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【松本浩史の政界走り書き】
首相、未練がましくはないですか? 引き際を大切にしてください。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110612/plc11061218010008-n1.htm
2011.6.12 18:00 産経新聞
言わでものことを口にして墓穴を掘り、与野党からいち早く表舞台から立ち去るよう求められているのに、なお厚顔にも居座る心象なんぞ、到底、考えが及ばないのである。真の指導者のなんたるかは、権力の頂点に上り詰めたその術よりも、引き際にこそ色濃くにじむものだ。
ここのとこの菅直人首相の振る舞いほど見苦しい様はあるまい。内閣不信任決議案があわや衆院本会議で可決されそうだと察するや、今にも辞任するかのごとき口上で急場をしのぎ、ほどなくして来年までの続投をいけしゃあしゃあと高らかに“宣言”するのだから、開いた口が塞がらない。
「政治は生き物」とはよく言ったもので、北沢俊美防衛相や平野博文元官房長官らによる根回しでせっかく不信任案を否決し、党分裂の危機を回避できたのに、このような不用意な発言をしては元のもくあみである。すべてを無に帰さしめてしまった。
それどころか、過日、首相と官邸で会った関係者は、その後、親しい知人に連絡し、首相の様子を伝えている。「辞める気などさらさらない」。首相の退陣に向けた「Xデー」を想定し、すでに「ポスト菅」の号砲が鳴り響いているのに、このふてぶてしさである。不埒極まる振る舞いは、実に見苦しい。
9日の衆院東日本大震災復興特別委員会では、退陣時期について、こうも言った。「(被災地の)がれき処理は8月中に生活地域から搬出することを目標に頑張っている」。つまるところ、8月までは首相ポストに居座り続ける、勘違い甚だしい“決意”の表明である。
鳩山由紀夫前首相と交わした「確認事項」には、「がれき処理」という文言はどこにもなく、果たしてどういうつもりで持ち出してきたのか、皆目見当がつかないのである。いやもしかしたら、延命しか頭にない首相が、あれもこれもとそれらしい口実を振りまくことで、「もうしばらく首相をしていてもいいよ」という空気が醸成されはしまいか、と、淡い期待を抱いている証なのかもしれない。
ところで、政権末期の雰囲気が漂い始めると、必ずと言っていいほどささやかれるのが「花道論」である。もともとは、歌舞伎などが演じられる劇場で、客席に張り出すようにしつらえられた廊下のような部分で、役者さんが出入りするために使われるそうだ。
ところが、政界用語となると、もっぱらときの首相の退陣を意味することになり、「去り際を華やかにして送り出そしてあげよう」といった、いかにも永田町的な配慮も含意されている。
例えば、竹下登元首相が消費税導入と引き換えに官邸から立ち去ったように、後世にその名を刻むたの政策実現でもいいし、華やかな国際舞台で「最期のひのき舞台」を経験させるのもよい。いずれにしても、誰彼となく、一国のトップにふさわしい花道論を考え始めるし、話題になるものだ。
ひるがえって、首相の場合はどうか。震災の復興をより本格化させる平成23年度第2次補正予算案と、そのための財源にもなる赤字国債の発行を認める特例公債法案を成立させるということのようで、誰もが物足りなさを感じるのではあるまいか。
本来であれば、国会対策で切り抜けられる程度の法案なのに、自身の首を差し出して成立させようというのだから、常ならぬ始末である。
それでも、あえて言えば、こうした「寂しい引き際」を余儀なくされるのも、身から出たさびである。参院選や統一地方選で惨敗した責任をおざなりにし、外国人からの献金問題もいまだ公式の場で何らの説明もしていない。つまり、政権の正当性はとおの昔に失っていたのに、ずるずると我欲のみで政権運営をしてきた首相の姿勢には、首相の支持勢力に疑問視する声が確かにあったし、そんな人の退陣が確実となった今となっては、「花道論」などどうでもいいことなのだ。
首相は退任時期について、相も変わらず言葉を濁したままだ。「物足りない」花道論ではあるけれど、それぞれが国政にとっては大切なのだから、自らその任に就いていることに益なきことが判然とした以上、せめて今週、開催される両院議員総会で退任時期を明確にしてもらいたいものである。
政権運営の前途は知れきっている。それなのに、この期に及んで潔さをみせつけられないようでは、卑(ひ)怯(きょう)にして未練がましい不(ふ)逞(てい)の宰相として、未来永(えい)劫(こう)、語られるのは請け合いだ。
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