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菅政権の末期的混乱状況を生んだ、民主党“官僚支配対抗戦略”の誤り
http://diamond.jp/articles/-/13204
2011年7月20日 上久保誠人 [立命館大学政策科学部准教授] :ダイヤモンド・オンライン
菅直人首相が、全国の停止中の原発再稼働に「ストレステスト」の実施を条件とすることを決断した。また、原発への依存度を段階的に引き下げ、将来は「脱原発社会」を目指すとも表明した。これまでのエネルギー基本計画を白紙撤回し、経済産業省と原子力安全・保安院を分離する考えも示した。これらは、原発再稼働を急ぐ経産省の意向を翻し、エネルギー政策を大転換させるものだ。だが、十分な議論なしに政策の大転換が表明されたことが厳しく批判されている。「菅降ろし」を凌ぎ切った菅首相だが、その政権運営や政治手法に対する自己中心的・独断的との反感は、更に広がった。
しかし筆者は、菅政権の意思決定の混乱を、菅首相個人の資質の問題と考えない。むしろ、民主党政権の「官僚支配」に対抗するための戦略の誤りが混乱の原因となったのだと考える。
■民主党は「議題設定権」重要性に気付かなかった
「官僚支配」の排除は、日本政治の長年の課題だ。例えば、橋本・小泉政権では「経済財政諮問会議」の設置など、首相官邸機能を強化し、省庁間の利害調整の効率化を図って官僚支配に対抗しようとした。だが官邸主導でも、官僚支配はなかなか抑えられなかった。官僚が、政策立案過程での「議題設定権」を握っていたからだ。
「議題設定」とは、政策の最初のたたき台を作成することだ。「議題設定権」を持てば、自己に有利な争点だけを政策決定過程に持ち込めるので、大きな権力を行使できる。日本政治では、各省庁の官僚が議題を設定した。その結果、官僚に都合の悪い改革案は、各省庁で却下されて、官邸に上ることがなかった。
一方、民主党は野党時代から、首相官邸主導とは別のアプローチを模索した。筆者はある民主党の実力者から、民主党が政権を獲得した時の、政治家と官僚の関係がどうあるべきか提言を求められた。筆者は「官僚を抑えるためには、『議題設定権』を押さえることが重要。それには、官僚組織の独断で行われている、審議会委員の任命権を民主党政権が握り、官僚の設定する『議題』に『お墨付き』を与える『御用学者』を審議会から一掃すること」と提言した(前連載第20回を参照のこと)。
だが、民主党政権の戦略は大臣、副大臣、政務官の「政務三役」を各省庁に投入して官僚に対抗するというものになった。結果的に「政務三役」の過重労働で、官僚支配がむしろ強まった。
御用学者の排除による議題設定権の掌握の重要性は、福島第一原発事故を契機に広く認識された。「原子力村」と呼ばれる、経産省、電力会社、御用学者の強固なネットワークが、エネルギー政策の「議題設定権」を完全に押さえてきた弊害が、安全管理体制の杜撰さにつながったと見做されたからだ。
「原子力村」への世論の批判は厳しい。だが、菅首相がその世論に応えるのは難しかった。「議題設定権」を押さえた経産省から官邸に上る提案は、「原子力村」からの原発推進のものばかりである。それを菅首相が覆すには、独断でやるしか方法がなかったのだ。
■民主党は「官邸主導体制」を廃止する蛮行を犯した
ただ、民主党政権が「議題設定権」を押さえられなくても、首相官邸が機能すれば、ある程度は官僚に対抗できたはずだ。だが、民主党政権は「経済財政諮問会議」を、「小泉構造改革の推進に使われたから」という、ただの感情論で廃止する蛮行を犯した。結果として官邸には、少数のスタッフで法的根拠がない、内閣官房の一室としての「国家戦略室」が残った(前連載第54回を参照のこと)。
その結果、菅政権は原発事故対応について、「原子力村」以外からの「セカンドオピニオン」を、既存の内閣府の組織から収集できず、新たにさまざまな会議を設立せざるを得なかった。だが、会議の乱立は、指揮命令系統の混乱を招いた。もし民主党政権が「経済財政諮問会議」などを廃止せず、平時から機能させていれば、エネルギー政策の転換について、「原子力村」に対抗する議論ができただろう。
■政調会と国家戦略室の一体化は、族議員による官邸の占領をもたらした
また、国家戦略室の形骸化は、民主党議員の「族議員化」を加速した。民主党政権は発足当初、自民党政権下で族議員による利益誘導政治の元凶となった「政調会」を廃止し、政策決定を政務三役に一元化した。だが、民主党内から不満が高まり、菅政権では政調会を再度復活させた。そして、玄葉光一郎政調会長に国家戦略相を兼務させた。そして、首相官邸に個別の業界・労組などの要求が入り乱れるようになった(前連載第54回を参照のこと)。
菅首相の「脱原発」表明に対して、玄葉国家戦略相は慎重な姿勢を崩さないなど、首相官邸からほとんど賛同がない。電力総連が民主党の主要な支持団体の1つで、政調会が「脱原発」に賛同できないからだ。首相官邸は政調会と一体化したことで族議員に占領され、個別利益を排除できなくなったようだ。
■財務省を司令塔とした菅政権最後の戦い
結局、首相官邸が頼りにしたのは、「財務省」だ。菅首相は元々、「財務省(大蔵省)解体論」を唱え、財務省と闘ってきた政治家だったが、民主党政権発足後に豹変した(第2回を参照のこと)。そして、菅政権では財務省が「司令塔」の役割を果たしてきたのだ。
菅政権の意思決定に、財務省の意向はよく反映されている。菅政権は財務省が望む「税と社会保障の一体改革」に正面から取り組んできた。また、東電の賠償スキームの政府案は、財務省が作成したとされる。かつて金融システムを守るという名目で、財務省(大蔵省)が作成した銀行救済策とよく似ているからだ。
ただ、財務省を司令塔にした、菅政権最後の戦いであるエネルギー政策の大転換が、かつての「財務省解体」と酷似していることは皮肉だ。財務省と金融業界の癒着の関係を猛批判し、財務省解体を訴えた菅氏の姿は、経産省と「原子力村」の密接な関係を糾弾し、経産省と原子力安全・保安院の分離を訴える姿と完全に被っている。ただ、菅首相の周辺に、かつて彼を支えた「政策新人類」たちの姿がないことが、唯一にして、最大の違いなのだろう。
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