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カレル・ヴァン・ウォルフレン氏は、当時の大蔵省について、次のような重要な指摘をしています。
***日本の「事実上」の国策の指導者である大蔵省(財務省)の高官は無能である。彼らには国の舵を取る能力はもはやない。彼 らは日本を破滅に導きかねない。 ──カレル・ヴァン・ウォルフレン著/篠原勝訳『人間を幸福にしない日本というシステム』毎日新聞社刊
ウォルフレン氏は、ここで「無能」という言葉を使っていますが、これには少し説明が必要です。ウォルフレン氏は自分のことになぞらえてこう述べています。自分は著述家としては「有能」であると自負しているが、チェスの指し手としては「無能」であると認識している、と。自分はチェスに関してはプロではないといっているわけです。つまり、「無能」とは財務省が自分の手に負えないことをやろうとしているといっているのです。
さらにウォルフレン氏は、多くの日本人が「日本は根本的変革が必要である」と考えていることを認めながらも、その変革が一向に果たされていないと述べています。ウォルフレン氏がこの主張をしたのは前掲の本が出版された1994年ですが、2011年の現在まで日本はずっとその状態のままなのです。ウォルフレン氏は、この日本の状況について、次のように述べています。
****日本の政治エリートの中心メンバーの一部を含め多くの日本人は根本的変革が必要だとたしかに認めている。にもかかわらずその幅広い合意は実際の変革に結びついていない。これは日本が組織としてきちんと機能していないことを意味している。すなわち日本は組織的な惰性におちいっている。(中略)堕落していることは組織の人々もとっくに気づいている。しかし、状況をくつがえすなにごとも起こらない。こういう状況をとくに「有害な惰性」(injurious inertia)と呼ぶことにしよう。──カレル・ヴァン・ウォルフレン著の前掲書より
ウォルフレン氏は、彼のいう「有害な惰性」には次の2つの原因があるといいます。
1.根本的な「無関心」
2.根本的な「無能力」
ウォルフレン氏は、日本は堕落し続ける「有害な惰性」に陥っていて、そうなった原因は、事実上の国策の指導者たちの「無能力」とそれに干渉すべき国民の「無関心」によるものである──こういっているのです。謎のような言葉ですが、国民の無関心についてはわかるような気がします。日本人、とくに若い世代の人は、政治に関してきわめて無関心です。
これは残念なことです。次の時代を担う若者が自分の国をどのようにして良くしていくかについて無関心であったとしたら、国は絶対に発展しないでしょう。ところでウォルフレン氏は、なぜ大蔵省を「事実上の国策の指導者」というのでしょうか。それは日本の場合、実際に国を動かしているのは、政治家ではなく、財務省の高官だからです。加えてウォルフレン氏は彼らのことを「無能」であるとし、日本の将来を危惧しています。
***彼らは日本を破滅に導きかねない。日本の戦後最長の不況がなおも続いている現在、政治の行方と外交関係が不安定のままであるこの時期に、この官僚たちは彼らが本来するべきことの逆をしている。内需拡大のために国民の懐に現金を差し入れるべきなのに、それどころか彼らは消費税にくわえて公共料金まで上げたくて仕方なくなっている。日本の経済の健全性と貿易相手国との関係を広い視野でながめればわかる。これは悲惨な状態だ。これは、世界との関係の基盤と日本経済の双方にさらなる打撃となるだろう。─ウォルフレン著の前掲書より
もし、このようなことが外国で起これば、現在英国で起こっているように国民による暴動が起こってしまうでしょう。ところが日本人はどんな不当なことが起こっても、「仕方がない」とあきらめ、暴動など起こそうとしない国民性があります。これはけっして誇るべきことではなく、干渉すべき国民の「無関心」に過ぎないとウォルフレン氏はいうのです。
さらにウォルフレン氏は、無能な経営者に率いられた組織で、その組織の構成員たちに無関心の幅が広がれば、それは組織の衰退と破滅の決定的な要因になるといっています。そして、日本はまさにそういう状態にあるのです。既に指摘しているように、日本は1990年以降経済の成長が止まっています。このような先進国は日本だけです。表面的には自民党の経済政策の誤りが指摘されますが、そのバックにいて自民党を操ってきたのは大蔵省(財務省)なのです。
自民党政権は長期にわたったので、党と官僚の一体化が進み、官僚抜きでは物事は決まらないのです。つまり、この国を実際に動かしているのは官僚組織なのです。民主主義を標榜している先進国で、政府が使う金の額と入手方法が、選挙で選ばれていない官僚によってすべて決定される国は日本以外どこにもない──ウォルフレンはこういっています。
こういう厳しい官僚の壁を唯一突破できると期待される政治家は、小沢一郎氏以外見当たらないのです。メディアの扇動に騙されてはならないと思います。── [日本の政治の現況/59]
http://electronic-journal.seesaa.net/article/223749837.html
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