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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/14142
松本復興担当相の辞任騒動に見る民主党の「闇」
メディアはなぜ暴言を報道しなかったのか
2011.07.06(Wed) 池田 信夫
日本経済の幻想と真実
松本龍復興担当相が、被災地を訪問した際の暴言を批判されて辞任した。特に大きな反響を呼んだのは、宮城県の村井嘉浩知事を訪ねたときの発言だ。
<(漁港を)3分の1から5分の1に集約すると言っているけど、県でコンセンサス得ろよ。そうしないと我々何もしないぞ。だからちゃんとやれ。そういうのは。
お客さんが入ってくる時は、自分が入ってからお客さん呼べ。いいか。長幼の序が分かっている自衛隊ならそんなことやるぞ。分かった?>
暴走した復興担当相
まるで酔っぱらった上司が部下を叱っているようだが、これを閣僚が公式の席で知事に面と向かって発言したのである。おまけに<今の最後の言葉はオフレコです。書いたらその社は終わりだから>とメディアを脅している。
これに先立って、岩手県庁ではサッカーボールを持ってきて知事に向かって蹴り、「キックオフだ」と悦に入っていた。知事との会談では「九州の人間だから、東北の何市がどこの県とか分からない」と言っている。
一連の発言は常軌を逸しており、内容の良し悪しより人格に欠陥があると言われても仕方がない。このような人物を、現在の最重要政策である復興担当に指名した菅直人首相の責任は重い。
こういう事態は、以前から危惧されていた。松本氏は防災担当相だったが、震災にまったく対応できず、仙谷由人官房副長官が実務を仕切った。このため復興担当相には仙谷氏が有力視されていたが、首相の辞任を求める仙谷氏は固辞し、松本氏にお鉢が回ってきたわけだ。
その就任会見でも、松本氏は「自民党も民主党も公明党も嫌いだ」という意味不明の発言をし、後に陳謝に追い込まれている。今回のような事態は、遅かれ早かれ来ただろう。それが就任から9日間ですんだのは、むしろ被災地のために幸いだった。
腫れ物にさわるように扱う大手メディア
問題の映像を見て普通の人が疑問に思うのは、なぜこんなヤクザのような人物が閣僚に起用されたのかということだろう。
松本氏は福岡市出身で、部落解放運動の父と呼ばれる松本治一郎の孫である。父・松本英一も参議院議員で、実家は大手建設会社「松本組」を経営しており、国会議員の中でトップの資産家として知られる。
1990年の総選挙に日本社会党から出馬して初当選し、当選7回。社民党を離党して旧民主党結党に参加した。松本氏が当選できたのは部落解放同盟が支援したからで、政治的実績は無に等しい。第1次菅内閣で環境相に任命された時も、民主党の創立メンバーで首相と親しいための「お友達人事」だろうと言われた。
奇妙なのは、今回の事件についてメディアが腫れ物にさわるような扱いをしていることだ。問題の発言は、当日は在京のテレビ局ではまったく報じられず、新聞や通信社も報じなかった。
問題が表面化したのは、その日の夜になってYouTubeに東北放送(仙台ローカル)の映像が投稿されてからだ。
その異様な発言が反響を呼んだが、翌日になっても新聞はほとんど報じなかった。例えば毎日新聞は「松本復興担当相:岩手、宮城知事と会談『復興は知恵合戦』」と会談の様子を報じているが、問題の暴言にはまったく触れていない。
タブーを破ったネットメディア
ところがYouTubeの映像が100万回以上も再生されて大きな反響を呼ぶと、7月4日の午後からニュースやワイドショーは彼の暴言を繰り返し流し始めた。問題の映像は、他の局も撮っていたのだ。それを放送しなかったのは、松本氏の「出自」に配慮したためだろう。
かつては解放同盟に批判的な記事を書くと、会社の受付にデモ隊がやって来て「糾弾」し、担当者を引きずり出して謝罪するまで社内をデモ行進するといった事件がよくあった。今はもうそんな政治力はないのだが、編集幹部はそういう事態を恐れているものと思われる。
知事やメディアを恫喝する松本氏の態度も、解放同盟によく見られる。ひところ激しかった「差別語」キャンペーンの主役も解放同盟だった。差別がいけないという一般論に反対する人はいないが、それが「めくら判」や「つんぼ桟敷」のような日本語まで駆逐してしまった。そして、いったん上がった基準は二度と下がることはない。
最近はこの種の事件も沈静化してきたが、行政とメディアは「糾弾」を恐れるため、解放同盟のからむ事件は闇から闇に葬られる。
今回の事件も、東北放送のニュースがなかったら、もみ消されていただろう(東北にはこの種のタブーがないので、スタッフには恐れる意識もなかったと思われる)。
役所もメディアも解放同盟を過剰に恐れ、今回のように運動と無関係な話まで「自主規制」する。これは以前にも当コラム「前原辞任で極まった日本社会の病『過剰コンプライアンス』」で指摘した過剰コンプライアンスと同じで、その根底にあるのは人権尊重ではなく事なかれ主義である。今回は、ネットメディアが彼らのタブーを破ったわけだ。
こうした差別にからむ問題は日本の最後のタブーであり、「闇の世界」ともつながっている。復興に際しても、土建業や産業廃棄物などの業界に巣食う「闇」の暗躍が懸念されている。行政やメディアが勇気を持ってタブーを破らないと、彼らは被災者を食い物にするだろう。
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