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福島第一の原発事故以後、政府機関・学者・大手メディアが原発の安全性について、デマとゴマカシで国民をだましてきたことが明らかになり、原発推進派のなかからも一定の反省の声が聞こえてきた。
そういう経緯があるのに、昨今大きな話題となっているTPP参加問題での言動を見聞きしていると、「原発安全神話」キャンペーンと同じように、根拠のない「開国論」や「日本衰退論」を振り回して実像と違う日本観や世界観を植え付け、多数派の国民生活を傷みつける道へ向かわせようとしている。
日経新聞系のテレビ東京は、土曜昼に放送している「新刊ニュース新書」(10月23日)のイントロでTPPを「第3の開国」と謳った。
「第1の開国」はペリー来航を契機とする日米修好通商条約締結で、「第2の開国」はアジア太平洋戦争敗戦後のGHQ占領支配を経ての国際関係だという。
これは菅前首相がTPP参加に意欲を見せたときにも使われたレトリック(「平成の開国」)だが、歴史を知るひとなら、「おいおい、日本をもう一度不平等条約や主権喪失状況に陥れるのがTPPだという意味なのか!?」と唖然とするはずだ。
個々人の価値観は異なるものだし、人それぞれで利害得失の関係性も異なる。だから、TPP参加を推進する人がいてもおかしくないし、その主張を広めるのもいっこうに構わないと思っている。
しかし、報道機関として様々な排他的利益と優遇措置を受けているテレビ局や新聞社が、自分たちの価値観や利益を実現するために、テレビ電波や新聞紙面(インターネット)を使ってデマやゴマカシの言動を繰り返すとなると話は別だ。
官僚や政治家は、政策実現や権力奪取のために、口先だけの美辞麗句やデマ・ウソ・ゴマカシを駆使してでも人々を誘導しがちだが、自らも、権力のそのような言動をチェックしなければならない立場と自負している大手メディアまでが同じ言動で追随すれば、国民の耳に届く“拡声器”のほとんどがデマやゴマカシそして虚像イメージを発するものになる。
そのような言論状況こそが、政府・電力会社・大手メディアが三位一体で創り上げてきた「原発神話」と同じものだ。
各社の価値観や論理的判断でTPP参加を主張するのは放送法の範囲内でかまわないと思うし、不注意による説明のミスを責めたてる気もないが、「既得権益」で手にしている“高性能拡声器”を使って、政治的プロパガンダをあかたも理に叶った説明のように仕立てたり、自国の実像をまやかしの言葉でまったく違う虚像にするような詐欺的行為は容認できない。
官僚もそうだが、米国留学者が増えたことで、米国流のディベート的言動を弄するひとが増えたように思う。自分の目的を実現したり、議論に勝つためであれば、事実かどうかではなく、とにかく判定者や相手が納得する(負ける)論理を展開すればいいという悪しき風潮である。
そのような“ためにする”問題提起の代表が「開国」の必要性であろう。
テレビや新聞が日本は開国が必要だとしつこく言っているから、なんとなく今の日本は閉鎖的なのかなと思う人もいるかもしれない。
しかし、TPP参加絡みで「開国」を主張する人たちは、俗耳に入りやすい刺激的な言葉を使っているだけで、一部農産品の高率関税を除き、日本の対外閉鎖性を証拠立てるデータを示していない。
開国!と叫ばれているが、日本の「世界に対する開放度」は他の国々に勝るとも劣るものではない。この事実は、各種規制や貿易・国際投資の実績を見ればわかることである。
交易や投資に関する国際交渉に早く臨むべきと主張しているひとたちが、交渉で日本で不利になりかねない日本像を流布しているのだからあきれてしまう。
外国人労働者の移入やTV局への出資制限そして政府調達などはともかく、農地や医療などに関わる規制は、外国人に対してのみ行われているわけではなく、日本人に対しても同じように適用されている。
日本の「開国」度をいくつかの指標で確認したい。
○ 輸出大国であることが強調されているが、日本は、「輸入額」も世界第4位(10年:輸出額も4位)である。
○ TPP推進派はなぜか国民に自国の関税が異様に高いように思わせているが、10年ベースの「農産品を含む単純平均関税率」は4.9%である。
EUは5.3%、米国は3.5%、韓国は12.1%、中国は9.6%である。
平均関税率が高い韓国は、よく言われるように二国間のFTAでは関税の引き下げを行っている。しかし、そのような政策は無差別を旨とする「自由貿易」に反するものである。
日本は工業製品の輸入について、皮革製品や繊維製品を除き、家電や自動車などに関税をかけず、かけている品目でも低い税率になっている。
○ TPP推進派から目の敵にされている農産品の関税も、米(778%)・小麦(252%)・大豆(403%)・こんにゃくイモ(1706%)などの限定品を除けばそれほど高いわけではない。
日本の「農産品の平均関税率」は21.0%である。
EUは13.5%、米国は4.7%、韓国は48.6%、中国は15.6%である。
農業問題については後で少し述べるが、農産品に対する輸入障壁は、国家社会の観点で言えば、ただ農家を保護するためというものではない。
ひどい言い方をすれば、農家をただ金銭的に保護するのであれば、GDPで農業の付加価値算出額は5兆3490億円と全体の1.1%しかないのだから、その全額を“廃業補償”として出すことも財政的には不可能な話ではないだろう。(農家に農機具や肥料などを販売している供給主体もいるが)
国内で農業生産を維持することは、国民が生きていくために必要な最低限の糧や国民が求める食生活を安定的かつ持続的にきちんと確保するとともに、歴史的に培われてきた国土の保全をはかるという、国家としての根源的な役割に即するものである。
それまで日本向けに輸出をしていた国が天候不順や自然災害で収穫が大幅に減少したとき、自国の食糧難を放置して日本に輸出することはないし、経済発展のなかで日本に輸出していた産品を生産しなくなることもある。
紙幣を食べて石油を飲めば飢えや乾きがしのげると考えている人は、農業の破壊を進めればいいだろう。
TPP推進派は違うのだろうが、日本が農業を保護してきたように、工業製品についても、競争力で劣る工業製品に関税をかけたり直接投資を制限したりで自国工業を育成したいという国はそうすればいいと考えている。
外国は、そのような障壁の存在で交易優先度を決めたり、それに文句を付け低くしてもらおうと努力するのはいいとしても、保護政策を脅かしや力ずくでやめさせるというのは暴虐以外のなにものでもないと考えている。
○ 「輸入額対GDP比」の順位は120位と低いが、119位の米国とその値はそれほど変わらない。(09年日本10.9%:米国11.4%)
輸入額対GDP比で上位の国々は、香港・シンガポールなど食糧をほぼ全量外国に依存している国やGDPがまだ少ない発展途上で外国企業の誘致などで工業化を図っているベトナムやハンガリーなどである。
50位以内には、都市国家とも言えるルクセンブルクを除き欧米先進国は1カ国も入っていない。
○ 「貿易総額対GDP」も、09年ベースで、日本が118位、米国が119位、中国が89位である。
TPP絡みで何かと引き合いに出される韓国は25位である。これは、韓国が、国内市場が限定的で輸出依存型の経済構造にあることを物語っている。
“水平分業”が進んでいるEU加盟国でさえ、新規加盟国を中心に経済規模がそれほど大きくない国で50位以内に入っているところはあるが、ドイツ・フランス・英国といった主要国は入っていない。
○ 運輸・通信情報・旅行収支・保険などの「サービス貿易」も、外国への支払い額で5位、自国の受け取り額は6位である。
○ 「直接投資」は、日本向け投資金額は23位で、日本の対外投資金額が4位である(09年)。
証券投資も、外国人持ち株比率が90年前半の10%未満から08年には28%に上昇し、株式の外国人売買比率も04年から50%を超える状況になっている。
○ 食料自給率もカロリーベースで40%だから、農産品など食糧の輸入依存度は60%ということになる。
「開国」論を唱える人には、これらのデータから、日本が“鎖国”しているとどうして言えるのか教えてもらいものだ。
日本の対外規制や国際取引の実態を見れば、日本が世界(外)に向かって十分に開かれた国であることがわかるはずだ。
“国益”を主張する人なら、このようなデータをベースに「開かれた国=日本」を強くアピールしたうえで、交渉参加国にお互いが外国人に対してより障壁を低くしていこうと呼び掛けるよう主張するのが当然だろう。
いろんな思惑もあるのだろうが、356名の国会議員がでTPP交渉参加に反対の意思表示をしているという。
議院内閣制の基礎である衆議院でもTPP交渉への参加に反対する代議士が231名で、過半数まであと9名というところまで達しているようだ。
TPP問題で発足したばかりの野田内閣不信任案の可決というのは無理だろうが、数の力を背景に、「TPP交渉参加見送り」決議を目指して欲しい。
内閣に対する法的拘束力はないが、その決議の審議を通じて、TPPの実態が明らかになることに大きな意義があると思っている。
※ 関連投稿
「TPPをめぐる誤解1:日本は「自由貿易」で経済成長を達成したわけでなく、TPP自体が「自由貿易」に反するもの」
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