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http://mainichi.jp/select/seiji/fuchisou/news/20110822ddm002070065000c.html
風知草:かすみ始めた「脱原発」=山田孝男
「脱原発」がかすみ始めた。菅直人首相の退陣が秒読みに入り、原発の維持・推進に理解を示す後継候補が増殖している。民主党代表選は、候補者の器量がB級かどうかよりも、この側面が重要だと思う。
高名な文芸評論家が「疑問だらけの菅降ろし」と題する一文を毎日新聞に寄せ、脱原発首相に対する批判勢力の言葉の貧しさを酷評した(加藤典洋、11日夕刊東京本社版)。
それによれば、いま最大の政治課題は原発である。首相は脱原発という新しい価値を明示したが、反対派は現状維持(原発推進)以外に提案がない。足りぬ電力をどうするかは経済の問題だ。反対派は真に必要な政治論戦をサボり、首相の政治努力を空洞化しようとしているにすぎない−−という。
実際、後継候補たちは原発の維持に理解を示している。「原子力技術を蓄積することが現実的」(野田佳彦)、「世界最高の安全基準を策定する」(馬淵澄夫)、「短絡的な脱原発というイメージの独り歩きは危険」(海江田万里)……。
脱原発志向の候補もいるにはいるが、菅をしのぐまでの執念は感じられない。
原発と政治を描いて話題の近未来小説「コラプティオ」(真山仁著、文芸春秋7月新刊)は、震災後の日本で政界再編が起き、原発推進派の連立政権が生まれるという話だ。このイメージがあながち荒唐無稽(むけい)とも言えない現状なのである。
菅はどう見ているのか。知人の問いにこう答えた。
「もう逆戻りできないところまできたとは思うんですよ。ただ、これ(脱原発)は、社会構造全部にかかわる大政策ですからね。そういう意味では、まだまだこれからですよ」
政権に未練はないかという質問には、「そんなこと言ったら10年やってなくちゃいけない」。先に引いた加藤典洋の文章にも目を通しており、「見てくれている人は、見てくれている」と自負を語ったという。
「ポスト菅」候補の面々も脱原発を否定しているわけではない。脱原発とも原発推進ともつかぬ玉虫色へ逃げ込むことが選挙対策になっている。代表(首相)の座も票次第。察しはつくが、それで原発推進の官産複合体と相撲が取れるか。
原発推進派の世界観にしたがえば「世界の主流は原発推進であり、青臭く迷っているのは日本だけ」である。だが、米露英仏といえども国内で原発不信がくすぶっている。
なにしろ、世界3位の経済大国で世界最大級の原発(出力でチェルノブイリの3倍)が崩壊したのだ。世界注視の中、強制退去と自主避難を合わせ、10万人が故郷を追われて流浪している。「世界の主流」の皆様に気兼ねして小声で将来を語る必要など、どこにもない。
「脱原発は決まった、後はスケジュールの問題だ」という訳知り顔の解説もひっかかる。ごもっともだが、そのスケジュールを誰が詰めるのか。刻限が5年と50年では、脱原発と原発推進ほどの違いがある。
党内最大グループを率いて代表選を左右する小沢一郎元代表の原発観が不明な点も気になる。明確にしてほしい。
これは「非常識な菅」の代わりに常識家を選ぶ選挙ではない。元代表の操り人形を選ぶ選挙でもない。原発推進の官産複合体に挑み、改革する意志と実力を備えた指導者を選ぶ。その国家意思を世界に示す機会にしなければならない。(敬称略)(毎週月曜日掲載)
英訳
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毎日新聞 2011年8月22日 東京朝刊
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