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http://www.news-pj.net/npj/maruyama-shigetake/20110612.html
NPJ通信 【マスメディアをどう読むか】
関東学院大学教授・日本ジャーナリスト会議 丸山 重威
◎ 「菅降ろし」 と 「原発村」 の政治支配 − 首相は 「脱原発」 への舵を切れ
なぜかわからないが、要するに菅直人首相ではダメなので、クビのすげ替えをしたい。あわよくば 「大連立」 がいいが、誰を頭にするかは決められない…。
「震災などそっちのけ」 の顔をして、漂流している政治情勢を、まさに言い当てていると思われるのが、6月3日付東京新聞特報面の 「与野党に 『電力人脈』 菅降ろしに原発の影」という記事だった。
石原伸晃自民党幹事長が2日の不信任案賛成討論で、「電力安定供給の見通しもなく発送電分離を検討したり、3割が原発で賄われているのに、 やみくもに原発を止めた」 と批判したことや、経団連の米倉宏昌会長が 「首相の足を引っ張り続けた」 のを挙げて、ここに原因があり、 問題を 「政権の不手際」 に問題をすり替えようとしている、というわけだ。 記事では金子勝慶大教授の 「菅首相は人気取りかもしれないが、自公や財界が一番手を突っ込まれたくないところに手を突っ込んだ」 という分析を掲載した。
しかし考えてみると、まさにその通りで、「菅降ろし」 は、「浜岡原発ストップ」 や 「エネルギーの見直し」 「自然エネルギーの拡大」 という、 菅首相が提起した改革案では困る人たちの 「巻き返し」 そのものとみることができる。
× ×
整理してみよう。今回の原発事故は、いろいろ指摘されている通り、東電−電事連−財界を軸に、政府も学会も、官僚も混じり、 それを支持するマスコミまで含んだ 「原発村」 に大きな責任がある。
決して十分な対応だったかは別として、菅首相は、この事態に正面から取り組んだ。
放射能漏れと爆発で全員撤退したいと言い出した東電に対して、自ら本社に乗り込んで 「覚悟を決めてもらわなければならない」 と怒鳴りあげた、 というのは本当らしいし、それこそ十分な根回しもなく、「浜岡原発停止」 を発表し、 原子力を50%にまであげるというエネルギー計画について 「見直す」 と公言、サミットでは、「太陽発電のパネルを1000万戸に置く」 とも話した。 大臣も知らなかったらしいが、それも当然。根回しなどしようものなら、何をされるかわからないのが、いままでの 「原発村」 の掟だった。 しかし、いくら 「安全対策を強化する」 と言っても、狭い地震国では、どうなるかわからない。 要するに、誰も信用されなくなった日本が進むべきの方向は、次第に 「脱原発」 に舵を切って行く方向しかない。
もうひとつ、11日付朝日新聞は 「原発事故調 骨抜き構想 経産省主導 首相は拒否」 と書いて、首相が国家戦略室とぶつかり、 メンバーも入れ替えたと報じている。これも本当なら、無視できない。
しかし、「原発村勢力」 にとって、これは困る。菅を引きずり降ろさないと、事故のごまかしはできないし、原発の温存はできないだろう。 「ここはとにかく、何か花道は造っても、『菅降ろし』 を成功させるしかない」 ―それが、財界から政界、官界、そして 「原発派マスコミ」 まで、 一致した見解としてではなかったか。
とすれば、菅さんには、どこまででも頑張ってもらって、この脱原発、エネルギー政策の転換への、道筋をつけてもらわなければならない。
× ×
私は、菅直人という人がどういう人であるかはよく知らない。
「『市民運動出身』 という触れ込みだが、実は違う」 「昔から、何をしたいかはろくにないのに、ポストや権力を取りたがる人だった」 …。 そんな評判を聞いたことはあるが、わからない。だから、先の見通しがないままの 「菅を替えろ」 という 「大合唱」 には、正直言って違和感を持っていた。 誰が代わっても、いまの状態がすぐそんなに好転するとは思えないからだ。
なぜ、こんなにしつこく、菅を替えたいのか。「菅降ろし」 は必要以上で、憎しみすら感じる 「菅いじめ」 だ。 その理由は、何のことはない、この 「原発」 と 「エネルギー生活」 だったとすれば合点がいく。
日本の将来とエネルギーと、「もうけ」 のために、「あとは野となれ山となれ」 と将来などどうでもよく、権力の側にいる勢力と、自分たちの生活と、子どもたちのために、と、額に汗して働き、おかしいと思えばおかしいとつぶやく庶民勢力との熾烈な闘い…。既に、その闘いは始まっている。
そんな中で、菅さんがわれわれのリーダーたり得るかはわからない。しかし、幸か不幸か、菅さんは 「したたかな政治家・菅直人」 に脱皮し、 いま、「エネルギー政策の転換」 を考えている、と信じてみるとどうなるか。
いま、原発見直しの議論を展開しなければ、後世に禍根を残す。ここで、「原発村」 の政治支配を廃し、そのための一歩が踏み出さなければならない。
長年の歴史を引きずり、権力が集中する形で世論まで巻き込んできた 「バラ色のエネルギー・原子力」 について、 歯止めを掛けるのは容易なことではない。しかし、まさにドイツのメルケル首相がそうであるように、そのことに踏み出せたら、日本の政治史上で、 菅直人の名前は不滅のものになるだろう。
私はいま、改めて 「脱原発政策」 を求める。その中で、それを実現しようとしているなら、菅直人に期待する。2011/6/12
なお、福島原発事故の報道についてまとめた 「これでいいのか、福島原発事故報道」(あけび書房)という本を緊急出版した。 原発の危険を知ってか知らなくてか、「安全神話」 だけが独り歩きしていたことを振り返り、なぜこの危険を国民みんなが共有して対処できなかったのか、 という基本的な問題と、そんなことについて、報道、メディアは何をしていたのかを、専門家とともに追求した。
ここはどうしても、運動を国民的なものにしていかなければ、子どもたちの未来が危なく、平和で民主的な、日本の将来もない。 事実を知ることから、討論を広げ、世論を動かして、みんなで原発をやめる方向を打ち出していくしかない。 なお、「あけび書房」 の ホームページ にも、 私が書いた 「まえがきに代えて」 と 「あとがき」 が紹介されている。ぜひ、読んでいただき、話し合いのきっかけにしてほしいと思う。
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