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「民主党マニュフェストと小沢一郎」(EJ第3142号)
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2011年09月16日:{Electronic Journal}
9月11日、テレ朝の「サンデー・フロントライン」で、後藤田正晴氏の秘話──危機管理の対応について特集していましたがご覧になったでしょうか。
番組の狙いは、もし、後藤田氏がいま健在で、東日本大震災や福島原発事故の処理を担当したとしたら、どのような対応をしたかについて、視聴者に考えさせたかったものと思われます。これまでの菅政権の対応があまりにもひどかったからです。
しかし、何も亡くなった人を持ち出すまでもなく、まかせてやらせてみたら、他の政治家とは違う危機管理の対応のできる政治家が一人います。小沢一郎氏です。彼は岩手県出身であり、豊富な政治経験と決断力を持つ剛腕政治家です。そのような小沢氏を座敷牢に入れておくほどもったいないことはないと思います。
もし、鳩山政権に小沢氏が幹事長として入閣していたら、小沢氏はどのような手を打ったでしょうか。今までの小沢氏の行動を参考にして推理してみることにします。
小沢氏は、最初に国会法の改正に手をつけたはずです。政権交代した民主党を待っていたのは2010年度予算案です。通常年度予算は8月半ばまでに各省で詰められ、8月末までに概算要求というかたちで財務省に上がってきているのです。当然のことですが、鳩山政権が発足した9月半ばには、概算要求は財務省に上がってきていたのです。
しかし、これは自民党政権下で提出されたものであり、民主党としてはこれを追認するわけにはいかないのです。当然白紙からやり直すことになります。予算案の提出は12月です。3ヵ月しかない。ベテランがやっても3ヵ月では厳しいのに、民主党は予算編成をやるのははじめてであり、自力でやるのは非常に困難なことです。叡智を集める必要があったのです。
しかし、民主党は2010年度予算の全面組み替えを国民に約束しているのです。そして予算に優先順位をつけて組み替えを行い、マニュフェストの財源を捻出するのです。そのためには政治主導で予算の骨格を策定する組織を作る必要があり、そこに民主党の国会議員をスタッフとして集結させる必要があったのです。
それでは、なぜ、国会法の改正が必要なのでしょうか。
それは、予算の骨格を決める次の2つの組織を機能させるために必要だったのです。
1. 国家戦略局 → 予算編成
2.行政刷新会議 → ムダ排除
国家戦略局は民主党の政権構想の「第3策」で、行政刷新会議は「第5策」に掲げられています。国家戦略局には菅直人氏が副総理格で国家戦略相に決まり、そのときは予算の全面組み替えをやるぞと意気盛んだったのです。
しかし、国会法には「兼業の禁止」規定があるのです。国会法第39条です。
【国会法第三九条】議員は内閣総理大臣その他の国務大臣、内閣官房副長官、内閣総理大臣補佐官、副大臣、大臣政務官及び別に法律で定めた場合を除いてはその任期中国又は地方公共団体の公務員と兼ねることができない。ただし、両議院一致の議決に基づき、その任期中内閣行政各部における各種の委員、顧問、参与その他これに準ずる職に就く場合はこの限りでない。
この条文は、民主党の谷亮子参院議員が議員をしながら柔道を続けようとしたときにも問題になった条文です。このケースなら誰でも理解できるのですが、民主党マニュフェストの「国会議員100人を政府に配置」する場合もこの規定が問題になります。
同様に国家戦略局や行政刷新会議に多くの国会議員を送り込む場合もこの兼業の禁止の規定が立ちはだかるのです。これについて、原英史氏は次のように述べています。
この規定があるため、仮に仙谷大臣が、行政刷新会議の「事務局長」や「次長」といったポストに(副大臣や政務官以外の)民主党議員を就けようとしても、法律上許されない。そして、民主党議員を「仕分け人」にすることも、実は合法性の疑わしいグレーな行為だったのだ。このため、「仕分け人」議員は、敢えて位置付けを暖昧にした「ワーキンググループ」のメンバーという形にされていた。正式に政府の職員として辞令を交付し、「事業仕分け」に参画させたら、現行の国会法に明らかに違反するからだ。
──原英史著/新潮社刊 『官僚のレトリック/霞が関改革はなぜ迷走するのか』
小沢氏はかねてから国会法の改正には強い意欲を燃やしており自自連立などを通して少しずつ改正させてきています。したがって、もし小沢氏が政府側に入っていれば、10月からの臨時国会の冒頭に「国家戦略局改正法案」を提出し、成立させていたはずです。それはけっして困難なことではなかったはずです。
しかし、なぜか鳩山首相は早々と国家戦略局はあきらめてしまうのです。どうしてあきらめてしまったのでしょうか。諸説はありますが、菅国家戦略相にあまり大きな権限を与えたくなかったともいわれています。
鳩山首相はその代り行政刷新会議には力を入れ、枝野、蓮舫両議員を使って事業仕分けを派手に展開したのです。しかし、予算の組み替えとムダの排除とは、その狙うところが異なるのです。
はっきりしていることは、ムダの排除だけではマニュフェストを実現するための必要な財源など到底出てこないのです。
なぜ、鳩山首相は、国家戦略局をあきらめてしまったのでしょうか。それはマニュフェストを実現するために一番大事なことであったのです。
─── [日本の政治の現況/69]
≪画像および関連情報≫
●民主党マニュフェスト/第3策と第5策
第三策 官邸機能を強化し、総理直属の「国家戦略局」を設置し、官民の優秀な人材を結集して、新時代の国家ビジョンを創り、政治主導で予算の骨格を策定する。
第五策 天下り、渡りの斡旋を全面的に禁止する。国民的な観点から、行政全般を見直す「行政刷新会議」を設置し、全ての予算や制度の精査を行い、無駄や不正を排除する。官・民、中央・地方の役割分担の見直し整理を行う。国家行政組織法を改正し、省庁編成を機動的に行える体制を構築する。
──民主党マニュフェストより
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