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「鳩山政権はなぜ戦略局を断念したのか」(EJ第3144号)
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2011年09月20日:{Electronic Journal}
鳩山元首相は、国家戦略局強化になぜ一転消極的になったのでしょうか。民主党にとって国家戦略局の新設は、官僚機構の本丸である財務省に切り込むと同時にマニュフェストの財源確保のために不可欠であったはずです。
菅氏が巨大な権力を握ることに懸念したともいわれますが、その真意はいまだにわかっていないのです。その代り鳩山氏は、行政刷新会議にはかなり力を入れ、こちらを「政治主導の司令塔」として機能させようとしたのです。つまり、事業仕分けで予算の組み替えをしようと考えたわけです。
しかし、この考え方は間違っています。少なくとも事業仕分けで税金の無駄を削っても、民主党のマニュフェストの財源を生み出すことができないことは最初からわかっていたからです。
なぜなら、ムダというのはその予算を必要とする側の意見とムダと断ずる意見が真正面から衝突し、決着がつかなくなるからです。それに事業仕分けは、行政のムダを発見する方法ではあるがムダと判定した事業に関しては、予算を計上した省庁で原案について廃止を含め、再考を促すに過ぎないのです。そのため、事業仕分けで「廃止」と判定しても続々と復活してきているのです。
しかし、予算の組み替えはムダを排除することではなく、国家戦略に基づいて優先順位づけを行い、優先順位の低い政策は新年度予算からは削るのです。これこそ政治主導で行うべきであり、これならマニュフェストの予算は確実に確保できたはずです。
鳩山氏が側近などからの間違ったアドバイスを受け入れ、小沢氏を幹事長には任命するものの、「政権運営、政権協議には関わらない」と条件をつけたことは大失敗であったのです。鳩山氏はいまだに自分のミスに気づいていないように思われます。
鳩山氏が国家戦略局に対して冷淡であったことは、2010年2月に提出された「政治主導確立法案」においても国家戦略局にまったく配慮していないことでも明らかです。原英史氏はこれについて次のように述べています。
2010年2月に遅ればせながら提出された「政治主導確立法案」では、「行政刷新会議」については「専門委員」という形で、国会議員が、正式にサポートに入る仕組みが用意されている(「事業仕分けチーム」への参加を想定していると考えられる)。しかし、「国家戟略局」については、どうしたわけか、「国家戦略局長」と「国家戦略官」の2名しか、国会議員は着任できないように定めてある。例えば「11年度予算での全面組み替え」を本気で「国家戦略局」でやろうと考えているならば、相当数の国会議員によるサポートが当然必要になるはずだが、なぜそのための制度を設けていないのか、不思議でならない。 ──原英史著/新潮社刊 『官僚のレトリック/霞が関改革はなぜ迷走するのか』
実は、民主党が政権を取ったとき、財務省は最悪の事態を考えてその対応策を練っていたのです。2003年の民主党のマニュフェストには「内閣財政局」の設置が明記されていたのです。したがって、鳩山内閣が内閣官房か内閣府に予算局を設置し、政治主導で予算編成を実現させる可能性は十分にあったのです。
財務省が絶対に守ろうとしていることは、次の3つのことなのです。これは国のためではではなく、省益のためです。
1.財政破綻の回避
2.予算配分権確保
3.特別会計の死守
財務省は、税収減と財政危機──基本的には自らがそういう状況を作ったのであるが、彼らはそうは自覚していない──これによって、自由裁量で差配できる財源がどんどん小さくなっていることに強い危機感をもっているのです。これは財務省の権力が小さくなることを意味しており、絶対に避けなければならないと考えていたのです。そのために彼らが画策していたのが消費税の大増税なのです。
しかし、財務省は自信を持っていたのです。仮に官邸に予算局ができたとしても、実質的な予算編成権を握れればよいと考えたのです。国家の予算編成は誰でもできるものではなく、財務官僚が協力しなければ不可能です。その予算局には財務官僚が入り、財務省の定番のポストである官房副長官補の指揮の下で予算編成が行われれば実質的に同じと考えたからです。
特別会計については、一般会計よりも財務省の自由裁量の余地がまだ大幅にあるので、それを支配下におくことで、ことカネに関しては財務省が支配できるので死守しようというわけです。
しかし、案に相違して予算局の話は封印され、国家戦略局による予算の組み替えも事実上見送られたのです。確証はないもののこれは官邸と財務省の間で何らかの取引が行われたのではないかと考えられます。
予算の全面見直しは見送る代りに、財政刷新会議での事業仕分けについては財務省は協力し、それなりの削減を行い、予算編成に全面協力するというものです。
実際問題として、鳩山内閣では2010年度予算の全面組み替えには絶望感を示す議員も多くいたのです。「2011年度予算からやればいいではないか」という声も多かったのです。しかし政権交代のときであったからこそ、何が何でもやるべきだったのです。小沢氏だったら絶対に妥協しなかったと思われます。
結局麻生内閣の概算要求88兆円をほぼそのままにし、それに民主党マニュフェストの予算を上乗せした予算を作ってしまったのです。予算の全面組み替えは結局行われなかったのです。これは民主党の国民への明らかな裏切りであり、とうてい許されないことなのです。
─── [日本の政治の現況/70]
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