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http://www.nikkeibp.co.jp/article/sj/20110912/283688/
ドル安ではなく、円の独歩高が問題
2011年8月19日の海外市場で円ドルレートが75円台に突入して以降、円の対ドル相場は戦後最高値圏でもみあいを続けている。
製造業各社は、震災後の生産回復の流れを妨げるものだとして、反発の声をあげるが、政府は「市場を注視する」というだけで、本格的な介入には踏み切らない。
それどころか、経済評論家のなかには、「今回の為替変動は、ドルが単独で下落するドル安なのだから、日本としては見守って受け入れるしかない」という意見を言う人が多い。
確かに、今回の円高・ドル安の直接のきっかけは、アメリカの債務上限枠を引き上げる法案をめぐって、民主党と共和党の調整がうまくいかず、米国債にデフォルトの懸念がでてきたことにある。
円はドルに対してもユーロに対しても高くなっている
しかし、きちんと現実のデータをみると、今回の円高は、基本的にドルに原因があるのではないことが分かる。
例えば、7月の円ドルレートは、7月1日の1ドル=80円70銭から7月29日の78円5銭へと、3.4%円高になった。一方、対ユーロで見ると、1ユーロ=116円75銭から111円55銭へと4.7%も円高が進んでいる。円は対ドルよりも、対ユーロで円高になっているのだ。
アメリカの債務問題がクローズアップされるなかでも、ドルはユーロに対して強くなっている。だから、今回の為替変動は、ドル安ではなく、円高なのだ。
そのことは、為替をリーマンショック前と比べると一層はっきりする。
リーマンショックの発生の直前、2008年8月30日の為替は、1ドル=109円5銭であり、1ユーロは161円30銭だった。そこから今年7月末まで、対ドルレートは39.7%円高となり、対ユーロレートは44.6%も円高になっている。ドルに対しても、ユーロに対しても、劇的に為替が高くなっているのだから、原因は日本にあると考えるのが、自然だろう。
日銀の金融引き締めが円高の原因
円高の理由は、日銀の金融政策のせいとしか考えられない。
日銀は震災直後の4月に、資金供給量(マネタリーベース)を前年比で23.9%まで高める金融緩和を行った。ところが、5月は16.2%、6月は17.0%、7月は15.0%と、逆に金融引き締めに舵を切ってしまったのだ。これが今回の円高の理由だろう。
この原理は簡単だ。円とドルの比較で、ドルの方が資金供給の伸びが高ければ、相対的に多く供給されているドルの価値が減って、ドル安・円高になるわけだ。
かつて大英帝国として君臨したイギリスは、世界の工場として圧倒的な支配力を持ち、自国に富を集中させた。それがポンドに基軸通貨としての地位を与え、イギリスは金融大国として覇権を築くことになった。しかし、基軸通貨の立場がもたらしたポンド高のため製造業が衰退し、イギリスは没落していった。
戦後、イギリスから基軸通貨の座を奪い取ったアメリカも、70年代まではものづくり大国だったが、80年代以降の「強いドル」政策の下で製造業が衰退し、国力を低下させてしまった
歴史の教訓――通貨高の国は製造業が衰退する
日本はいま、この英米の轍を踏もうとしている。現状の日本経済は確かに強い。震災の後も、貿易収支こそ2カ月連絡で赤字となったが、分厚い投資収益に支えられた経常収支は、圧倒的な黒字を維持し続けた。
円は基軸通貨の地位こそ獲得できなかったが、圧倒的に強いのだ。しかし、そこにあぐらをかいていると、製造業は衰退していく。いま日本は、まさにその危機に直面しているのだ。政府は米国債務危機とは別に、円高対策を講じるべきなのだ。
歴史的な円高水準が続いていることに伴い、「この円高を活用して、何かうまいことができないか」という取材の電話が、私のもとにたくさんかかってきている。
確かにイトーヨーカドーは、円高還元セールを行ったが、その他では消費者が飛びつくようなセールは行われていない
円高のメリットは現状では表れにくい
その理由は二つある。
一つは、資源高だ。2008年9月のリーマンショック以降に先進国が行った金融緩和であふれたマネーが、商品市場に流れ込み、バブルを起こしている。2007年から2008年前半にかけて起きたバブルほどではないが、原油、穀物、コーヒーなどの1次産品は、軒並み高値になっている。
例えば原油価格は、リーマンショックの直後に1バーレル30ドル台まで落ち込んだが、現在は80ドル台で取引されている。だから、ガソリン価格が高いままなのだ。
もう一つの理由は、長引くデフレで、低価格が定着してしまったことだ。流通業者は、すでにギリギリまで値段を下げているから、円高があっても、それに上乗せした値引きができる体力がなくなっているのだ
円高はデメリットの方がはるかに大きい
一方、円高のデメリットの方は着々と進行している。
何しろリーマンショック以降で、ドルに対してもユーロに対しても、3割も円高になっている。そんな急激な円高がきたら、国内生産は難しいから、企業は生産拠点を海外に移し始めている。この動きが続けば、やがて国内の雇用が失われ、失業率の悪化から賃金が減少して、国民生活は一層苦しくなってしまう。
つまり、今回の円高は消費者のメリットがほとんどないまま、デメリットだけが出てきてしまう可能性が高いのだ。
内閣府が行った試算では、10%の円高(ドル安)が進むと、日本の国内総生産(GDP)を1年目に0.2%、2年目に0.4%押し下げるという結果が出ている。なにより、日本経済を映す鏡とも言われる株価も、円高になると下落する。円高の日本経済への影響は深刻なのだ
財務相のブラフも為替市場には通じない
欧米中銀が事実上の通貨安競争を繰り広げる中、日本は実体経済に悪影響を及ぼす円高の阻止にあらゆる手段を活用することが求められていることは、政府も認識している。安住淳財務相も、「投機的な動きを注視し、必要なら断固たる措置をとるという姿勢で対応したい」との声明を発表した。
しかし、円高に対する財務省の介入の効果は、せいぜい2、3日、もったとしても数週間に過ぎない。結局、元の木阿弥になって、結果として介入した分、為替差損が発生して、国民負担が残るだけだ。
諸策の根源は日銀の金融政策にあるのだ。原理は単純。円とドル/ユーロでどちらかが相対的に多いか少ないかだ。多いほうの通貨は希少価値がなく安くなり、少ないほうの通貨は希少価値が出て高くなる。
既に指摘した通り、日銀は、4月に前年比24%の伸びだった資金供給(マネタリーベース)を7月には15%にまで絞っている。つまり、円高になるような金融引き締め策を採っているのだ。
政府の「緊急円高対策」は亡国の政策
政府の円高対策がいかに的外れか、以下の事実でも分かる。
政府は8月24日の緊急円高対策で、外為特会から1000億ドルのドル資金を、国際協力銀行を通じて日本企業に融資し、海外企業の買収を支援することを決めた。円高だから、それに乗じて海外資産を取得しましょうということなのだ。
日本はバブル期にロックフェラーセンターやぺブルビーチゴルフ場、ハワイのホテルなどを次々に買収し、その後の不動産バブルの崩壊で大けがをした。
いまも欧米の資産価格は高く、しかも景気後退がほぼ確実に見込まれるなかで、政府は日本企業に同じ轍を踏ませようとしているのだ。
ここで指摘しておきたいのは、円高とデフレは表裏一体のものであるということだ
野田首相の経済政策では、日本経済は失速する
繰り返しになるが、円とドルとの相対量で、円のほうが過小でドルのほうが過大であれば、相対的に多いドルの価値が安くなってドル安・円高になる。
また、円とモノとの相対量で円のほうが過小でモノのほうが過大であれば、相対的に多いモノの価値が安くなってデフレになる。
円高もデフレも円の相対量が少ないことによって起こる現象だ。量的緩和にせよ、日銀引受にせよ、円の過小供給を緩和すれば、円高やデフレも解消できるのに、無策の政府・日銀で国民は不幸になっている。
野田佳彦首相がやろうとしているのは、こうした失政による円高を放置し、その無策のツケを増税で国民につけ回すことに他ならない。しかし、円高・デフレの根本対策がないので、結局は増税をしても税収増にはならない。
円高もデフレも、日銀が思い切った金融緩和をすれば止められる。ただ、民主党代表選でそのことを主張したのは、残念ながら、馬淵澄夫前国土交通相だけだった。しかも、その正論を述べた馬淵氏が代表選でほとんど票を集められなかったことに、私が民主党政権に深く絶望している理由があるのだ。
森永卓郎(もりながたくろう)
1957年東京都生まれ。東京大学経済学部卒。日本専売公社、日本経済研究センター(出向)、経済企画庁総合計画局(出向)、三井情報開発総合研究所、三和総合研究所(現:UFJ総合研究所)を経て2007年4月独立。獨協大学経済学部教授。テレビ朝日「スーパーモーニング」コメンテーターのほか、テレビ、雑誌などで活躍。専門分野はマクロ経済学、計量経済学、労働経済、教育計画。そのほかに金融、恋愛、オタク系グッズなど、多くの分野で論評を展開している。日本人のラテン化が年来の主張。
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