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当事者が初めて語った「放射能失言」の裏側!鉢呂経産大臣は原発村を揺るがす「原発エネルギー政策見直し人事」の発表寸前だった
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/19475
2011年09月14日(水) 長谷川 幸洋「ニュースの深層」:現代ビジネス
鉢呂吉雄経済産業相の辞任問題は、いまも謎の部分が多い。
鉢呂が記者会見で「死の町」と発言したのは事実である。だが、大臣辞任にまで至ったのは、記者との懇談で「放射能をうつしてやる」と"発言"したという新聞、テレビの報道が批判に拍車をかけた側面が大きい。
ところが、その発言自体の裏がとれないのだ。高橋洋一さんが9月12日付けのコラムhttp://gendai.ismedia.jp/articles/-/19197で指摘したように、各社の報道は「放射能をうつしてやる」(東京新聞)から「放射能をつけちゃうぞ」(朝日新聞)、「放射能を分けてやるよ」(FNN)に至るまでまちまちだった。
鉢呂本人は終始一貫「そういう発言をしたかどうか記憶にない」と言っている。実際の発言がどうだったかどころか、本当にそういう趣旨の発言をしたかどうかさえ、はっきりとした確証がないのである。
そこで私は13日午後、鉢呂本人に衆院議員会館の自室でインタビューした。鉢呂事務所は「辞任以来、どなたの取材も受けていません」と取材をいったん断ったが、その後、数時間経って「本人がお会いすると言っている」と連絡があり、インタビューが実現した。以下はその主なやりとりである。
■「朝日新聞の記事は間違いだ」
-いま、どういう心境か。
「『死の町』という言葉は、大変な被災に遭った福島のみなさんに不信の念を抱かせる発言だったと思っている。私は原発から3キロ圏内を視察した。ひとっ子1人いない様子を見て、私にはああいう表現しか思い浮かばなかった。申し訳ないし、反省している」
-8日夜の記者懇談はどういう状況だったのか。
「あの夜、視察から赤坂の議員宿舎に戻ってくると、記者さんが5,6人待っていた。みんな経済部の記者さんだと思うが、私はそれまで経済部と付き合いがなかったので、顔見知りはだれもいなかった。後ろのほうに政治部の記者さんが2人いたと思う。こちらは知っている」
「原発周辺では線量計を持っていた。私は一日で85マイクロシーベルトだった。その数字を記者たちに喋ったのは、はっきり覚えている。朝日の検証記事(13日付け)で『私が線量計をのぞいて数字を読み上げた』というのは間違いだ。線量計はJビレッジ(原発作業員の基地)に返却してきた」
-「放射能をうつしてやる」と言ったのは本当か。
「『うつしてやる』とか『分けてやるよ』と言った記憶は本当にないんです。もしかしたら『ほら』という言葉は言ったかもしれないが、それさえ、はっきり覚えていない。『ほら、放射能』という報道もあったが、放射能という言葉を出したかどうか分からない」
「はっきり言えるのは、私が防災服を記者になすりつけるような仕草をしたことはないっていう点です。一歩くらい記者に近づいたことはあったかもしれないが、なすりつけるようなことはしていない。そんなことがあれば覚えています」
-記者は発言を録音していなかったのか。
「していなかったと思う」
■「第一報を流したフジテレビは現場にいなかった」
-朝日の検証記事によれば「放射能をうつしてやる」発言の第一報はフジテレビだったとされている。フジの記者は懇談の場にいたか。
「フジテレビはいなかった。フジの記者は○○さん(実名)という女性なので、それは、あの場にいれば分かります」。
フジは「放射能を分けてやるよ、などと話している姿が目撃されている」と伝聞情報として第一報を伝えている。鉢呂の話でも、フジの記者は現場にいなかったという。ここは大事なポイントである。
-大臣辞任は自分から野田佳彦首相に言い出したのか。
「そうです。あの日は工場視察に出かけるとき、記者が宿舎にたくさん集まっていた。そのとき、どういう気持ちだったかといえば、これから視察に行くわけですから(辞任の意思はなかった)…。ただ工場視察を終えて、午後7時から総理にお会いするときは腹が決まっていた」
-首相から辞任を求められたのではないか。
「それはない。私はまず一連の事実経過を説明し、そのまま話を続けて、辞める意志を自分で伝えました」
-ずばり聞くが「大臣は経済産業省にはめられたのではないか」という説がある。これをどう思うか。
「それは憶測でしょう。私は推測でモノは言いたくない」
-役所と対立したことはなかったのか。「鉢呂大臣は幹部人事の入れ替えを考えていたらしい」という話も流れている。
「幹部人事をどうするか、だれかと話したことは一度もない」
■「原発反対派を加えて、賛成反対を半々にするつもりだった」
そして、ここからが重要な部分である。
-脱原発依存やエネルギー政策はどう考えていたのか。
「政府はエネルギー政策を大臣レベルの『エネルギー・環境会議』と経産省の『総合資源エネルギー調査会』の二段構えで検討する段取りになっていた。前者は法律に基づかないが、後者は法律(注・経産省設置法)に基づく会議だ。調査会は今年中に中間報告を出して、来年、正式に報告を出す方針だった」
「このうち総合資源エネルギー調査会は私が着任する前の6月段階で、すでに委員の顔ぶれが内定していた。全部で15人のうち3人が原発反対派で残りの12人が賛成派だ。私は事故を受けて、せめて賛成派と批判派が半数ずつでないと、国民の理解は得られないと思った。それであと9人から10人は反対派を加えて、反対派を合計12、3人にするつもりだった。委員に定数はないので、そうすれば賛成と反対が12人くらいずつで半々になる」
-それには役所が抵抗したでしょう。
「役所は『分かりました』という返事だった。私が出した委員候補リストを基に人選を終えて、後は記者発表するばかりのところだった」
-もう一度聞くが、それで役所と激論にならなかったのか。官僚は面従腹背が得意だ。
「私は最初から強い意思で臨んでいた。私は報告書の内容が必ずしも一本にならず、賛成と反対の両論が記載されてもいいと思っていた。最終的にはエネルギー・環境会議で決めるのだから、役所の報告が両論併記になってもいいでしょう。私のリストは後任の枝野幸男大臣に引き継いだ。後は枝野大臣がどう選んでくれるかだと思う。」
この話を聞いて、私は「これで鉢呂が虎の尾を踏んだ可能性がある」と思った。鉢呂は大臣レベルの会議が物事を決めると考えている。ところが、官僚にとって重要なのは法律に基づく設置根拠がある調査会のほうなのだ。
なぜなら、法律に基づかない大臣レベルの会議など、政権が代わってしまえば消えてなくなるかもしれない。消してしまえば、それでおしまいである。ところが、法に基づく会議はそうはいかない。政権が代わっても、政府の正式な報告書が原発賛成と反対の両論を書いたとなれば、エネルギー政策の基本路線に大きな影響を及ぼすのは必至である。官僚が破って捨てるわけにはいかないのだ。
■フジテレビはなぜ報じたのか
以上の点を踏まえたうえで、フジの第一報に戻ろう。
もし鉢呂の話が真実だとしたら、フジはなぜ自分が直接取材していないのに、伝聞情報として「放射能を分けてやる」などという話を報じられたのか。
記者の性分として、自分が取材していない話を報じるのはリスクが高く、普通は二の足を踏む。万が一、事実が違っていた場合、誤報になって責任を問われるからだ。記者仲間で「こんな話があるよ」と聞いた程度では、とても危なくて記事にできないと考えるのが普通である。
どこかの社が報じた話を後追いで報じるならともかく、自分が第一報となればなおさらだ。
フジは鉢呂本人に確認したのだろうか。私はインタビューで鉢呂にその点を聞きそこなってしまった。終わった後で、あらためて議員会館に電話したが、だれも出なかった。
もしも、フジが本人に確認したなら、当然、鉢呂は「そういう記憶はない」と言ったはずだ。それでも報じたなら、伝聞の話に絶対の自信があったということなのだろう。
経産省は鉢呂が原発エネルギー政策を中立的な立場から見直す考えでいることを承知していた。具体的に調査会の人選もやり直して、発表寸前だった。そういう大臣が失言で失脚するなら当然、歓迎しただろう。
そして「死の町」に続く決定的な"失言"をテレビが報じたのを機に、新聞と通信各社が後追いし既成事実が積み上がっていった。いまとなっては真実は闇の中である。
■子供のことを考え、1ミリシーベルト以下にするよう首相に頼んだ
-福島では「鉢呂さんは子供の被曝問題でしっかり仕事をしてくれていた」という声もある。
「それは年間1ミリシーベルトの問題ですね。8月24日に私は福島に行って除染の話を聞いた。『政府は2年間で汚染を6割減らす』などという話が報じられていたが、汚染は割合の話ではない。あくまで絶対値の話だ。しかも1ミリシーベルトは学校を想定していたが、子供は学校だけにいるわけではなく通学路も家庭もある。そこで私は菅総理と細野大臣に電話して、子供の生活全体を考えて絶対値で1ミリシーベルトにしてくれと頼んだ」
「すると菅総理も細野大臣も賛同してくれて、2日後の26日に絶対値で1ミリシーベルト以下にする話が決まった。良かったと思う」
-辞任記者会見では「何を言って不信の念を抱かせたか説明しろって言ってんだよ!」と暴言を吐いた記者もいた。あの質問をどう思ったか。
「その記者と部長さんが先程、私の事務所に謝罪に来ました。私はなんとも思っていません。部長さんにも部下を責める必要はないと言いました。まあ、仕事ですからね」
取材とはいえ、ああいう言い方はない。「記者」という仕事の評判を貶めただけだ。まったく残念である。
(文中敬称略)
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