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◎隙のない野田のアキレス腱を分析する
http://thenagatachou.blog.so-net.ne.jp/2011-08-30
2011-08-30 07:29 永田町幹竹割り
今回ほど首相を決める選挙でマスコミの警告が利いた例は少ないだろう。小沢一郎にすり寄った海江田万里に新聞テレビがこぞって反対、浮動票に影響して、代表が5人の候補の中ではもっとも言動に隙(すき)がない野田佳彦に決まった。大政党のリーダー選出での逆転劇は、1956年の石橋湛山選出以来のことだ。小沢対反小沢の代表選は連続3回にわたって小沢が敗北、その求心力にようやく陰りが見えた。民主党は鳩山由紀夫、小沢、菅直人というトロイカ体制から離脱し、世代交代の潮流が一層強まった形だ。ただ「ノーサイド」を主張する新首相・野田が「小沢のくびき」から完全離脱することは、海江田の得票が177票と半数に迫ったことからもなお困難である。政権運営は波乱含みだ。野党の思惑も作用して、衆院の解散・総選挙は秋の臨時国会末以降赤信号が点灯する状態になろう。政局は解散綱引きを軸に展開する。
代表選の結果は、何と言っても民主党を覆う危機感が最大の作用をした。総選挙大敗必至を誰が食い止められるかの選択だったのだ。その意味で小沢支配の「海江田政権」はあり得ない選択であったのだろう。あまりにも露骨な海江田の“小沢崇拝”は、永田町で「侮蔑」の対象にすらなっており、敗北で小沢神話は馬脚を現したことになる。小沢はグループ弱体化に危機感をあらわにしており、これまでの世代別のグループを一体化する動きに出ている。今後人事、政策で注文をつけ続けるだろう。また主流派から野田と前原誠司の二人が立候補して、競争激化を招き、結果的に決選投票での支持票を拡大したことも勝因だ。
野田は幹事長・岡田克也が辛うじてつけた道筋、つまり与野党融和路線を継承することになる。子ども手当廃止など3党合意も踏襲する。野田は候補の中で一番はっきりと増税不可避の見解を表明しており、消費増税、復興増税への道筋をつけようとするだろう。マニフェストも「理念は尊重」と述べつつも、修正の現実路線を選択するだろう。この路線は参院のねじれ現象を考慮に入れれば避けられず、とりわけ災害復興のための第3次補正予算案では、作成の段階から野党の主張を取り入れようとするだろう。
ここに重要な波乱要素が生ずる。「隙のない野田」の第1のアキレス腱だ。というのも増税にせよ、マニフェスト見直しにせよ小沢が真っ向から反対する路線であるからだ。野田がねじれを意識して野党に接近すれば、小沢が反対し、小沢に接近すれば野党が拒絶反応をする。この構図から抜け出るのは容易ではない。そうかと言って持論の大連立が実現するかというと、野党は総選挙を意識して乗る気配がない。復興に限っての大連立もない。自民党政調会長石破茂は「復興をテーマとした大連立はあり得ない。そもそも国民から与えられた議席は大連立が前提ではない」としている。
第2のアキレス腱は衆院の任期が2年を過ぎ、解散モードとなって来たことだ。自民党の基本路線は、臨時国会では3次補正は協力するが、協力はそれまでであり、後は早期解散戦略が基本だ。9月の11日には被災地岩手の知事選があり、これが意味するところは、解散・総選挙もようやく“解禁”されることにあるのだ。 自民党総裁谷垣禎一は野田に対して「3次補正が成立したら、国民に信を問うべき時期が来る」とけん制している。野田も記者会見で、自ら衆院解散に踏み切る可能性について「基本的には衆院任期の4年間は仕事をし続けていくが、その前にいろいろなことが起これば、解散はありうる」と述べた。要するに自らの手で解散せざるを得ない宿命を自覚しているのだ。
アキレス腱はまだある。まず経験不足から来る問題だろう。野田が要職に就いたのは党が国対委員長、内閣が財務相だけであり、外交の経験がない。野田は8月に、「A級戦犯は戦争犯罪人ではない」とする見解を改めて表明して、中国や韓国の反発を買っている。外交を知っていればあり得ない発言だ。ましてや首相発言なら外交に致命傷となる。立て板に水の弁舌や美辞麗句も1度や2度は新鮮だが、首相がこれをやり過ぎると鼻につき始める。やはり弁舌巧みな海部俊樹の評判が悪かったのと同じだ。首相のポジションは弁舌よりも実行力の有無だ。代表選に先立って「大連立」を唱えた方向感覚も疑われる。大震災をマニフェスト見直しの口実にする傾向も、欺瞞(ぎまん)性が強い。
内閣支持率はご祝儀相場でそれなりの高さを得るだろうが、高いうちに解散して、敗北の歩留まりを少なくするか、追い込まれての解散で大敗するかの選択を迫られよう。いずれにせよ、民主党のかねてからの主張である「政権交代したら解散しなければ内閣の正統性がない」は野田本人の持論でもある。3次補正で大震災復興にメドがついたら、早期に解散・総選挙で国民の信を問うのが憲政の常道だろう。
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