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「公務員制度改革」に逆行する民主党政権を批判して経産省事務次官に退職を宣告された古賀茂明氏の「勇気」
民主党政権の本質は暴かれた
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/10142
2011年06月27日(月) 高橋 洋一「ニュースの深層」
連日マスコミに登場し、話題のキャリア官僚がいる。私も旧知の経済産業省の古賀茂明氏(55)だ。古賀さんは民主党政権の公務員制度改革を不十分だと批判し、閑職に置かれてきた。そして、今回、経済産業省事務次官が7月中に退職するよう、古賀さんへ正式に求めてきたという。
古賀さんのように、現役官僚のまま、はっきりとモノを外部にいう官僚はほいとんどいない。国会でもきちんと発言している。
官僚はテレビなどメディアにはほとんど出ない一方で、記者クラブや広報を通じたり、役所の審議会委員のマスコミ幹部や有識者である学者などに「ご説明」する。官僚のほうからみれば、メディアに教えてあげるという意味で「レク」(レクチャー。講義する)という。
一方、マスコミのほうは、文書(「ブツ」とかいって、これがあるとマスコミは大変ありがたいようだ)や有識者の意見を求める。文書は役所内にある審議会に出す資料そのままでも、マスコミは喜ぶ。ときどき、その資料を説明する幹部用に少し詳細なもので、説明すべき箇所の欄外にコメントがついているものがある。説明すべき箇所から線が引かれてコメントになっているので、役所では「タコ足」とかいう。これをマスコミにあげると、それこそ重要秘密資料でももらったかのようにとても喜ぶ。実はたいした資料ではない。
また有識者にも官僚はレクをしておく。有名大学の審議会学者はそのためにいるようなものだ。マスコミは意見の当否より肩書きを求める。
いずれにしても、官僚は裏では意見をかなり言っているが、表では言わないだけだ。
■マスコミが報じない実態を暴いた古賀氏
だから古賀さんのような表の行動をすると、役所からは相当なリアクションが予想される。官僚は時の政権の政策を執行するのが仕事であって、政権批判を個人的に行うところでない。そのために、税金で働いているのであって、言論活動をしたいなら、役所を辞めてから行え。ーーなどなどの批判だ。
さらに、官僚は出勤時間や昼食時間は多少ルーズであるが、それらの記録管理が厳しくなったり、私用の電話やパソコン使用へのチェックを頻繁に行うことがある。
おそらく、古賀さんの場合にも、今回のように事務次官が直接に退職要請する以上、それらのエビデンスをもって圧力をかけたのだろう。
私も安倍政権で内閣参事官(総理大臣補佐官補)として官邸にいたとき、優秀で改革的な経産官僚を官邸に入れようとしたところ、些細な出勤状況の不備をあげつらって経産省はそれを潰した。
古賀さんはもともと外で批判するような人でなかった。一般のサラリーマンなら、自分の企画が通らないことを外で批判したら社内処分を受けるかもしれない。しかし、古賀さんの場合は、公益があるので同じに論じられない。
民主党の政権交代は、国民の期待を裏切ったことが多い。その筆頭は公務員改革だ。まさに、その民主党政権の公務員制度改革を、古賀さんは批判している。それは私も大いに共感し、マスコミが報じないその実態を、もっと広く国民に知らせるべきだと思う。
■ 「三度殺しても足りない男」
そもそも公務員改革は日本の将来にとって重要だが、なかなか政権は取り上げてこなかった。私は小泉政権と安倍政権において財務省ではなく官邸などで政策立案を行ってきたが、小泉政権の時には郵政民営化に手一杯で公務員改革まではなかなか行けなかった。
小泉政権時代に政策金融改革として、公的資金の調達と運用という意味で郵政民営化とコインの裏表の関係にある政策金融の民営化・一本化があった。政策金融機関は主要経済官庁事務次官級の最高級の天下り先であり、その改革はタブーであった。しかし、小泉政権時代、その各省事務次官の天下り先を1つにまとめた。これは霞ヶ関で大きなショックだった。
その担当者であった私は、「霞ヶ関の敵」、某財務省幹部から「三度殺しても足りない」といわれた、実際、親しくさせてもらっていた先輩官僚から「政策金融だけは止めろ。それさえなければ君は財務省の中興の祖なのだから」と説得された。
ただ、私の見立てでは、政策金融改革で政策金融の規模を縮めないと、郵政民営化しても民営化された郵政は活動の場がなくなり衰退・破産への道をたどるだけであった。それを正直に小泉総理と竹中大臣に進言し、そのミッションを実施しただけだ。(民主党になって、郵政民営化の見直しとともに政策金融改革も見直しだ。これで各省事務次官はさぞかし喜んでいるだろう)
次の安倍政権で公務員改革への道が開けた。すったもんだの末、2007年7月国家公務員法改正が成立した。安倍総理が指揮し、渡辺喜美行革担当大臣が渾身の力をこめた結果だ。その直後に、安倍総理は体調を壊し、9月に辞任した。総理退任の時に、印象に残っている仕事として公務員改革を挙げていたのは、その担当者として仕事冥利に尽きる。私は安倍総理による政治任用だったので、総理退任とともに役人を辞めた。
渡辺大臣は福田政権でも公務員改革を引き続き担当した。そして2008年6月国家公務員制度改革基本法が成立した。このとき私は民間人であったが渡辺大臣顧問として携わった。安倍政権と福田政権時の渡辺大臣は、補佐官として原英史さん(当時経産官僚)を擁し、八面六臂の活躍だった。
そして国家公務員制度改革基本法の成立の後、国家公務員制度改革推進本部事務局が作られ、そこで牽引車になっていたのが、審議官だった古賀さんだ。同事務局には同法の実質的な立案者の原さんもいたが、2009年7月に退官した。原さんと私は10月に「政策工房」という会社を立ち上げ、政策コンサルタントを始めた。
■政権を取ったら豹変した民主党
麻生政権は公務員改革に否定的なムードだったので、政権交代に期待した人は多い。私は民主党の多くの人から公務員制度改革の意見を求められた。かなりの人が政治主導と表裏一体のものとして公務員制度改革をやろうとしていた。ちなみに、福田政権の公務員改革は、ねじれにも関わらず民主党も賛成だったものだ。
ところが、2009年9月民主党に政権交代からまったく音沙汰なしだ。これでは古賀さんが怒るのも無理ない。
菅政権は公務員制度改革法案を6月3日に一応出している。今回の政府法案のポイントは労働基本権拡大だ。それ以外の幹部人事制度改革や内閣人事局は、昨年鳩山内閣のときに提出された法案(審議未了で廃案)と同じで、改革というにはあまりにもシャビーな話だ。
かつては、公務員制度改革の中心課題は、天下りの根絶や政治主導体制の確立だった。自公政権から鳩山政権にかけて、これらは中途半端なまま。逆行さえ見られる。官僚時代の知人から、「天下りしなくても、現役出向などの抜け道を民主党は合法化してくれたので、高給のまま公務員でいられる」と、民主党政権はいいとの声もある。国民は、政治主導や天下り根絶を民主党に期待したのに、この体たらくだ。
今回の震災対応では、官邸の機能不全が露呈した。これは、本当の政治主導を確立できず、政治家たちが官僚を使いこなせていなかったことが原因だ。例えば原発対応で、関係機関が混乱したまま、官邸では内閣参与を大量起用、といった状況が見られたことがその一例だ。また、天下りに象徴される、経済産業省(原子力安全・保安院)と電力会社の馴れ合い関係が、安全性を損なっていたことも露呈した。労働基本権拡大より先に、こうした課題に一刻も早く手を打つべきだ。
菅政権の法案で、内閣人事局を一応作る。しかし、本来は内閣人事局に入れるべき給与関係部署は財務省の反対で入っていない。これでは、何のための内閣人事局なのかわからない。
しかも、内閣人事局とともに、公務員庁や人事・公正委員会を作るという。これは、現状の人事院、総務省の一部(人事・恩給局、行政管理局)を再編し、公務員庁、人事・公正委員会、内閣人事局という3つの組織を新設という。結局、官僚の幹部ポストを増やすための焼け太りになっている。
民主党は、同じく6月3日に提出した給与削減法案を自慢するが、協約締結権を付与してまで時限的(2013年度まで)な引き下げでは筋が通らない。もともと民主党はマニフェストで「人件費2割削減」と言っていたはずだが、「人事院の了解が得られない限り給与カットできない」(西岡参議院議長)というのでは、2割どころか5%も実現できない。
公務員改革に携わってきた者からみれば、民主党政権の公務員制度改革には失望させられる。古賀さんの勇気ある告発はそれを身でもって示したと思う。
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