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【第196回】 2011年8月31日
著者・コラム紹介バックナンバー
山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]
マーケットから見る野田内閣 下の「円高」と「増税」
増税ボーイ
8月29日の民主党代表選挙は、野田佳彦氏が決選投票を制して、新代表となり、翌30日、菅内閣の総辞職後、衆院の首班指名を受けて、内閣総理大臣に就任した。
粘りに粘った菅前首相であったが、最後は力尽きたかのような、静かな辞職となった。これ以上粘るとまずくなる事情が菅氏の側に新たに現れたのだろうか。ともあれ、今日の日本の窮状をもたらした菅内閣の政策を早く転換するためにも、また、次期衆院選まで早や残り2年となった与党・民主党に立ち直りの時間を与えるためにも、こんなことなら、もっと早く辞任してくれたら良さそうなものだった。
ちなみに、菅首相の最大の功績は何だったかと振り返ると、参院選前に消費税率引き上げを言い出して、結果として、消費税率の引き上げが困難な政治状況を作り出したことだったろう。
仮に参院選前に菅氏がおとなしくしていたら、民主党は多数を確保しただろう。そして、民主党が衆参で多数を抑えた状況で「社会保障と税の一体改革」の名の下に増税に向かっていたら、消費税率引き上げが決まっていたかも知れない。
それ自体が、デフレと不況の最中で不適切なタイミングの増税決定だし(直ちに増税を実施しなくても、「期待」のマイナス効果は表れかねない)、その後に、東日本大震災があったことを思うと、日本経済は、菅氏の暴発に結果的に救われたのかも知れない。財務省としては、財政再建を訴えるレクチャーが効き過ぎたのかも知れないが、大根役者を思い通りに動かす脚本を書くことの難しさが分かる。
さて、野田氏は、代表選の演説で、自ら「シティボーイには見えない」と仰っていたが、世間は彼のことを財務省が育てた「増税ボーイ」と見ている。
新内閣が出来ると、マーケットに及ぼす影響を考えることが半ば恒例となっているので、以下、主にマーケットの立場から、今後の野田首相体制について考えてみたい。一つは円高、もう一つは増税について検討する。
野田氏の代表選出前後の市場の動きは、概ね小動きであったが、前日比プラスだった29日の株価は、野田氏が1回目の投票で2位となり決選投票に臨む辺りから明らかに伸び悩みはじめ、野田氏が株式市場には好かれていないらしいことが覗えた。
円高対策は期待できない
先ずは、ドル・円相場で、市場最高値近辺にある為替レートから考えよう。
金融危機以来のNYダウと日経平均の動きを(現地通貨ベースで)為替レートと共に大まかに見ると、為替が円高になっている分だけ日経平均の回復が割り負けしている。
これは、直接的に、有力企業に輸出企業が多い日本の株式市場にあって、円高が悪材料であることもあるが、同時に、米国では金融危機後に大胆な金融緩和が行われた一方で、日本ではデフレが放置されたことの両国の株価に与える影響も反映していると考えるべきでもある。
野田氏は、民主党政権成立後、財務副大臣、財務大臣を歴任し、経済政策の中枢にいた。野田氏一人を責任者と見るのは酷だが、彼が大きく関わった政策の結果が、デフレの継続であり、円高であり、雇用に深刻な影響をもたらしている不況なのだ。
野田氏が関わった路線が原因で起こった円高なのだから、彼がもう一段偉くなることによって、その状況が改善すると期待することは現実的でない。
代表選の演説の中でも、彼は、「円高・デフレ」に言及する場面があったが、彼の言う円高対策とは、「中小企業の資金繰り対策」といった、「円高を我慢するための対策」であって、「円高自体を解消しようとする対策(デフレ脱却政策)」ではない。いわば、対症療法以外をかたくなに拒んで、病気の原因を治療しようとしない医者のような政策なのだ。
先般、財務省が発表した円高対策も奇妙なものだった。外為特会の資金を海外投資向けの融資に振り向け、民間が併せて外国に投資することによって、外貨の買いが発生する、という理屈だった。幾らかは外貨需要を増やす効果があるかも知れないが、これも、円高に悩む企業に対する対症療法の範疇だし、円高の大きな問題の一つが企業の戦略的脱ニッポンによる投資と雇用の「空洞化」なのだが、これを政府のお金で後押しすることになるではないか。
考えてみると、投資案件への融資は、複雑な裁量が必然的に絡むので権限を持ちやすく、官僚にとっては美味しい仕事だ。専門の組織でも立ち上げるなら、円高対策をきっかけに、有力な天下り先を作ることができるかも知れないし、関係する企業に対する影響力も大きいから、民間企業への割合高給な天下りポスト作成にも使えそうな仕組みだ。財務省の国際派官僚にとっては、なかなか期待の持てる雇用創出策だ。役所に理解のある元財務大臣として野田首相が、こうした政策を認めるなら、財務官僚は野田氏を讃えてくれるだろう。
円高への、対症療法としては大がかりなものである為替介入を何度か実施したが、そもそも介入単独の効果が一時的なものにすぎないのは市場の半ば常識だし、国際的に日本の介入が許されたのは、東日本大震災への同情が主因であり、一定の円安レベルへの誘導が認知されたわけではない。米英欧各国の行動を見るとしても、金融緩和の結果として自国通貨が安くなることは容認されるが、為替市場に直接的かつ継続的に介入する「中国のような」行為は、フェアでないので望ましくない、というのが、目下の先進国の合意事項だろう。
一方、一時75円台まで見て、主に76円台で推移する現状の円レートは、それなりの達成感があるように思う。当面は、米国がこれ以上の金融緩和に踏み切るか、米国のリセッションが明らかになるかがポイントだろう。
為替レートは2国の通貨の相対関係だとはいうものの、為替市場での「材料的重み感」では、米ドル側の材料が8割、日本円側の材料が2割といった感じだ。野田氏の首相就任は、この2割の重みに於いて、日本が抜本的な円高対策を取ることはないと市場参加者に思わせる点で、野田氏の首相就任は「円買いポジションの安心材料」の一つだといえるだろう。
大きな勝負は米国発の材料で決まるとしても、野田政権発足は、円高方向に一歩重みを加える材料と見て間違いあるまい。
増税は、いつどのように行われるのか
先ほど述べたように、野田氏の世評は「増税ボーイ」あるいは「ミスター・増税」だ。野田氏は、代表選の演説でも財政再建重視を強調したし、増税を先送りするような言質や反対派の取り込みのための多数派工作に増税封印を約束するような「握り」も行わなかったように見える。こと増税政策の点では、野田氏は今回の代表選挙に完勝した。
とはいえ、経済の状況を見て増税のタイミングを決めると建前上言っているので、増税を当面封印してしまい、先に延ばすオプションも野田氏は持っている。
増税が、いつ、どのような形で行われるのかは正直なところまだ分からないが、各種の投資を考える上では、景気の見通しを避けて通れない。
メインシナリオは以下のようなものではないか。
先ず、今後、通常の需要に復興需要が加わることで景気が割合好転する時期を迎えることが出来た場合、できれば党内を無難に融和したい野田氏は増税をテーマ化せずに、来年9月の代表選挙を乗り切ることができたとしよう。
財務省はそれまでに焦れているかも知れないが、その後、「社会保障と税の一体改革」の名の下に増税の具体化を詰め始めて、総選挙前に「大連立」は難しいとしても、民・自・公三党の政策合意を作って、増税に関する限り三党の「痛み分け」のような形を裏で財務省がアレンジし、消費税率を10%に上げる法案を通す。但し、民主党の前回総選挙マニフェストによると増税の実施前には選挙で信を問うことになっているので、実施に国会の同意を付けて、総選挙に臨む。これで、民主・自民何れが勝っても、決まった法案を施行する形で、早ければ2013年度から、遅くとも2014年度から、税率が上がることになる。
財務省は、税率の引き上げ実施を決める恒久的な法律ができるなら、実施の時期そのものは、そう急がないのではないか。現在の経済状況で急いで増税しない方がいいことは分かっているだろうし、増税は、将来の財政再建の際の財政支出削減を小さく抑えるために必要なのだろうから、将来の税率引き上げが確かに決まっていればそれで十分だ。
仮に、2014年度から税率引き上げ実施ということなら、前年の2013年には駆け込み需要が生じるので、この年の景気は案外いいかも知れない。ここで総選挙に打って出ると、僅差ながら民主党が勝てる可能性も出てこようか。
特に、自民党が、ここまでお人好し振りを発揮して協力するかどうか分からないが、財務省としては腕のふるいどころだ。財務省の官僚が、野田氏のことを「野田<使い勝手>佳彦」と呼んでいるかどうか、筆者は知らないが、野田氏は、霞ヶ関の期待に応えるためには、前任者の菅氏よりも上手の役者になる必要がある。
株式市場では、当面、「野田首相=増税指向=不景気=株安」という連想が働きやすいかも知れないが、実際に増税が決まり、悪影響が出るまでには、現在想像されているよりも時間が掛かるかも知れない。
今年後半から来年にかけての復興需要、あるいは、税率引き上げが決まってから実施までの間に生じる駆け込み需要の影響を重く見ると、株価はいったん案外回復して、駆け込み需要が見え始める頃が絶好の売り場というようなタイミングになるかも知れない。その後、増税が需要を圧迫する局面では、不況とデフレが再び深刻化する心配がある。将来の状況に不確実性は大きいが、十分心配しておくべきだ。
日本の景気を中心に考えるなら、野田内閣の不人気によって株価が大きく下げるような局面があれば、当面は、いい「買い場」になるかも知れない。バリュー投資家は、この可能性に注目する価値があるのではないか。
もちろん、その前に、デフレと円高の継続でボロボロになっているかもしれないし、欧州の危機や、中国の資産価格バブル崩壊といった、外的な悪要因があるかも知れないので、「安心して」投資が出来るわけではない。
野田首相が「増税ボーイ」であることは十分知られているので、当面の株価はそれを十分織り込んでいるだろうというに過ぎない。
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