃金・長時間労働を論(あげつら)って日本を激しく糾弾した。
第2次世界大戦後、GHQが占領期間中に「民主化」の美名の下に、労働組合法・労働基準法・労働関係調整法(労働3法)を盛り込み、メーデーを復活させ、共産党幹部を獄中から釈放したのも、二度と米国の脅威にならないよう、日本の経済力を弱体化させることが狙いであった。労働者の待遇が改善されればされるほど、日本の工業部門を高コスト・低生産性体質にすることが出来ると考えたのである。
NAFTAを締結する際、米国はメキシコに対し、賃金水準の引き上げ、法定最低賃金の保証や児童労働の禁止、違反した使用者への罰則強化など、同国の労働政策に干渉する道を確保する為に、自由貿易協定に「労働」分野を持ち込んだわけである。
■TPP交渉で変質する可能性のある「労働」問題
ならば今回、米国がTPPに「労働」分野を追加してきたのも同じ理由だからであろうか。そうとは考えにくい。
TPP拡大交渉に参加している9カ国は米国以外は全て経済規模が小さく、工業力で米国を脅かすとは思えないような国ばかりだ。米国のTPP戦略の新の狙いが日本を引き込むことだとすれば、日本人の人件費は既に充分高水準に達しており、国際競争力を引き下げる要因となっている。ならば何故米国はTPPに「労働」分野を追加したのか。
≪≪米国のグローバル化戦略は、既に「貿易から投資へ」と重点がシフトしている。貿易戦略においては、米国は製造業の立場で「労働」分野を捉えていた。相手国の労働者の権利を強化することが米国の国益に適っていた。しかし投資家の立場においては米国の論理は180度逆転する。
米国の投資家やファンドマネージャーが考える国際投資戦略とは、相手国のどんな企業を買収し、如何に転売してキャピタルゲイン(売却益)を稼ぐかが目標となる。彼等が企業を買収するのは、企業を永続的に経営する為ではなく、売買して利ザヤを稼ぐ為である。
従って、買収後は出来るだけ早く、大きく株価を上げようとする。狙われ易いのは、多くの従業員や不動産などの資産を抱えながら一時的な業績低迷の為に株価が割安になっている老舗企業だ。
こうした企業の株価を短期間で上昇させるには、従業員をリストラすることが最も手っ取り早い。工場や研究所、社員の邸宅や保養所などの資産を売却すれば、更に利益を上げることが出来る。
こうした投資家の立場から「労働」分野を捉えればどうなるかは自明であろう。労働者の権利や労働組合の力は弱ければ弱いほど好ましい。労働関連法規や労働基準は徹底的に骨抜きにされたほうが好都合だ。
従って、もし米国の戦略においてTPPが日米2国間EPAのオルタナティブ〔※代替〕だとすれば、「労働」分野において米国が持ち出してくるのは、労働者の権利擁護どころかその真逆の可能性がある。
現に、米国は90年代から日本の労働分野に関して様々な規制緩和を要求し実現させてきたのだ。「格差社会」や「下流社会」を生み出す1因になったとされ、社会問題にもなった「派遣の自由化」もその1つである。それは日米投資イニシアティブという、まさに米国の「貿易から投資へ」というグローバル化戦略に立脚した外交上の枠組みを通じて行われてきた。≫≫
■日米投資イニシアティブにおける「労働」問題
1998年10月26日にサンフランシスコで開催された「投資・企業間関係作業部会」において、米国は日本に対して「対日直接投資環境の改善に関する米国政府の提言」という文書を提示した。その提言書では「M&A」「土地」と並び、「労働」という分野が挙げられ、次の4項目が要求されていた。
(1)確定拠出型年金の早期導入
確定拠出型年金は「日本版401k」と呼ばれ、2001年に日本に導入された。
従来の企業年金は、企業が運用し、将来の年金給付額を従業員に約束し、積立てに不足が生じた場合は企業が責任を持って穴埋めしていたので確定給付型と言われていた。これに対して確定拠出型は、従業員が自己責任で運用しなければならず将来不足しても企業は穴埋めしてくれない。
一方的に企業側に都合の良い仕組みなのだが、2010年9月末現在、確定拠出型年金に加入しているサラリーマンは約360万人、企業年金加入者の2割に達している。投資に失敗して惨憺(さんたん)たる運用成績の人も少なくないと言われている。
≪≪米国が日本に確定拠出型年金の導入を要求したのは、企業を買収した後の年金給付負担を軽減するという狙いも勿論あるだろうが、もっと深い思惑がある。
1998年の米国政府の提言書には、これが年金のポータビリティ(可搬性)を高め、日本の労働市場の流動性を高める為の措置だとはっきり書かれている。「労働市場の流動性を高める」とは、要するに従業員、とりわけ中高年のリストラを容易にするという意味に他ならない。
確定拠出型年金は、雇用者側である企業は運用や給付に責任を負わず、従業員個人に帰属するポータブルなものなので、企業と従業員の関係を希薄化する。端的に言えば終身雇用制を破壊する効果があると考えられているのだ。≫≫
(2)有料職業紹介事業の規制撤廃
米国政府はアウトプレースメント〔※再就職支援〕の自由化を求めている。失業者から依頼を受けて働き口を斡旋する通常の職業紹介所とは逆に、従業員を削減したい企業から依頼を受けて解雇される従業員の再就職を支援するのがアウトプレースメントである。これは企業が安易にリストラに踏み切る誘因になり得る。
(3)労働者派遣事業の自由化
≪≪日本政府は1999年、製造業など一部を除き、労働者派遣事業の原則自由化に踏み切った。その前年(1998年)の米国政府の提言書には、派遣の対象業種や契約期間などに関し、「米国政府は、日本政府に対し、労働者派遣業に課せられた規制を早急に緩和することを提言する」とはっきり書かれている。
言うまでもなく米国の狙いは、日本企業を買収した後のリストラが容易になるように、あらかじめ非正規雇用労働者の割合を増加させておくことにあった。
2004年、小泉政権は派遣期間の上限を原則1年から3年に延長し、更に反対意見を押し切って、製造業への労働者派遣の解禁にも踏み切った。
こうした社会的風潮を追い風として、企業は人件費を抑制する為、正社員の新規採用を手控え、派遣社員や契約社員などの採用に切り替えていった。いまや労働者の3人に1人が非正規雇用者で、その数は約1755万人に達する状況となっている。≫≫
(4)労働基準法
1998年の米国政府の提言をそのまま引用する。
「労働規則に関する過度に厳しい規制及び書類の提出義務などの煩雑な官僚的手続きは、不必要にコストを増大させ、企業活動の効率を低下させることになる。米国政府は、日本政府が日本の労働環境の著しい変化に照らし合わせて、労働基準法における幾多の規制の必要性を再検討することを提言する」
ここで述べられているのは、コスト削減と効率性しか眼中になく、労働者の権利や福利を一顧だにしない、米国流の株式資本主義の論理そのものであり、労使協調、全社一丸となって幾多の苦難を乗り越えてきた、かつての日本型資本主義とは全く相容れない異質なものである。
■米国は簡単に引き下がらない
≪≪「労働」分野における米国の要求は、まだ実現していないものもある。2006年6月の『日米投資イニシアティブ報告書』には、「労働規制」という項目があり、労働者派遣法の更なる緩和、確定拠出型年金の更なる規制緩和、「ホワイトカラー・エグゼンプション制度」の導入、「解雇紛争への金銭的解決の導入」の4点が要求されている。
労働者派遣法については、米国は派遣期間の制限を撤廃することを求めている。これは派遣社員が正社員になる道が生涯閉ざされることを意味する。
確定拠出型年金については、拠出限度額の引き上げに加え、従業員が投資助言サービスを利用出来るようにすることを求めている。これは日本のサラリーマンの年金資金を米国系投資銀行や投資顧問会社の食い物にしようとという魂胆である。
「ホワイトカラー・エグゼンプション」については、この『報告書』が出された6カ月後に2006年12月に、安倍政権が導入を審議会に諮問(しもん)した。これは事務系サラリーマンの休日出勤や時間外労働に関わる労働基準法上の規制の適用を免除するというもので、ホワイトカラーの人件費を抑制するという意図が露骨だった為、マスコミから「残業代ゼロ法案」と集中砲火を浴びた。安倍政権が僅か1年で退陣したこともあり、現在迄実現されないままとなっている。
4番目に挙げられている「解雇紛争への金銭的解決の導入」とはどういうことかと言うと、日本では解雇が不当か否かは裁判で決着するしかない。最高裁の判例として、「合理的かつ論理的な理由が存在しなければ解雇出来ない」とする「解雇権濫用の法理」が確立している為、企業は滅多なことでは解雇に踏み切ることは出来ない。もし「不当解雇」という判決が下されれば、解雇した従業員を復職させなければならない。
そこで、裁判に持ち込まず、金銭的解決即ち裁判外での示談による解決を制度的に導入することによって、解雇を容易にしようと考えたわけである。これが実現されれば、正規雇用の非正規化の第1歩となり、正社員と言えども安泰ではなくなる。
この問題については、みんなの党が2011年3月4日に発表した「規制改革緊急推進プラン(素案)」の中で、次のように提言している。
「解雇規制の見直しについて早急に検討し、国際標準にあった労働法制を再構築する。(注)我が国の労働法制については、かねてより、正社員(労働組合構成員)を過度に保護し(いったん雇ったら原則解雇出来ない)、労働の流動性や企業活動を妨げているとの指摘あり。経済状況が悪化した際に新規採用が過度に抑制されるのも、こうした労働法制が1因」
「国際標準にあった労働法制」とは何を指すのか説明されていないし、「雇用紛争への金銭的解決の導入」という言葉も使われてはいないものの、「いったん雇ったら原則解雇出来ない」という現状が、「労働の流動性や企業活動を妨げている」という認識は、米国の主張と見事に一致している。
尚、みんなの党は、日本経済新聞のアンケートによればTPP交渉参加に「賛成」と明言している唯一の政党だ。ちなみに民主党、自民党、公明党、たちあがれ日本は「どちらかとも言えない」と回答、共産党、社民党、国民新党は「反対」と明言している(日本経済新聞 2011年3月5日)。
日米投資イニシアティブにおける「労働」分野に関する米国の要望の多くは、日本の労働者の権利擁護を目的としたものではなかったことは、誰の目にも歴然としている。あくまでも日本の企業を買収し、従業員をリストラし、短期間で株価を上昇させる環境作りを目論んだ、外国の投資家や投機ファンドの戦略に基づいていた。
米国のTPP戦略は、そうしたグローバル化戦略の延長線上にあるものだ。それは日本の社会に広範かつ甚大な影響を与え得る。連合などはTPP参加に前向きと聞くが、こうした点をも吟味した上でのことなのだろうか。
〔資料〕≪中田安彦 著『世界を動かす人脈』 より抜粋(11)≫|MelancholiaT ※三極委員会(TC)、松下政経塾、他
http://ameblo.jp/antibizwog/entry-10942884110.html
■土地転がしのネタを仕込む米国の意図
≪≪外資に買収されるリスクに曝されているのは企業ばかりではない。米国は早くから、日本の不動産市場にも並々ならぬ関心を抱いてきた。1998年の「対日直接投資環境の改善に関する米国政府の提言」では、「土地の流動性と外国投資家の土地へのアクセスを改善する」為として、次の5項目を要求している。
(1)土地関連税制
米国政府は、土地の購入時に掛かる不動産取得税や、土地の売却益に掛かる譲渡所得税の減税を要求する一方、日本の土地所有者の土地放出を促す為、固定資産税の増税を求めている。国家の主権行為である徴税のあり方にまで米国の内政干渉は及んでいた。
(2)土地利用規制
米国政府は、外資が土地を買収し易くする為、また、土地の取得コストを低くする為、中心市街地の開発規制や農地転換規制などの土地利用規制を緩和するよう要求している。更に国有地の払い下げも加速するよう求めている。
(3)賃貸契約の規制緩和
米国政府は、日本では賃借人の権利が手厚く保護されている為、外資が取得した土地の弾力的な運用が困難になると主張し、規制緩和を求めていた。日本政府は、2000年に定期借家制度を施行した。これにより、賃借人には契約期間満了時に賃貸契約を打ち切り、賃借人を立ち退かせることが可能になったと米国側は好意的に評価している。
(4)土地取引情報の入手
米国政府は、土地の取引状況や地価に関する情報を外資が入手し易くなるよう、不動産のデータベースや検索システムの構築を要求している。
(5)不動産証券化
不動産取引の流動性を高める為、不動産投資信託(REIT)などの金融商品を解禁するよう要求している。日本政府は2000年に投資信託法を改正し、有価証券に限定されていた運用対象を不動産にも拡大、翌年、日本版REITが創設されている。
先程「M&A」のところで、米国が「会社倒産手続きの規制緩和」を要求し、日本政府が民事再生法や産業再生機構を成立させて不良債権処理を加速させたことに対し、米国政府が「投資可能な試算がより多く市場に出てくる」と歓迎するコメントを表明したり、投資銀行関係者が「プルーデンシャル詣で」に勤(いそ)しんだりしたことを紹介した。
〔資料〕対日直接投資環境の改善に関する米国政府の提言
http://japan2.usembassy.gov/txts/wwwt2276.txt
2002年の「日米投資イニシアティブ報告書」には次のような記述がある。
<
米国政府は、資産を購入しようと待機している資本が多く存在していることに触れつつ、不良資産を市場で今直ぐ流動化させる為の骨太の行動を強く奨励した。
>
政府の公式文書には似つかわしくない程、ウズウズした堪え性のない書きぶりである。小泉政権がブッシュ政権から矢の催促で不良債権の処理を迫られていた頃、米国から投資銀行や不動産ファンドなどが続々と舞い降りて来た。
そして規制緩和で解禁されたREITを駆使して日本の銀行が切り捨てた不良債権、その中身は都心の一等地のビルなどだったが、それを破格の安値で買い漁った。そしてエレベーターホールを一見ゴージャスに改装したり、小洒落た居酒屋をテナントに入れたりしただけで価格を吊り上げ、高値で転売するという「不良債権ビジネス」を繰り広げた。
日本人が歯を食い縛って取り組んだ不良債権処理を商売のネタにして、米国人達は大儲けをしたのである。≫≫
NHKが2005年2月6日に放送した「巨大マネーが東京を狙う 動き始めた不動産市場」という番組で、そうした実例を紹介していた。番組に登場した米国カリフォルニア州の公務員の為の年金基金「カルパース」のファンドマネージャーは、「これ迄日本では散々儲けさせてもらった。もう日本から資金を引き上げ、次は中国に投資する」と平然と言い放っていた。
「失われた20年」に私達が失った国富は、カリフォルニア州の公務員の老後の資金に化けてしまったわけである。
(後略)
(後日、3頁へ続く)
※尚、これ迄TPPに関する資料(対日年次改革要望書含む)や見解などを下記投稿の本文及びコメント欄に纏めてありますので併せて参照して下さい。全体像が見えてくると思います。
≪TPPについて危険認識する為に全国民がこれらの動画を見るべきだ(2011年10月28日)≫ Roentgenium
http://www.asyura2.com/11/senkyo121/msg/380.html
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