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その場しのぎの「浜岡原発停止要請」の大罪 菅総理は法治の根幹を揺るがしている {町田徹「ニュースの深層」 現代ビジネス [講談社]}
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/4144
菅直人首相がまた、取り返しのつかない、その場しのぎの思い付きを表明してしまった。3つの原子炉が残る、中部電力の浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)の運転停止要請が、それである。
専門家の間で以前から、「福島原発よりも遥かに危険性が高い」とされていた浜岡原発の津波リスクへの対応策を菅首相が打ち出したこと自体は、決して悪くない。むしろ、東日本大震災から2ヵ月近くの時間が過ぎており、遅過ぎた感の強い決断である。
しかし、何の法的根拠も強制力もない「首相の要請」という形で、民間企業の経営の根幹を左右する方針を打ち出したことは、決して容認できるものではない。
そもそも、首相の行為は、法体系を以って権力を律するという近代国家の統治の大原則のひとつである「法治主義」を侵す行為に他ならない。
歴史的な政権交代以来、民主党政権は何度も、その場しのぎの発言や対応を繰り返し、国家と国民の利益を損ねてきた。
今回の行為はそれらを上回る深刻な失態であり、菅首相は改めて、自ら、首相としての資質をまったく備えていないばかりか、市民としての基本的な常識を欠いていることを示したと言わざるを得ないのではないだろうか。
震災直後に浮上した浜岡原発の津波対策問題
「福島原発事故の経験から、中部電力の浜岡原子力発電所の津波対策が喫緊の課題に浮上したと考えるべきです」
「高さ6メートルを超える津波が来れば、福島原発のような大事故が起きてもちっとも不思議ありません」
東日本大震災の直後、この連載コラムの取材に追われていた筆者は、複数の取材先から異口同音に2つのポイントを聞かされた。
第1は、日本の原子力発電所の震災対策に盲点が存在する問題だ。これについては、3月15日付の「『巨大津波対策不足』から続く誤算が招いた原子力発電『安全神話の危機』」で指摘したが、地震と言えば、国も電力会社も揺れに対する耐震性ばかりに問題を絞り込み、津波への備えを怠ってきたという事実がある。
そして、第2は、冒頭で紹介したコメントの通り、その津波対策に関しては、かねて、福島原発より浜岡原発の方がリスクが大きいというのが専門家の常識だという問題である。いたずらに不安を煽ることは本意ではないので、こちらについては、当時のコラムの中で、あえて固有名詞を明示しなかった。ラジオでコメントする時も「津波のリスクが高いのは、福島原発だけではない」と慎重に話してきた。
しかし、東日本大震災の直後から、浜岡原発の津波対策は最重要課題となっていたのである。
一方、当の中部電力は、東日本大震災の前から、積極的に、津波リスクに関心が集まるのを抑えようとしていた。ホームページ(http://www.chuden.co.jp/energy/hamaoka/hama_jishin/hama_tsunami/index.html?cid=ul_me)でも、図解入りで、安全性の高さの説明を試みている。
具体的には、「痕跡高などの文献調査や数値シミュレーションの結果、敷地付近の津波の高さは、満潮を考慮しても、最大でT.P.+6m(筆者註=平常時の水面から6メートル高い)程度です。これに対して、敷地の高さは津波の高さ以上のT.P.+6〜8mであり、津波に対する安全性を確保しています。さらに、敷地前面には、高さがT.P.+10〜15m、幅が約60〜80mの砂丘が存在しています。また、安全上重要な施設を収容している原子炉建屋などの出入口の扉は防水構造にしています。これらのことから、浜岡原子力発電所は、津波に対する安全性を十分に確保しています」といった具合だ。
東日本大震災に伴い高さ15メートルを超える津波が福島第1原発を襲った事実に照らせば、わずか6〜8メートルの高さの津波しか想定していない浜岡原発のリスクの大きさは他言を要しないだろう。
中部電力も対応を迫られた。経済産業大臣の阪口正敏副社長が4月12日に大村秀章愛知県知事と会談、新設方針を表明していた防波壁の高さを15メートル超に引き上げると述べたという。この防波堤は、福島原発の事故に伴い、経済産業大臣が全国の電力会社に出した緊急安全対策を受けて、中部電力が3月下旬に12メートル超のものを設けると表明していたものである。
しかし、これで問題が解決したわけではない。というのは、この防波壁の建設には、2〜3年の歳月が必要だからである。それまで巨大津波に対して無防備な状態を放置することには、やはり大きなリスクが残る。
それゆえ、菅首相自身は記者会見で期間を明確にしなかったものの、防波壁の完成までの間、浜岡原発の運転を停止させるというのであれば、これは必要な措置と言えよう。
とはいえ、防波壁の完成までの間、浜岡原発の運転を停止させるという措置を打ち出すまでに、東日本大震災から2ヵ月近い時間がかかったことは問題だ。国民をこの間、多大なリスクにさらしたことの責任は重大である。
菅首相自身が記者会見で運転停止の理由にあげたように、文部科学省の地震調査研究推進本部は「これから30年以内にマグニチュード8程度の東海地震が発生する可能性が87%」としている。そして、浜岡原発は、その揺れや津波の直撃を受けかねない発電所だ。
その一方で、中部電力は原子力発電への依存度が小さく、原発の運転停止に伴う電力供給量の減少は関西電力や東電に比べて小さい特色もある。この辺りの事情をみれば、なぜ、もっと早く対応できなかったかとの疑問が湧く。
運転再開の条件を示さない首相
そして何よりも大きな問題が、今回の運転停止が法的な根拠や強制力のない要請という手法で持ち出されたことだ。要請と言いながら、菅首相は記者会見で、「(中部電力が拒否しないよう)十分にご理解をいただけるように、説得してまいりたい」と中部電力に受諾以外の回答を許さない考えを強調している。一連の発言は、権力の乱用を防ぐために、法による統治という枠組みをはめた近代国家の成り立ちに逆らう行いに他ならない。
中部電力にすれば、要請を受け入れるとなると、原発の停止によって減る電力供給力を火力発電の操業率上昇で補うことになり、ガス、石油、石炭などの燃料コストが上昇し、業績が悪化することが明らかだ。法的な根拠も強制力もない要請を安易に受け入れれば、株主代表訴訟などの形で投資家から経営責任を問われるリスクは大きい。加えて、首相自身が運転再開の条件を明確に示さなかったことも、受諾を困難にしている。換言すれば、要請としては、欠陥要請なのだ。
とはいえ、この要請は菅首相によって行われたものだ。それだけに、受け入れ拒否となれば、内閣総理大臣という日本の最高権力者の権威に傷が付いてしまう。つまり、成功しても、失敗しても禍根を残すという最悪の選択を、菅首相はしてしまったのである。その場しのぎで十分な検討が成されていないことは明らかだ。これでは菅直人氏が、首相どころか、市民としての常識を欠いていることも明らかと言わざるを得ない。
菅首相は記者会見で、対応が要請という形にとどまった理由に触れ「法律的にいろいろな規定はありますけれども、指示とか命令という形は、現在の法律制度では決まっておりません。そういった意味で要請をさせていただいたということであります」と、現行法の不備を指摘した。
しかし、本当に、現行法では、何らかの指示や命令ができないのだろうか。確かに、金融や通信といった他の認可事業に比べて、電力は監督側の規制権限が脆弱な印象が強い。これは政府が電力会社の政治力の強さに対抗できて来なかった証左だろう。今回も、「保安基準や報告義務などの明確な違反行為がない限り、運転中の浜岡原発の4、5号機の停止を迫るような果敢な命令の発出はやりにくかったのではないか」(電力行政関係者)といった指摘があるのは事実である。
とはいえ、現行の電気事業法や原子炉等規制法に、電力会社を規制する手法がないわけではない。むしろ素人が読めば、そのメニューの多さに驚くのではないだろうか。事業の許可、取り消し、業務の改善命令、保安基準の設置義務付け、同変更命令、省令や保安基準に反する場合の施設の使用停止、定期検査義務・・・といった具合に、多彩な行政指導の手法が規定されているいからだ。
そして、今回のケースで、これらの中にひとつも適用できるものが無かったという釈明は、俄かには信じ難い。菅総理が官僚システムのサボタージュに会ったか、そもそも官僚システムに検討させていないという説明の方が遥かに合点がいく話である。
100歩譲って、内閣法制局が現行法での命令発出に難色を示すようならば、まず省令や保安基準を変更し十分な防潮堤の設置を義務付けたうえで、それを満たしていないとの理由から、当分の間、原子炉施設の使用停止措置をとるなど2段構えで対応するとか、あるいは、もっと大胆な手が打てる新法を作るとか、法治主義にのっとった方法がいくらでもあったはずである。
換言すれば、菅首相が東日本大震災直後から手を打っていれば、もっと早くに法的な根拠に基づく強制力のある指導や命令ができたはずなのだ。それでも難しいと東電寄りの官僚たちがサボタージュをしていたなら、議員立法で新法を成立させる時間も十分にあったはずである。これらのことからも、今回の要請が、思い付きのレベルに過ぎず、その場しのぎの色彩が濃いことが明らかだろう。
着々と打たれる「東電擁護」の布石
実際のところ、今回の首相の決断については、大型連休前の国会審議で質問を受けて焦ったとか、一連の対策本部で一部の委員に指摘されてようやく問題を理解したといった報道は少なくない。定期検査で停止中の浜岡原発の3号機の運転再開を迫られて焦ったのではないかとの見方も存在する。
海江田万里経済担当大臣の前日の発言と整合性がとれないことや、地元自治体の首長が連絡を受けていなかった問題など唐突感も拭えない。そして、極め付きは、他の誰でもない、あの鳩山由紀夫前元首相が「熟議が成されたか、疑問が残る」と指摘したと、朝日新聞が報じる始末だ。
半面、老朽化という揺れ、津波に次ぐ耐震上のリスクにどう対応するのか、そうした事故予防の包括的な姿が見えないのも今回の要請の特色だ。
鳩山首相時代の米軍普天間基地の移転の白紙撤回、八場ダムの建設撤回、日本航空(JAL)の再建策の白紙撤回、そして菅政権になってからの財政再建論議や消費増税問題、尖閣沖の中国漁船船長の逮捕劇、そして東日本大震災関連の20を超す対策本部の新設・・・。
民主党政権はこれまで枚挙に暇が無いほど、思い付きに過ぎない、その場しのぎの政策を打ち出しては、立ち往生して、日本と日本国民の利益を損なってきた。
今回の浜岡原発の運転停止命令は、それらに勝るとも劣らない歴史的な失態と言わざるを得ないだろう。
その一方で、菅政権は、福島原発事故の賠償問題や今夏へ向けた電力の供給力回復のため、内部留保の活用など東電自身に身銭を切る努力を迫るという発想が全くないまま、税金や電力料金の引き上げという国民へのツケ回しで、万全の東電擁護策を講じる方向に着々と布石を打っているという。
これ以上、この首相に復旧・復興対策を始めとした国事を委託してよいのだろうか。不安は増す一方である。
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