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「原発別居」「原発離婚」が聞こえてきた 避難先選びより深刻な「家庭内ギクシャク」
2011年7月25日 月曜日
藍原 寛子
6月29日の午後、郡山市のファミリーレストランで、2人の子を持つ母親と向かい合っていた。
母親はとつとつと、話し始めた。
「家族で避難するって、そう簡単なことじゃないんです。私もだんなも仕事があるから。子どもたちだって、『遊んでくれるから』って、だんなが大好きで、離れたくないって。でも子どもだけでも放射能の心配のないところで過ごさせてあげたい。『行きたくない』って言うのを説得して、避難させたんです」
20ミリシーベルトを早く撤回して
「郡山市は空間線量率測定値の平均が毎時0.2マイクロシーベルト以上の学校施設で教育活動を行わない」ことなどを求め、郡山市の14人の子どもが6月24日、同市を相手取って、仮処分申請を福島地裁郡山支部に申し立てた。郡山市は争う構えだ。
この母親は、申し立てを行った子ども(債権者)の親の1人。今回の仮処分申請に参加した経緯とともに、母親として放射能が子どもの健康にどのような影響を与えるのかという不安、避難させるべきかどうか迷ったことなどを話してくれた。2人の子どもは、県外で合宿のような形で受け入れてくれる団体のところで、両親と離れて避難生活を送っている。
「『自分の子どもだけを避難させて、それでいいのか』と思いました。本当は、郡山市を訴えるなんてしたくないです。でも国や文科省を訴えたら何年かかるか分からない。とにかく早く対応してもらいたいから仮処分申請をしました。文科省には20ミリシーベルトを早く撤回してもらいたい。学校ぐるみで、子どもたちを避難させてほしいからなんです」
共働きで忙しい毎日で、まさか市を訴えるなど、思ったこともなかった。しかし、原発事故が、家庭の状況を一変させた。この母親が主導権を握る形で、仮処分申請への参加、子どもだけの避難など、大事なことを決めていった。何度も夫と話し合い、自身も悩んだという。
「もし、リーマンショックがなかったら…。リーマンショック後は収入が10万円以上減ってしまって…。いろいろ話し合ったけど、だんなが仕事を辞めて家族全員で避難なんて無理。仕事がなくなったら、もっと不安になる」
そう言って、うつむいた。
ビデオを夫に見せて決める
「大丈夫ですかって? 大丈夫な人なんて、福島県民にはいないよ!」
震災後、県内の知人に安否確認の電話をした時、受話器の向こうから、こんな言葉が返ってきた。家族が別れて暮らさなければならなくなり、「こんな事態は想像もしなかった」という出来事に直面している家庭は県内に少なくない。
東日本大震災と原発事故発生以降、原発や放射能、被ばく問題に関する勉強会や講演会が県内各地で盛んに行われている。
特に女性(母親)は勉強熱心で、5月に郡山市で開かれた講演会で、最前列でビデオカメラを回していた母親は、「今日は夫が仕事で来られなかったから、家に帰って夫に見せる。そして避難するかどうか話し合って決める」と言っていた。
夫は仕事で忙しく、勉強会にもなかなか来られない一方で、時間を融通できる妻が熱心に参加する――。そんな中で、夫と妻の隔たりが大きくなる家庭もあり、取材の中では「原発別居」「原発離婚」などという言葉も聞こえてきた。
特に、子どもを持つ家庭が、避難や疎開、家族別居などの選択に迫られている。放射能の心配に加えて、引っ越しや転校で友達と別れたり、両親の離婚など、子どもたちは思いがけない状況に巻き込まれている。
「子ども福島」に寄せられる相談
「とにかく、お母さんたちに相談できる人がいないんですよ。問い合わせの電話でも『どうしたらいいか分からない』『家族内で意見が分かれている』と、不安を訴える内容がほとんど。『避難することを決めたので、避難先はどこがいいですか』という内容は少数」
「たった今も、夫が単身赴任している共働きの人(母親)から電話がありました。『仕事のことがあるけれど、子どもがまだ小さいので、子どもを守らないと』という相談でした。避難するかしないか、どっちにしろとは言えませんけれど…」
市民グループ「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」(略称・子ども福島)で連日、相談を受けている煙山亨さんは、お母さんの不安や戸惑いをダイレクトに受け止めている。
「相談者の多くが、携帯電話からのメールや電話。パソコンのメールというのは少数です。インターネットで情報を検索して相談してきた人も中にはいますが、実際にはそういう人は少なくて、講演会や集会で配られていたチラシを見たり、お母さん同士のネットワークや口コミで相談してくる人が多い」と言う。限られた情報源の中で、何とかしたいと動き回る母親たちの姿が浮かんでくる。
子ども受け入れ、ハワイやドイツからも
7月21日から、福島県内の学校が夏休みに入った。
「夏休みだけでも」と、子どもたちの“夏休み疎開”を計画する家庭が増えている。市町村などを通じて、夏休みの一時的な“疎開イベント”への子ども参加を募集する団体もある。
原発から30キロメートル圏外にも関わらず、高い放射線量が計測され、全村避難となった飯舘村には、ハワイやドイツなど海外からも、子どもを一時的に受け入れたいという申し出が寄せられている。
一方、県外避難に関する行政への問い合わせは、「今のところ一段落している」(福島県災害対策本部県外避難者支援チーム)という。同チームによると、県内外合わせた避難者は4万5000人あまり。6月中旬には、夏休みを控えた時期で問い合わせが殺到したが、今は落ち着いているという。夏休みに入ったことや、他都道府県の窓口への問い合わせが分散したことなどが、その要因と考えられるという。
県は震災直後から県外避難者支援チームを立ち上げていたものの、福島県の避難者を受け入れている各都道府県の情報について、積極的には収集・発信はしてこなかった。しかし、県民からの問い合わせが殺到したため、全国の各都道府県のホームページをチェックして、情報を掲載する「県外避難者支援ブログ」をようやく7月初旬に立ち上げた。
県は5月16日、佐藤雄平知事名で、全国の都道府県に対して、罹災(りさい)証明や被災証明がなく自主的に避難する人(自主避難者)に対しても、証明がある人と同様の行政支援が受けられるよう要請した。
この要請から2か月以上が過ぎたが、同チームによると、現時点までに対応を決めたのは、山形、新潟、秋田、静岡、沖縄のわずか5県に止まっている。原発から20、30キロメートル圏外で、放射能の影響を避けるために、自己判断で避難したいと考える人にとっては、行政的な支援も含めて、まだまだハードルが高いと言っていいだろう。
チェルノブイリ「避難義務」レベル
一方で、県内外では、避難の必要性と行政のサポートを訴える集会や政府交渉が盛んに行われている。
6月30日には都内で、グリーンピースジャパンや、地元の市民団体・子どもたちを放射能から守る福島ネットワークによる文科省など政府関係団体への要望活動が行われた。
市民団体の代表は、罹災証明や被災証明の有無に関わらず、自主避難や疎開者への経済支援を行うことや、避難区域の拡大などを求めた。
同時に、フランス政府認証の非政府組織(NGO)「ACRO」と連携して行った調査で、福島市の6歳から16歳の子供10人全員の尿から、セシウム134(半減期2年)、セシウム137(半減期30.1年)が検出されたことも発表。福島市周辺の子どもの内部被ばくを指摘し、内部被ばくを避ける政策の一環として、県民の避難を進める政策を求めた。
市民グループは同時に、福島県庁周辺の土壌調査の結果も発表した。
文科省が6月29日に測定した県庁の土壌調査測定値では、セシウム134と137が土壌1キログラム当たり3万2000ベクレルだった。これをチェルノブイリの調査値と比較できるように1平方メートル当たりのベクレル値に換算(換算係数20)すると、1平方メートル当たり640キロベクレルになる。
チェルノブイリにおける「避難の権利区域」(1平方メートル当たり185〜555キロベクレル)、「避難の義務」(同555キロベクレル)を超え、「県庁周辺は『避難の義務』レベル」と指摘した。
こうした避難促進を求める声に対して、原子力災害現地対策本部は7月19日に市民団体との交渉の席で「国は安全と言っており、自分の判断で避難するのは構わない。国としてはとどまっていただくことを施策としてやっている」などと答えた。
「また『直ちに』と言うと語弊がありますが」
「チェルノブイリ級の土壌汚染。避難義務レベル」という市民団体。一方で「避難は自由、ただしとどまっていただく施策」を取る国。目の前には同じ現場が広がっているのに、あまりにも幅がありすぎる両者の見解。この隔たりの前で、県民は戸惑い、混乱し、避難するか、しないのかに揺れ、対応を決めかねているのが現実ではないか。
混乱を招いているのには、国の対応にも問題がある。
子どもの尿からセシウムが検出された問題で、市民団体は、自分たちの調査結果について、このような趣旨で声明を出している。「(内部被ばくを測定する)ホールボディカウンター検査と組み合わせなければならず、尿検査だけでは評価できない。ただ、とにかく尿からセシウムが出た。今後は、行政に対して内部被ばくのより詳しい調査を求める」。
これに対し、高木義明文科大臣は「尿とホールボディカウンターの両方の検査と分析が必要」という同じ見解を示しつつも、市民グループの調査結果を独立行政法人放射線医学総合研究所(千葉市)に分析させた。そして、「この値では、専門家の話では、直ちにと言うと、またいろいろ語弊がございますが、極めて低いレベルだと、こういうことが言われております」と、会見で述べた。
実際の検体を持たず、問診もしていないのに、数字のみで評価するのは、あまりに安易、非科学的ではないか。
この点について、上京して国や東電、原子力保安院の統合会見に出席し、文科省の見解をただしたが、明確な答えは返ってこなかった。
安全か、危険か――。安全性を述べ、県民の安心を得るためには、危険性を述べる側が出している何十倍もの具体的なエビデンス(証拠)が必要で、具体的で分かりやすい説明も欠かせない。
とどまると「安全だ」というメッセージに
子ども福島に寄せられた相談内容について取材が終わると、最後に煙山さんがこう打ち明けた。
「実は、今月いっぱいで、子ども福島の避難相談の担当は外れます。前から自主避難を考えていたのですが、新しい仕事も決まって、そちらに行くことに決めました」。
長女は大阪、長男は福島。来月からは、妻と2人で淡路島で生活するという。煙山さん一家も、家族が離ればなれになって暮らすことになってしまった。
「私たちがいつまでも福島に残っているから、それが『安全だ』というメッセージになってしまっている」。
母親らからの相談を受ける中で、煙山さんも自らの次の人生を決断していたのだった。
深刻ぶるつもりはない。本当に深刻にはしたくはない。
ただ、「大丈夫な人はいない」。本当に、その言葉通りなのだ。
震災と原発事故で、誰もが今、大きな岐路に立っている。
それがフクシマの現実なのだ。
このコラムについて
フクシマの視点
東日本大震災は、多数の人命を奪い、社会資本、自然環境を破壊したが、同時に市民社会、環境、教育、経済、政治や行政など、各分野に巨大なパラダイム・シフトを起こしている。我が国はどのような社会を志向していこうとしているのか。また志向していくべきなのか。「原発震災」で、社会の姿が大きく変わりつつある福島、震災のフロントラインで生きる人々の姿から、私たちの社会のありようをグローカル(グローバル+ローカル)な視点で考える。
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著者プロフィール
藍原 寛子(あいはら・ひろこ)
藍原 寛子フリーランスの医療ジャーナリスト。福島県福島市生まれ。福島民友新聞社で取材記者兼デスクをした後、国会議員公設秘書を経て、現在、取材活動をしている。米国マイアミ大学メディカルスクール客員研究員として米国の移植医療を学んだ後、フィリピン大学哲学科客員研究員、アテネオ・デ・マニラ大学フィリピン文化研究所客員研究員として、フィリピンの臓器売買のブローケージシステムを調査した。現在は福島を拠点に、東日本大震災を取材、報道している。フルブライター、東京大学医療政策人材養成講座4期生、日本医学ジャーナリスト協会員。
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