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「陸山会公判」で追撃される小沢一郎民主党元代表の本当の敵 細川政権、民主党政権を作った立役者が いま「実力」を発揮できないのはなぜか {伊藤博敏「ニュースの深層」 現代ビジネス [講談社]}
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/4491
東京地裁で最も大きな104法廷に、公判検事の尋問に促された証人の静かな落ち着きのある声が響く。何回も繰り返されたであろう想定問答のせいか、回答に淀みはない。
傍聴席がざわついたのは、次の応答の場面だった。
---06年7月、水谷建設の水谷功元会長が脱税で逮捕される。この件で大久保(隆規秘書)被告と話をしたか。
「大久保さんから直後に電話がありました。『水谷建設さんがたいへんなことになりましたね』と、取り込んでいる様子で話してこられました。『水谷さんから頂戴したカネは山本さんに返したい』と」
5月10日、小沢一郎民主党元代表の政治団体「陸山会」の政治資金規正法違反事件の第11回公判で、5000万円の現金を川村尚水谷建設前社長が、大久保被告に渡す場面に同席したという日本発破技研の山本潤社長の証人尋問が行われた。
山本氏は、5000万円のカネを確認したわけではなく、川村氏から「カネを渡す」と言われたわけでもない。
胆沢ダム建設工事に絡み、二人三脚で小沢事務所に受注工作を仕掛けていた関係から、受注決定後の05年4月19日、東京全日空ホテル(現ANAインターコンチネンタル)での大久保秘書への紙袋の手渡しが、「受注のお礼」と推測。それに加えて山本社長は、帰りの新幹線で川村氏から「税金みたいなものだ」という言葉を聞いている。
前回公判(4月27日)で、5000万円の提供を詳細に述べた「川村証言」と平仄は合う。加えて、「山本さんに返したい」という"証拠隠滅工作"は、大久保秘書の前に胆沢ダムの別工区の受注謝礼に、5000万円を石川秘書(現代議士)に渡したという証言の真実性にも繋がるのだった。
それにつけても小沢一郎という政治家は運がない。
悲願の政権交代を目前にした09年3月、政治資金規正法違反で右腕の大久保秘書が逮捕され、政権交代後の活動を封じられた。そればかりか東京地検特捜部の"執念"の捜査によって、10年2月には大久保、石川ら3被告が逮捕され、本人だけは逃れたつもりが検察審査会によって強制起訴。刑事被告人となって制約はさらに深まった。
小沢一郎という政治家に対する好悪は別にしよう。政治資金を不動産に換えるあざとい錬金術についても問うまい。
政治家としての実績と実力がグンを抜くことを認めない人はいないだろう。この20年、「小沢抜き」に日本の政治は語れなかった。、「親小沢」か「反小沢」かで、政界地図は色分けされた。
なにより小沢氏は日本の政治構造を大きく変えた人である。自民党政権に終止符を打たせ、細川護煕非自民党政権は短命に終わったものの、万年野党色の民主党に政治のプロの小沢自由党が合流したことで政権可能な二大政党の骨格が出来上がり、事実、民主党政権は誕生した。
その直前、小沢氏を襲った司法のメスは、「小沢一郎という政治家の手法、存在を許してはならない」とする「霞が関」の総意によってなされた。
「政治主導」を「法務・検察」にまで持ち込み、検事総長の民間人起用などに言及する小沢派の議員に対する"検察の怒り"が根底にあったのは事実だが、検察だけが突出できるものではない。
むしろ「政治主導」をいいつのる民主党への不安と不満が「霞が関」の官僚機構にあり、リーダーの小沢氏に矛先が向けられたとみるべきだ。そこにマスコミが連帯した。
09年3月の大久保逮捕でいったんは下火になった小沢捜査が、同年8月の総選挙後に再燃、同じ罪で同じ政治家を狙うという前代未聞は、マスコミとの"連帯"のうえで実現した。石川逮捕につながる世田谷区の「秘書宅疑惑」は、10月にまず『読売新聞』がスクープ、他社が後追い、特捜捜査とマスコミが連携したことで、小沢事務所は追い詰められた。
小沢氏は、政治改革を成し遂げるうえにおいて、官僚機構の弱体化を本気で考えた。それは、戦後の権力の所在が、官僚機構及びそれと記者クラブ制度を通じて一体化したマスコミにあることを知っていたからだ。
すでに、小沢氏を軸とした「政治主導」は、財務省に取り込まれることによって有名無実化、事務次官会議の廃止も、天下り規制も、郵政民営化も、政府系金融機関の統廃合も官僚によって押し戻された。
その動きを加速させたのが3・11の大震災である。
東日本の復興は、インフラ整備から始まるのであり、国土交通省は勢いづいた。東電の原発事故で経産省資源エネルギー庁は傷つくどころか、東電にすべての罪を被せ、実質的な国有化と他の電力会社も出資する処理機構の創設で、力をさらに増している。
小沢氏のもくろみは潰えた。
なにも官僚個々を敵視したわけではないが、官僚の権益を弱め、規制緩和で活力を呼び戻し、個人に自己責任原則を徹底、足りない部分を政治が補う、というのが自民党を離れた頃の小沢氏のそもそもの発想だった。
「官僚とマスコミ」という権力機構に狙われた小沢氏は不幸だったが、改革を標榜しながら小沢事務所が「利権の調整役」であったという事実は重い。
「水谷建設からの裏ガネ1億円」は、裁かれている政治資金規正法違反事件とは何の関わりもない。単に悪質性を知らしめようとする検察の戦略でしかない。
だが、その戦略は効果がある。
1億円証言のあった4月27日と5月10日は、小沢氏が「菅降ろし」を標榜、親密な議員たちに"檄"を飛ばしている時である。ところが、いかに実力派でも、法廷で汚れたカネの流れが明かされ、刑事被告人という立場を免れない小沢氏が政局の主導権を握るには無理がある。
小沢氏をどこまでも追いかける不運。そうしたのが復権著しい「官」の世界とするならば、日本の資本主義は、国際競争力を奪う電力料金の値上げで賠償費用を賄おうとする東電処理が象徴するように、競争力を失って緩慢なる死を迎えることになりそうだ。
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