http://www.asyura2.com/11/senkyo121/msg/587.html
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一年近く前の趙 章恩というかたによるブログで、日経ビジネスオンラインに掲載されていた記事です。記事の半ばほどに毒素条項の解説があります。これだけでも読んでおく価値があると思います。TPPに含まれていることは必然です。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20101213/217516/?P=1
FTA政策に見る日韓の温度差
「同盟」強化のために毒素条項を飲むのか?
北朝鮮による延坪島砲撃の後、韓国は軍事訓練を強化し、北との緊張関係が続いている。そんな中、週末のテレビで「韓米FTA電撃妥結」の速報が流れた。韓米FTAは、2007年6月に合意したものの、米議会が批准しないまま3年以上膠着状態にあった。しかし両国は追加交渉で合意。ついに山を越えた。両国の国会が批准した後、2012年1月1日に発効する予定だ。
よく知られている通り韓国は、輸出入がGDPの69.8%(2006年)を占めている。対外交易への依存度が高いのだ。韓国にとってFTAは、以下の目標を実現するため重要な国家戦略である。関税を安くして、輸出入で競争力を持つ。安定した市場を確保しつつ、新しい市場を切り開く。
韓国経済界は合意を歓迎
韓米FTA追加交渉は、「韓国が損をするだけの再交渉」として問題となっていた。米国は韓国に対して、韓国産自動車に対する輸入関税を撤廃する時期の延長や、環境・安全基準の緩和を求めていた。関連業界の反発が予想されたが、「韓国自動車工業協会」、「全国経済人連合」、「大韓商工会議所」などの団体は次々に「韓米FTA追加交渉合意歓迎、早期批准を望む」という声明を発表している。
韓国の経済界は韓米FTAを歓迎している。完成品の自動車に対する関税撤廃は延期されたものの、自動車部品については、FTA発効と同時に4%の関税が撤廃となる。韓国の中小企業の輸出が伸びるだろう(対米輸出品目4位、2010年1月〜10月33.6億ドル)。自動車は現地生産も多いので、関税撤廃が延期になっても、韓国が受ける打撃はそれほど大きくはない(対米輸出品目2位、2010年1月〜10月 韓国の対米輸出43万台 現地生産32万台、2009年通年 韓国の対米輸出45万台、米国の対韓輸出6500台)。
加えて、電気自動車の関税撤廃が前倒しとなり、新しい市場を開拓するチャンスが広がった。米国の輸入関税は現行の2.5%から徐々に減らし、5年目から無関税となる。米における韓国産自動車のブランドイメージアップにつながる。
韓国のもう一つの狙いは投資家の懸念を払しょくすること
北朝鮮との緊張が高まる中、対韓投資リスクに対する外国人の懸念を取り払うためにも、韓米FTAで強い同盟関係をアピールする必要がある。譲れるところは譲って米との関係をうまく持っていきたいという思惑がある。
オバマ大統領も李明博大統領も追加交渉での合意を「両国がWIN−WINできる基盤が整った」、「両国の同盟とパートナーシップが強力なものであることを見せた」と評価している。韓米FTAのキーワードは経済効果よりも「同盟」に焦点が当てられているように感じた。
オバマ大統領は「韓国とのFTAが米国の輸出拡大と、雇用増大に効果がある」と強調していた。関税撤廃を延期することで自動車の現地生産を増やし、米内の雇用を高めたいという狙いもあったのだろう。
韓国にとって得か損か? 予測はさまざま
韓米FTAがもたらす経済効果はとても高いと言われている。対外経済政策研究院が2007年4月に発表した分析は、韓米FTAは、米国以外の国とのFTAよりも経済効果が高く、GDPが10年間で6%増加すると見込んでいる。デパートなどでは「韓米FTAによって米のブランド品が安くなる。米製品を韓国に集めて観光客に売れば儲かる」と期待する声もある。輸入品が安くなるので1世帯当たり月間3000円ほどの生活費を節約できるという推定もあった。
しかし一方で、マイナスもある。農業生産額は年平均6700億ウォン(約550億円)の減少、畜産の被害は年平均4664億ウォン(約350億円)、雇用も減少する、との推定がある(同じく対外経済政策研究院の資料)。メキシコを例に挙げて、米国との貿易規模は増えても米企業だけが利益を上げ、弱小であるほとんどの韓国企業は利益が減る、という分析もあった。
追加交渉の合意を批判する野党
日本の新聞やネットのコメントを見ると韓米FTA締結を前向きに評価し、「日本はまた出遅れた」、「対米輸出における韓国との差は広がるばかり」と懸念する意見が多いようだ。しかし、韓国内でも賛成の声ばかりではない。意見が分れているのが実情だ。北朝鮮による砲撃直後の合意だっただけに「韓国は安全保障のために、米国との同盟を確固たるものとする必要があった。そのため、損をしてでも合意に踏み切った」と心配する声も大きい。
野党の民主党は、政府の韓米FTA交渉を「売国」と表現し強く批判。批准にも反対する動きを見せている。野党が批判するのは、政府の自己矛盾と、「再交渉」という慣例をつくってしまったことである。
「EUは韓米FTAの結果を見てから、韓EU FTAを批准するとしている。EUも追加交渉で韓国に不利な条件を突きつけようとするに違いない」。
「句点一つたりとも修正する気はないとしていたのに、このタイミングで米に引っ張られるかたちで合意した。しかも、国民に交渉過程を知らせることもなかった」。
「畜産と金融、サービス部門を開放する代わりに、自動車は韓国に有利になると強調してきた。だが、追加交渉で自動車まで米に有利になってしまった」。
「米自動車を輸入する際に、韓国の安全・環境基準ではなく米の基準を適用することになった。他の国からも同じような基準緩和を要求されるではないか」。
マスコミは、韓米FTAによる経済効果を連日報道している。
ネット世論は「毒素条項」を懸念
韓米FTA関連記事の下に付けられたコメントは数十万件に及ぶ。ネット上の掲示板にも、反対する意見が目立つ。
「韓米FTAにおいて、韓国の利益はどこにあるのか」。
「北朝鮮の砲撃直後に追加交渉で合意するとはタイミングが絶妙すぎる」。
「牛肉や自動車だけの問題ではない、その裏にある毒素条項を忘れてはならない」。
「医療保険、教育、電気、ガス、水道など全部開放してしまっていいのか」。
「自国の利益のために踏ん張る米議員を見習え」。
ネットで討論が繰り広げられている「毒素条項」に関してまとめると、以下のようになる。
(1)サービス市場開放のNegative list:サービス市場を全面的に開放する。例外的に禁止する品目だけを明記する。
(2)Ratchet条項:一度規制を緩和するとどんなことがあっても元に戻せない、狂牛病が発生しても牛肉の輸入を中断できない。
(3)Future most-favored-nation treatment:未来最恵国待遇:今後、韓国が他の国とFTAを締結した場合、その条件が米国に対する条件よりも有利な場合は、米にも同じ条件を適用する。
(4)Snap-back:自動車分野で韓国が協定に違反した場合、または米国製自動車の販売・流通に深刻な影響を及ぼすと米企業が判断した場合、米の自動車輸入関税2.5%撤廃を無効にする。
(5)ISD:Investor-State Dispute Settlement。韓国に投資した企業が、韓国の政策によって損害を被った場合、世界銀行傘下の国際投資紛争仲裁センターに提訴できる。韓国で裁判は行わない。韓国にだけ適用。
(6)Non-Violation Complaint:米国企業が期待した利益を得られなかった場合、韓国がFTAに違反していなくても、米国政府が米国企業の代わりに、国際機関に対して韓国を提訴できる。例えば米の民間医療保険会社が「韓国の公共制度である国民医療保険のせいで営業がうまくいかない」として、米国政府に対し韓国を提訴するよう求める可能性がある。韓米FTAに反対する人たちはこれが乱用されるのではないかと恐れている。
(7)韓国政府が規制の必要性を立証できない場合は、市場開放のための追加措置を取る必要が生じる。
(8)米企業・米国人に対しては、韓国の法律より韓米FTAを優先適用
例えば牛肉の場合、韓国では食用にできない部位を、米国法は加工用食肉として認めている。FTAが優先されると、そういった部位も輸入しなければならなくなる。また韓国法は、公共企業や放送局といった基幹となる企業において、外国人の持分を制限している。FTAが優先されると、韓国の全企業が外国人持分制限を撤廃する必要がある。外国人または外国企業の持分制限率は事業分野ごとに異なる。
(9)知的財産権を米が直接規制
例えば米国企業が、韓国のWEBサイトを閉鎖することができるようになる。韓国では現在、非営利目的で映画のレビューを書くためであれば、映画シーンのキャプチャー画像を1〜2枚載せても、誰も文句を言わない。しかし、米国から見るとこれは著作権違反。このため、その掲示物い対して訴訟が始まれば、サイト閉鎖に追い込まれることが十分ありえる。非営利目的のBlogやSNSであっても、転載などで訴訟が多発する可能性あり。
(10)公企業の民営化
ほかにも、いろいろな毒素条項がある。
毒素条項に関しては、こんな反論がある。「これらの条項は、どんな国と国際貿易協定を結ぶ場合にも必ず入る」。「米と韓国を比べると韓国の市場の方が圧倒的に小さい。だからFTAによって韓国企業の米進出を守ってもらえるではないか」。
しかし、小さい国だからこそ、大国に簡単に振り回されるのではないか? 例えばFTAを優先適用することで、米国企業が韓国の法律を無視する、米国企業が韓国の公共企業を乗っ取って料金を上げる、などを懸念する声が上がっている。
米との「同盟」が重要だからと、後先考えず市場を開放してしまうのではないか、心配なのだ。
関税がなくなるとか、○○が輸入されるとか、明確なことが書いてあれば、まだよい。それらに備えることができる。しかし、Negative listを適用するサービス市場開放や公企業の民営化はどうなるか分からない、どんなサービス市場が開放されるのか? どんな公共企業が民営化されるのか? 民営化された後はどうなるのか? 公共料金が高くなるのか? サービスの内容が変わるのか?
はっきりしたことが見えないから怖い。
例えば、米国には、全国民が義務で加入する国民医療保険がない。費用が高すぎて、米国民はまともな治療が病院で受けられない、という実態が韓国でもたびたび報道されている。医療保険が民営化されると、高い保険料を払っている高所得者が民間医療保険に流れ、低所得層やお年寄りに保険を適用することが難しくなることもあり得る。
韓米FTAをめぐって、日本の反応とは異なり、韓国では反対の声の方が大きい。これは当然かもしれない。自分の生活を直撃する問題ばかりだからだ。
広がる韓国のFTAネットワーク、日本は同じ道を選ぶのか?
韓国のFTAネットワークは全世界に広がっている。2004年4月のチリとのFTAを皮切りに、全世界45カ国と8件のFTAを締結した(批准を完了)。そのうちチリ、シンガポール、EFTA(European Free Trade Association)、ASEAN、インド(インドとはFTAでなくCEPA:Closer Economic Partnership Arrangement)など、16カ国・グループとのFTAが発効している。
調印した(批准はまだ)のは、米、EU、ペルーの29カ国。交渉中なのがカナダ、メキシコ、GCC(Gulf Cooperation Council)、オーストラリア、ニュージーランド、コロンビア、トルコ、などの12カ国。交渉準備や共同研究中なのが日本、中国、ロシア、イスラエル、MERCOSUR(Mercado Comum do Sul 南アメリカ諸国関税同盟)、SACU(Southern African Custom Union 南部アフリカ関税同盟)、ベトナム、中米、モンゴルである。
韓米FTAの前にはEUと調印した。この次はオーストラリアとの調印が期待されている。日本や中国との交渉も進展があるとみられる。韓国は米、EU、ASEAN・インドといった世界の大規模経済圏とつながっている「FTAハブ国」として、輸出に拍車をかける方針だ。
当然のことだが、どのFTAも両当事国が完全に満足する交渉は難しい。韓米FTAも、放置しておくよりは、少し損をしてでも決着をつけた方がいい。先占効果もある。2010年10月時点で韓国のFTA交易割合(韓国の輸出入の総額に占める、FTA締結国向け輸出入額)は約14%だが、EUとのFTAが発効する2011年7月には約25%になる。さらに、現在交渉中のオーストラリア、トルコ、そして米国が加わればFTAを通じた交易が貿易総額の50%に上る。
FTAが発行していくと、5年後、10年後の将来、国際競争で負けない何かを持っていない企業はつぶれる、だから「今から準備をしなくては」という危機意識を強く持った企業が勝つのかもしれない。
韓国のように「同盟」を優先してさっさと市場を開放し、関税が撤廃されるまでの5年の間に競争力をつけるか? それとも、じっくり考えて、競争力をつけてから開放するか? 日本も悩ましいところだろう。
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