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投稿者msehi関口博之
日本の農業が衰退を加速するなかで、『日本は世界5位の農業大国』(淺川芳裕 2010年)や『農協の大罪』(山下一仁 2009年)などの本が一斉を風靡した。
『日本は世界5位の農業大国』では、2005年の日本の国内農業生産額が826億ドルであり、中国、米国、インド、ブラジルに続き第5位であることから、、世界第5位の農業大国と結論付けている。
政府自らが語る「農業者の高齢化、衰退する農業」という警告は、著者の言うように農業版自虐史観であり、本当に日本は農業大国なのだろうか。
確かに国内農業生産額は世界5位である。
しかし農業生産額とはその国の農産物価格であり、日本の農産物価格は途上国に較べて10倍ほど高く、欧米に較べても消費者の購入価格は3倍ほど高い。
それは日本農業の国際競争力のなさを如実に示しており。恐ろしく高い関税が課税されているからだ。
すなわち米の778パーセント課税が象徴するように、小麦から乳製品にいたるまでの主要な101種類の食料品には200パーセント以上の課税がなされている。
実際私自身2007年4月から2010年10月まで消費税19パーセント(食料品7パーセント)のドイツで暮らしており、買い物はドイツ全土どこにでもある大手スーパーの「アルディー」で購入していたが、農産物の価格は3分の1ほどであった。
例えば大玉レタスが0,5ユーロ、人参1キロ0,45ユーロ、ジャガイモ2キロ1,2ユーロ(トルコ人の多いノイケルン地区の八百屋では5キロ0,99ユーロ)、大玉メロン0,8ユーロ、牛乳1リットル0,5ユーロ、バター250グラム0,8ユーロ、そして大きな1,2キロのライ麦パンが0,75ユーロ(マイスターのパン屋でもその日の特売を買えば、750グラムで1ユーロほど)。
したがって日本の農業生産額をドイツの基準に合わせるだけで数十位に後退し、途上国に合わせれば、最早誰も農業大国と呼ぶことはできない筈だ。
その証拠に2007年の日本の食糧輸出額は殆ど皆無と言っても過言ではない23億ドルであるが、輸入額は460億ドルであり、消費者の購入価格はその3倍ほどである。
しかも日本は826億ドルの農業生産額を作る為に、農業予算こそ2兆円ほどあるが、実際は様々な特別会計による農業土木や過疎対策などの支援を含めると、10兆円規模に達している。
そのような国民の血税というカンフル注射を毎年打ち続けているにもかかわらず、年々衰退し続けるているのが日本農業の実態だ。
そのような実態を無視し、数字のレトリックで農業大国との主張は、私からすればまさにハンメルの笛吹き以外の何者でもない。
すなわちハンメルの笛吹きが連れて行く所は、平成の開国と称する自由貿易協定TPPである。
現在の日本農業の実態を正確に把握すれば、無謀な太平洋戦争開戦に匹敵し、日本農業の壊滅は免れない。
事実農林水産省の試算でさえ、TPPが実現され関税が全廃された場合、日本のコメは9割減と壊滅し、酪農も88パーセント減少、現在の41パーセントの食糧自給率は12パーセントまで減少し、関連産業の影響も含めて国内総生産(GDP)が約7兆9000億円減少すると公表している。
また『農協の大罪』は著者が農林水産省の元官僚であり、コメの自由化を巡ってコメの高関税維持を求める農協と対立し、主張が叶わなかったことから、戦略的に農協攻撃をしている。
著者は農協の悪しき負の構造を仕事柄知り抜いていることから、日本農業が滅びて農協栄えると述べている。
農協は組合員500万人のコメ減反の補助金から預金までを一手に預かり、日本農業の衰退とは対照的に、総資産88兆円を超えるまでに金融業で栄えていると手厳しく批判している。
そして著書では、諸外国に比べ日本の農薬使用量がずば抜けて多い理由は、農協が生産者の生活や消費者の安全よりも自分の組織利益を優先させてきたからだと断言している。
こうした農協の負の構造については、マスメディアも既に報道してきたことであり、農協の肥料、農薬の購入では業界と談合があり、約15パーセントのリベートを受け取っていた(「農協ー負の構造」1994年4月29日付朝日新聞)。
もっとも日本の農薬使用量が異常に多いのは、官僚、族議員、化学肥料業界、農薬業界、そして農協との間に網の目のような利権構造が築かれているからであり、化学肥料や農薬を使えば使うほど利益がでるのは、農協だけでなく、天下りや渡りで莫大な報酬を受ける官僚も同類である。
また戦後のコメ農家を優遇する農業政策の過ちは農林省にあるのではなく、1200万人の農家を地盤とする自民党の政治決断にあるとしている。
すなわち農林省の先見の明のある官僚たちは、1950年代末からフランスでECの共通農業政策を学び、ECと同様に農作物を補助金によって高い支持価格で買い上げることで、大規模化すればするほど有利にして、農業生産の集約化を実現しようとしていたことを強調している。
確かに農林省はそのような路線を採ろうとしていたことは事実としても、それを葬ったのは産業復興を最優先する官僚政府であったことは明白だ。
すなわち日本の産業輸出のためには、途上国からの見返りの輸入が必要であり、日本の農業を犠牲にしたのは官僚政府に他ならないからだ。
明らかに著者は元官僚であり、2008年に退職したとはいえ外郭団体の経済産業研究所に天下りしていることには変わりなく、本丸の官僚政府への本質的な批判がないことから見ても、官僚組織の利益を優先する同じ穴の貉に過ぎない。
そして著者の主張は、農業者65パーセントの兼業農家を補助金を断つことで退場してもらい、専業農家を手厚く支援することで国際競争力の強化を図ることだと述べている。
すなわち到達点は新自由主義の農業政策推進で、平成の開国と称する自由貿易協定TPPである。
まさに彼も身勝手で、無責任なハンメルの笛吹きの一人である。
何故なら、専業農家の支援で国際競争力を強化できるという主張は、幻想にすぎないからだ。
日本の農地がアメリカの農地に較べて100倍以上高く、労働賃金がアジアに較べて10倍近く高く、日本の農家の一軒あたりの耕作面積が1,9ヘクタールに対してアメリカ200ヘクタール、オーストラリア3000ヘクタールという違いのなかでは競争にならないからである。
すなわち農林水産省の試算通りに、日本農業は壊滅するからだ。
・・・「私の農的暮らしから見た日本の農業」は投稿しませんでしたが、興味がある人は見てください。
http://d.hatena.ne.jp/msehi/20111009/1318174657
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