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「古村治彦の酔生夢死日記」から
@英語で書かれた小沢一郎代議士の伝記を産経新聞の古森記者が取り上げた
A昨日の続き:岡孝氏が小沢一郎に付けたpolicy entrepreneurshipに絡めて
を下記に転載投稿します。
=転載開始=
@
小沢一郎代議士の英語で書かれた伝記が出版されたということが産経新聞に記事として掲載されました。これは、小沢氏の国際問題顧問をしている岡孝(おか・たかし)氏(日系アメリカ人)がオックスフォード大学に提出した博士論文を基にしているそうです。調べてみると、岡氏は2008年に博士号を取得しているそうです。小沢氏の伝記を書いただけで博士号が授与されるようなことはないでしょう。
ここからは予測ですが、理論的な部分を除いて、実証の部分で書いた小沢氏の個人的な歴史と政治の歴史の部分を本にしたのではないかと思います。政治学では、個人の分析をする研究をファースト・イメージと言います。今回の小沢氏についての岡氏の研究はこれに分類されます。そして中身は、典型的な日本の政治家である小沢氏が、どうして「改革者」としてこれまでの日本政治では提起されなかった政策を提案してきたのかという問題提起をし、それを心理学や社会学、国際関係論的な手法を使って分析した内容ではないかと推察します。
記事の中で古森氏は、政策企業家という言葉を使っています。これは原題では、policy entrepreneurshipとなっています。これは企業家精神とも訳せますが、恐らく、ヨーゼフ・シュンペーターの企業家精神とほぼ同義ではないかと思います。企業家精神によって革新が進められるのですが、大企業になると企業家精神が失われていく、とシュンペーターは述べています。彼の政治人生を見てみると、政界に革新をもたらしながら、いくつもの政党を壊してきたという特徴があると私は考えます。これは彼が革新を求める企業家精神の持ち主であり、政党もある程度の大きさになると大企業のようになり、小沢氏の企業家精神が発揮できなくなり、政党を壊してしまうということになるのだろうと思います。小沢氏は一兵卒でも革新的な政策に向けて動ける、企業家のような人なのです。小沢一郎という政治家を表す言葉として、このpolicy entrepreneurshipを選んだ岡氏は大変な慧眼の持ち主であると思います。
今回の本は、Nissan Institute/Routledge Japanese Studiesのシリーズです。このシリーズはイギリスやオーストラリアの学者たちが多く執筆しているシリーズで、お固い学術書ばかりです。値段もなかなか手が出ないほどに高額です。私は全く買えませんので、図書館で借りだして読んでいました。日本に関する研究であれば出版できるので、歴史、政治、文学などの本が出版されています。オックスフォード大学には、日産自動車が資金を出して設立した日本研究所Nissan
Institute of Japanese Studiesがあります。オックスフォード大学はいくつかのカレッジの集合体であり、研究所は、セント・アントニーズ・カレッジに置かれているそうです。ウェブサイトを見てみると、この研究所は、学際的地域研究学部の一部であると書かれています。ここから推察されることは、アメリカ流の政治学というよりも、イギリス伝統の外国研究、地域研究の一環として日本研究が確立されているということです。研究所のウェブサイトには、修士課程の卒業試験の試験問題が掲載されていたので、私の専門である日本政治について見てみました。なかなか刺激的な試験問題でした。
Nissan Institute of Japanese Studiesのウェブサイト
http://www.nissan.ox.ac.uk
Nissan Institute of Japanese Studiesが設置している現代日本研究修士号授与試験の過去問(日本政治)
http://www.nissan.ox.ac.uk/__data/assets/pdf_file/0003/9975/Japanese_Politics_2008.pdf
日本では総理の座に近づいた有力政治家が自伝や伝記を英語で出版するということはよくありました。しかし、いまはおそらく行われていないでしょう。インターネットの発達で、日本の政治家の情報も外国語で容易に得られる時代になりました。岡氏は今回の本の中で、小沢氏の首相就任の可能性について、言及しています。そこも重要であると考えますが、この本の肝はそこではないと私は考えます。
今回の岡氏の本の出版の肝は、小沢代議士について、policy entrepreneurshipという言葉を使ったことだと私は考えます。岡氏は長年、ジャーナリストとしてクリスチャン・サイエンス・モニター紙、ニューヨーク・タイムズ紙、タイム誌を舞台に活躍してきた人物です。ジャーナリストとして岡氏は、小沢氏に対して最高の見出しを付けたのがこの本であると私は考えています。
(新聞記事転載貼り付けはじめ)
●「「失望が多く、成功は少なかった」…米英で初の小沢一郎伝記」
2011年6月14日付 MSN産経ニュース
日系米人ジャーナリストによる初めての英語での小沢一郎民主党元代表の伝記が米英両国でこのほど出版された。同書はいまや刑事被告人にまでなった小沢氏
の政治面での複雑な動きが単なる権力欲からなのか、特定の政策推進を目指すからなのかを問い続け、政策面での動因を強調した。
同書は「日本の政策企業家と選挙=小沢一郎政治伝記」(ラウトレッジ社)と題され、米英両国で5月に発売された。著者はクリスチャン・サイエンスモニタ
ーなど米大手紙の記者として長年、活躍した日系米人の岡孝氏で、英オックスフォード大学に出した博士論文を基礎としている。岡氏は1990年代から小沢氏
の国際問題顧問をも務め、直接の交流も深い。
同書は小沢氏の生い立ちから政界入り、田中角栄氏との絆などを追い、小沢氏の政界での動きを「権力欲か、政策追求か」という観点から分析した。特に同氏
の著書「日本改造計画」や小選挙区制度の推進に焦点を合わせ、「集団的コンセンサス志向から個人の意思による政策の競合での選択への移行を求め、米英両国
のような政権交代が可能な二大政党制を実現することを意図した」と指摘した。
同書は小沢氏の動きの最大要因について、権力欲とする見方をも詳述しながらも、同氏が平成3年10月に首相就任を求められても断った実例などを挙げて、
政策傾斜の見方を優先させている。小沢氏の過去20年ほどの軌跡としては「失望が多く、成功は少なかった」と述べる一方、21年8月の総選挙での民主党大
勝を小沢氏の功績に帰した。
同書は小沢氏が検察審査会の議決で強制起訴されて、刑事被告人となった経緯を説明しながらも、なお同氏が今後の裁判で無罪を獲得し、今度こそは首相にな
るという可能性も記している。(ワシントン 古森義久)
(新聞記事転載貼り付け終わり)
Policy Entrepreneurship and Elections in Japan: A Political Biogaphy of Ozawa Ichiro (Nissan Institute/Routledge Japanese Studies),Routledge
(2011/4/21)
Takashi Oka is a journalist who received his PhD from St Anthony's College, Oxford in 2008.
Prying Open the Door: Foreign Workers in Japan (Contemporary Issues Paper, No 2),Brookings Inst Pr (1994/11)
Takashi Oka, a non-resident associate of the Carnegie Endowment, draws on forty years of experience as a foreign correspondent for The Christian
Science Monitor, Time magazine, Newsweek Japan, and The New York Times.
岡孝氏のブログ:The Oka Report
http://02dea0c.netsolhost.com/blog1/?page_id=2
“Stability in East Asia”by Takashi Oka, Foreign Affaris, 1984
http://www.foreignaffairs.com/articles/39406/takashi-oka/stability-in-asia
A
昨日、産経新聞に掲載された小沢一郎代議士の英語の伝記の記事について、私の考えを当ブログに掲載しました。
私は昨日の記事の中で、岡孝氏が小沢一郎代議士に対してpolicy entrepreneurshipという「見出し」をつけたことは大変素晴らしいと書きました。それは、この言葉こそ、英語が理解できる人であれば、「なるほど、小沢一郎という日本の政治家はそういうひとなのだ」ということが理解しやすくなると考えたからです。細かいディテールも重要でしょうが、やはり一言で決めるのは、長年ジャーナリストをしてきた岡氏ならではだなと感心しました。
それをもっと詳しく説明すべきであったと思い、補遺という意味も込めてこれについて書いていきたいと思います。policy entrepreneurshipは、「政策的企業家」と産経新聞の記事を書いた古森義久記者は訳くしていますが、私は「政策的企業家精神」の方がより良いのではないかと思います。それは、昨日も書きましたが、岡氏は恐らくヨゼフ・シュンペーターの提唱した「企業家精神」と絡めて使っているからだと私は考えるからです。
シュンペーターの提唱した企業家精神とは「資源を陳腐化した古いものから新しい生産性の高いものへと移す企業家精神こそ経済の本質」であり、そのために革新(イノベーション innovation)をもたらすということです。小沢一郎代議士のこれまでの政治行動を見ていると、まさに企業家精神の発露であったと言えましょう。
一方で、この企業家精神と対立してしまうのが、官僚制(bureaucracy)です。官僚制の研究者でもあったマックス・ウェーバーは官僚制の特徴について、集権化、公式化、没人格性が挙げられます。この官僚制の特徴は、国家機関や軍隊だけではなく、民間企業は政党にも当てはまります。どんな組織でも、規則やルールにがんじがらめに縛られ、杓子定規な行動を取るようになり、その活力を失っていく過程で、「あそこは昔は元気だったが、今は官僚的になったね」などと言われてしまうのです。(この部分は以下のサイトを参考にしました。http://www.initiaconsulting.co.jp/archives/management/1_05.html)
日本の中央官僚の官僚たちはまさに、ウェーバーの提唱した官僚制の特徴をすべて備えています。そして一番の問題は効率性も活力も失っているのに、革新が全くもたらされていないということなのです。小沢氏はこの官僚制に革新(イノベーション)をもたらそうとする「企業家」でした。それに対して官僚たちが頑なな抵抗したことはもうすでに明らかになっています。
1990年代以降の日本政治は、その中心にいて官僚制に革新をもたらそうとした「企業家」小沢一郎と、アメリカの後ろ盾を得て、革新をさせまいとする官僚たちの戦いであったと言えるでしょう。今回の伝記についての記事を読み、さらにこのように考えました。
=転載終了=
(投稿者)参照;我が国の「選良/エリート」たちは、いまどき、なぜ、わざわざ各駅停車(年功序列)の鈍行に乗るのだろうか?(uedam掲示板
http://www.asyura2.com/11/senkyo115/msg/161.html
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