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陸山会事件 愚劣な捜査はこの国に悪夢を見せたジャーナリストの目 魚住昭 (週刊現代7/30号)2011.07/20 [Wed] 日々坦々
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6月30日、検察庁を激震が襲った。東京地裁が小沢一郎氏の資金管理団体・陸山会を巡る事件で、東京地検特捜部の検事が作成した調書の多くを証拠採用しない決定を下したからだ。
なかでも衝撃だったのは、「小沢氏に4億円の虚偽記載を報告し、了承を得た」という石川知裕衆院議員の調書の任意性が「検事の威迫や利益誘導によって作られたもだ」として全面否定されたことだった。
これで検察側が描いた事件の構図は瓦解し、検察審査会の議決で強制起訴された小沢氏の無罪がほぼ確実になった。
決定理由の要点を紹介しておこう。まず問題になったのは石川議員が逮捕される前日の昨年1月14日に作成された調書だ。このとき石川氏は田代政弘検事の調べに、初めて政治資金収支報告書への「故意の虚偽記載」を認めたとされていた。
ところが石川氏は公判で「特捜部は恐ろしいところだ。何でもできるところだぞ。操作の拡大がどんどん進んでいく」と脅され、小沢氏に累が及ばぬよう署名せざるをえなかったと主張。田代検事は「そんなことは言ってない」と反論した。
どちらの言い分が正しいのか。地裁の判断を決定づけたのは、昨年の5月、検察審査会の議決後に石川氏が田代検事の再聴取を受けた際、ICレコーダーに録音したやりとりだった。
石川議員「ここは恐ろしい組織なんだから、何するかわかんないんだぞって諭してくれたことがあったじゃないですか」
田代検事「うんうん」
さらに田代検事は「ちゃんと12月に出頭してれば捕まってないんだから・・・・あそこで対決姿勢を示さなければ」と石川氏が特捜部の呼び出しに応じていれば逮捕がなかったかのように言ったり、「検察が石川議員を再逮捕しようと組織として本気になったとき、まったくできない話かというとそうでもない」と再び逮捕の脅しをかけたりしていたから言い逃れできなくなった。
石川氏が虚偽記載を小沢氏に報告し、了承を受けたのを認めたとされる昨年1月19日付調書についても同じだ。
石川氏は公判で「再逮捕の脅しに加え、これぐらい書いても小沢さんは起訴にならないから」と言われたのでやむなく署名したと述べ、地裁は彼の言い分を全面的に認めた。その根拠となったのもICレコーダーの記録だ。
田代検事「要するにさ、僕は石川さんに色んな技を授けて調書にした部分もあるけどね・・・法律家であれば、ちょっと(小沢氏の)共謀の認定としてはきついよね、という位の話はしたじゃない。で、うちの方はうまい具合に想像したとおり(小沢不起訴に)なったわけでしょ」
地裁の決定書は「特捜部は恐ろしいところだという威迫ともいうべき心理的圧迫と小沢の不起訴見込み判断という利益誘導、まさに硬軟両面からの言辞がなされたことにより石川被告は調書に署名押印したものと推認される」と述べ、特捜部の捜査手法を痛烈に批判した。
さらに地裁は会計責任者だった大久保隆規氏の虚偽記載への関与を認めた石川・大久保両氏の調書が「切り違い尋問」で作られたと指摘した。特捜部は大久保氏に「石川が報告したと供述した」と偽って自白させ、つづいて「大久保が認めた」と言って石川氏に大久保氏への報告を認めさせていた。これは典型的な違法捜査である。
決定書からは特捜部の捜査への怒りや不信感がひしひしと伝わってくる。小沢氏本人の公判はこれからだが、陸山会事件が検察史に深刻な汚点として残ることはもう疑いようがない。
しかし、それ以上に深刻なのは、陸算会事件が政治状況を捻じ曲げてしまったことだ。事件がなければ参院選での民主党の惨敗もなかっただろうし、小沢氏の強制起訴もむろんなかった。愚劣な捜査が政権交代の意味を台無しにしたのである。まるで悪夢を見ているような気分だとしか言いようがない。
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