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近聞遠見:「ケーサンが走り出した」=岩見隆夫
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毎日新聞 2011年8月6日 東京朝刊
きょう、広島の平和記念式典で、菅直人首相は何を語るか。
3・11東日本大震災から約5カ月、菅首相の<脱原発>宣言から約1カ月、難局のなかでフクシマとヒロシマをどうリンクさせるか、内外が目を凝らしている。首相の進退問題にも微妙に響くかもしれない。
8月政局に入ったが、行方は霧のなかだ。<脱原発>の3文字が菅退陣の綱引きのなかに組み込まれ、視界を不透明にしているのは間違いない。
このところ、菅首相は、
「ケーサンが走り出した。明らかに意図的だ」
と周囲に声を荒らげることが多いという。ケーサン? ああKさん、海江田万里経済産業相のことか、とも思えたが、そうではなく経産、経済産業省を指している。
原発の存続・推進を意図して、経産省が活発に動き始めた、と警戒しているのだ。側近には、
「かなりブレーキを踏んだが、一歩でも逆行しないように次々手を打っていく。国民も意識を変えてもらわなければいかん」
と漏らしている。また、
「蓮舫(前行政刷新担当相)にはすまないが、細野(豪志・原発事故担当相)を起用して海江田とのチェック・アンド・バランスをとったんだ」
とも。
確かに、浜岡原発停止要請、ストレステスト(安全評価)指示による玄海原発再稼働阻止、<脱原発>宣言、経産省への電力需給情報開示要請、同省首脳更迭という一連の措置は、菅が踏んだブレーキということだろう。
さて、菅VS経産の対立をめぐる反応は複雑だ。菅は、
「すぐ思い付き、延命で片づけられる」
とぼやいているという。批判の急先鋒(せんぽう)は鳩山由紀夫前首相で、
「菅さんは思い付きのように別の話をすっと作るのは上手です。消費税やTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)、<脱原発>もそう。しかし、政治はパフォーマンスではない」(7月12日付産経新聞)
と決めつけている。
だが、思い付きかどうかの証明はむずかしい。菅政権の1年余を振り返ると、目先を次々変えていく手法が目立つのは確かで、政権の目標が定まらない。退陣論が強まる理由でもある。
鳩山が言うように、かりに<脱原発>が思い付きで宣言されたとしても、すでに独り歩きが始まっている。<脱原発>の3文字に世論の7割が共感を示し、各論に入れば反応もさまざまになるだろうが、方向性は動かない。
<脱原発>の参入によって、政争の流れが変質しつつある。
「菅政権は支持しないが、<脱原発>の1点に絞って支持する、という意見が出だした。菅側には、辞めてもいいが、政権交代すれば、<脱原発>がトーンダウンする恐れがあるので、もう少し頑張らないと、という理屈が加わる。全体的に菅ペースじゃないか」
と民主党幹部は分析する。また、別の幹部は、
「この機を逃がすテはないと、自民党が菅による<脱原発>解散を強く期待している。だから、菅でぎりぎりまで引っぱろうと。不信任案を出した自民党が、結果的に延命に手を貸す奇妙な構図になった」
とみる。
しかし、どんな理屈が加わろうと、退陣表明(6月2日)は重たい。すでに外交はストップ状態だ。菅首相には早々に言責(言ったことの責任)を果たしてもらわなければ、すべてがおかしくなる。(敬称略)=毎週土曜日掲載
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