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http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20110531-00000301-sasahi-soci
週刊朝日 5月31日(火)17時9分配信
牛乳とコッペパン1個、体重5キロ減 「被災地驚きの学校給食メニュー」
献立表
育ち盛りの子どもが、パン1個と牛乳で、おなかを満たせるはずがない。しかし、震災被害の大きかった被災地の公立学校の多くで、そんな給食が続いている。飽食ニッポンの出来事とは思えないが、役所の頭の固さもあって、改善しそうにない。 ライター・形山昌由(写真も)
がれきがまだ手つかずのまま積み上がっている雄勝地区に、石巻市立大須中学校はある。鎌田鉄朗教頭は困った表情を隠さずに、こう打ち明けた。
「みんなおなかを減らしています。生徒の中には一時期、体重が5キロ減った子がいました。私自身も6キロ減りました。何とかしようと、生徒を連れて近くの山でバーベキューをしたり、家庭科室でカレーを作ったりと、いろいろと工夫をしているところですが……」
岩手、宮城両県では、4月20日から21日にかけて多くの公立学校が再開し、それに合わせて学校給食も始まった。だが、各地の給食センターが東日本大震災で被害を受け、完全給食を提供できない自治体もある。5月現在、宮城県石巻市、東松島市、女川町、南三陸町、利府町、登米市、岩手県陸前高田市、釜石市の8市町約3万2千人の子どもたちの多くは、昼時、パンと牛乳しか出されていない。
8市町のうち児童生徒数が最も多い石巻市では、六つある給食センターで1万5千食を作っていた。しかし、うち7千食をまかなう湊地区と渡波地区の二つのセンターが津波で半壊し、復旧のめどが立っていない。
残る4センターのうち3カ所は修繕を急ぎ、6月からは何とか再開できる見込みとはいえ、レトルト食品を1品付ける程度。完全給食には程遠い。
市内の中学校に通う藤井舞花さん(14)は言う。
「放課後にテニス部の練習がありますが、おなかが減って仕方がない。給食が足りないから、本当はいけないのだけど教室にこっそりご飯を持ち込む人もいます。早く元の給食を食べたい」
石巻市内にある中学校の5月第2週の献立表を見て驚いた。
「9日(月)牛乳とココアパン、10日(火)牛乳とチーズパン、11日(水)牛乳と金時豆パン、12日(木)牛乳とココアパン、13日(金)牛乳とバターコッペパン」
18日からジャムや冷凍果物などが付くようになったが、育ち盛りの子どもたちに、具なしパン1個と牛乳200ミリリットルでは、腹をすかせるな、というほうが無理な話だ。
文部科学省が定めた学校給食摂取基準によると、小学校中学年の基準エネルギー量は660キロカロリー。パン1個と牛乳の「簡易給食」では、7割前後しか満たせない。鉄分は基準の2〜3割、ビタミンCに至っては1割以下しかとれない。
中学生になれば、不足分はより多くなり、現在の給食で摂取できるのは基準値の半分程度だ。
中学2年生の娘を持つ石巻市在住の佐藤明美さんは言う。
「娘が学校でバレーボールをやっていますが、給食が足りていないようです。もうすぐ1品増えると聞いているが、それでも不安です」
社会福祉法人龍岡会の管理栄養士、小林美緒さんは、家や避難所で何を食べているかが前提になると前置きしたうえで、子どもたちの健康を心配する。
「簡易給食のままでは栄養不足なのはもちろんですが、特にビタミン関係が足りない。この状態が長く続くと、子どもたちのなかで、欠乏症が出てこないか気になります」
対策はあるのか。
「ゆで卵やチーズがあるだけでも栄養価は高まります。調理が難しければ、市販の栄養機能食品でもいい。運動部で体を動かす子には、おにぎり1個でもつけてあげるなど、工夫はできるはずですが……」(同)
学校側も、子どもたちの給食が足りていないことはわかっている。給食が十分に提供できないなら、家から弁当を持ってくるようにしたらいいのではないか。
冒頭の大須中学の鎌田教頭は言う。
「学校給食は学校が生徒に昼食を供給する制度だから、給食費を徴収している。家から食べ物を持ち込むことは認められないんです」
だが、いまは非常時だ。特例として、持ち込みを認めたらいいのではないだろうか。
石巻市教育委員会学校管理課に尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「学校から給食が足りていないとの電話はよくもらいます。ですが、給食が出ているのだから、教育委員会としては児童生徒のお弁当の持ち込みは認めていませんし、ましてや特例を出す考えもありません。第一それをしたら、お弁当を持ってこられる子、こられない子が出てきて、公平性が損なわれます」
石巻市の場合、次第に再開する食料品店も増え、学校から少し歩けば、スーパーの総菜コーナーに寿司やとんかつ弁当などが並んでいる。だが、校内にいる限り、子どもたちにそうした食事が行き渡ることはない。
では、仕出し弁当を出すというアイデアはどうか。
「それも教育委員会としては考えていません。仕入れの八百屋さんが被災している場所もあるでしょうし」(学校管理課)
だが、8市町のうち、仕出し弁当を給食として出している自治体はある。陸前高田市は月曜から金曜まで毎日1600食分、東松島市は月・水の週2回それぞれ3900食分、市内の全児童生徒に温かいお弁当を提供している。
東松島市矢本学校給食センターの川田幸一所長はこう説明する。
「簡易給食では栄養、量ともに足りない。避難所から通う子どもたちのためにも何とかできないかと考え、外注弁当を出すことにしました。おかずが3品程度で完全給食よりカロリーは低いが、パンと牛乳よりはるかにましです」
東松島市の給食予算は小学校が1食258円、中学校が317円で、外注弁当にすると予算をオーバーするが、超過分は市の予算に計上しているという。
東松島市の場合、給食の管理が、教育委員会ではなく学校給食センターに委ねられている。現場の実情をより知る立場にいるからこそ、こうした臨機応変な対応ができる。
それにしても、同じ被災地の子どもなのに、通う学校によって一方ではパン1個、かたや毎日温かいお弁当が食べられる。この「給食格差」を埋める手立てはないのだろうか。
文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課の郷路健二課長補佐はこう言う。
「被災地の状況はわかっていますが、持ち込みは食育、仕出し弁当は衛生基準の観点から国として推奨することは難しい。その代わり、第1次補正予算で特例交付金113億円を計上し、簡易給食でもおかずなどを増やせるようにしました」
被災地の食材不足は解消しつつある。なのに、十分な給食が行き渡る見込みさえ立たない地域は依然多い。栄養不足で体に変調をきたす子どもが現れる前に、早急な対策が必要だ。
かたやま・まさよし 1965年生まれ。98年に渡米し、ロス市警による三浦和義氏逮捕などを取材。95年の阪神大震災と2010年チリ地震に被災し、リポートを寄せた。本誌4月22日号で、福島第一原発前からのルポを執筆した
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