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平成の特攻隊「フクシマ50」に突入命令を出せますか 大量被曝の危険性が分かっていながら {経済の死角 現代ビジネス [講談社]}
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/2870
誰かがやらねばならない
福島第一原発の大事故発生から約1ヵ月半、復旧の兆しはまるで見られない。東電は事故収束への「工程表」を発表し、「今後6~9ヵ月で安定状態に戻す」としたが、内容はあまりに楽観的。原発の暴走ぶりを見ると、ただの夢物語だ。
そもそも、絶対に忘れてはならないことがある。工程表の目標を達成するには、どこかの段階で、「人間の手」による長時間の作業が必要---ということだ。
たとえば、工程表の最初の3ヵ月「ステップ1」では、放射線量を減らすため、圧力容器に窒素ガスを注入し、格納容器に水を満たすことになっているが、この過程でも、人間が現場で自ら行わねばならないことが多い。遠隔操作ロボットはすでに一部で使われているが、建屋内の高湿度でレンズが曇り、瓦礫の上を前進もできず・・・と、本格的な作業は不可能だ。
もちろんそんな環境は、ロボットだけでなく人間にも厳しい。ひどい蒸し暑さの中、ゴーグルが曇って前が見えず、重い防護服での作業も困難を極める。
そして最も恐ろしいのが、言うまでもなく、放射線による被曝。現在の建屋内の放射線量では、人が「突入」して4時間余り作業をすると、年間の被曝線量の限度を超えてしまい、その後1年以上は現場に戻れなくなる。そのため、次々と人を投入、交替していかねばならず、最終的に何人の作業員が必要になるのか見当もつかない。
今、現場の作業員たちは、気力も体力も限界に近いところで、苛酷な職務に奮闘している。彼らは当初、約50人とされたことで「フクシマ50」と呼ばれ、国内外でヒーロー視されている。
「フクシマ50」の現在の人数は約700人。内訳は東電の社員に加え、原子炉メーカーの東芝や日立製作所、それらの関連会社や子会社、そして自衛隊、消防、警察といった組織の人たちだ。彼らには今後、限度を超えるレベルの放射線を浴びて作業するという、さらなる危険が待ち構えている。
ここで改めて考えてみたい。国と東電には、「フクシマ50」の面々を、放射線が充満する中に送り出す権利や権限があるのか。誰かがやらねばならぬこととはいえ、死ぬ可能性のある「特攻隊」のような仕事を命じることは正義なのか。
法律家の立場から、名城大学教授で元東京高検検事の郷原信郎弁護士は言う。
「危険な職場で働くことは、命令されても拒否できます。これは、労働者に法的に認められた権利です。ただし、拒否した作業員が職場で不利益を被らないようなルールはないので、それを定める必要がある。公益通報者保護法と同じです」
行くのは東電? 自衛隊?
郷原氏が危惧するのは、まだ原発内への「突入」に至っていない今でも、作業員のリスクを最小化しようとする努力が十分になされていないこと。そして、本当の放射線量など、作業員に不利益になる情報がすべて開示されるかどうかが明らかでないことだ。
「(原発内での長時間作業は)誰かがやらねばならないけれども、誰もやりたがらない苛酷な仕事。それをやってもらうからには、危険性をよく説明し、かつなるべく小さくした上で、自由意思で決めてもらう必要がある。自衛官でも消防士でも民間人でも、本人が危険性を認識して『やりたくない』と判断したら、強制はできません」(郷原氏)
しかし、世間の風潮は「突入」を後押しする方向で進んでいる。厚労省は、労働者の年間被曝線量の限度を、100ミリシーベルトから一気に250ミリシーベルトに引き上げている。これで作業員は、少し前までは限度の2倍以上だった大量の放射線を浴びてもよし、とされたわけだ。
「厚労省の考えはよくわかりませんが、今は社会的に『国家的危機だから、作業員のやる気をそぐような細かいことは抜きにしよう』という空気を感じます。戦時中の神風特攻隊を連想しますね」(郷原氏)
荘司雅彦弁護士も「政府が国民に『特攻隊の突入』のような危険な行為を命令するのは、現行法では不可能です」と断じる。それは、一般国民はもちろん、政府に雇用されている公務員や東電の従業員も同じ。
「(郷原氏が挙げた)『リスクの最小化』と『最悪の場合の情報開示』に加え、健康被害が生じたときの補償の説明も必要でしょう。しかし、そこまでして同意を得ても、大量被曝の中で作業をさせれば、将来、やはり問題になるかもしれません」(荘司氏)
実は、今回のような未曾有の事態に対応する法は十分に整備されていない。原発はこれまで「絶対安全」が前提とされていた。したがって、致命的な大事故を想定した法令が、日本にはなかったのだ。
本来は、そこで国が主導して新たなルールを作るべきだが、その気配はない。理由は言うまでもなく、菅首相と政府のリーダーシップの欠如だ。彼らに求心力が乏しい今、「『特攻隊』の原発への突入」という問題を政治的にどう捉えればいいのか。元防衛庁長官の加藤紘一衆院議員(自民党)は語る。
「自衛隊の任務とは違うので、自衛隊に出動要請はできないでしょう。最終的に(特攻隊は)東電や東芝の人たちになるでしょうが、誰がそれを命じるのか。権威のない今の政府に、そんな命令を出す資格があるのか。
死を覚悟した行動を取るのは、いわば戦闘員が戦地に行くようなもの。それを命じる指揮官(菅首相)は、戦闘員に尊敬されていることが条件ですが・・・首を傾げざるを得ませんね」
警察官僚出身で元首相秘書官の小野次郎参院議員(みんなの党)も政府の当事者意識の欠如を批判する。
「国民はたぶん、原発周辺の放射線量を政府が調べて発表していると思っているのでしょう。実は違うんです。すべて東電が計測したもので、原子力安全・保安院はそれを取りまとめて発表しているだけ。政府はなぜ自らの責任で調査し、発表しないのか。
放射能で汚染された水を海に流したときも、東電が決めたのか政府が命じたのか、まったく不明です。あらゆることに指揮命令系統がはっきりしないのです」
これでは、突入して行う危険な復旧作業も、国のためか東電のためかわからない。現場の作業員が気の毒だ—と小野氏は言う。
また、菅首相や民主党政権の今の言動では、「大量被曝しても命がけで復旧に当たりたい」と希望する作業員が現れても、そのやる気を失わせる恐れがある。たとえば震災直後、命がけで原発に放水した東京消防庁の隊員を「すみやかにやらなければ処分する」と恫喝した海江田万里経産相、「消防職員はボランティア精神で応援に駆けつけてくれた」と語った菅首相・・・。
「菅首相と民主党は人の気持ちがまったくわかっていない。『この仕事は危険だが、君ならできるし、君にしかできない。だから国のために頼む』と誠意を込めて言われれば、人間、責任感を持って立ち向かうものです。しかし、脅かされたり他人事のような感想を言われたりすれば、誰もがやる気をなくす。そういう、人間として大切な資質を欠いた政治家には、公務員でも民間人でも、国民に危険な作業を命じる資格があるとは思えません」(小野氏)
先に郷原氏や荘司氏が述べたように、人には、危険な業務命令や職場を拒否できる権利があり、海江田経産相の恫喝はそれを完全に無視している。逆に見れば、そういう基本的な知識のない人物が主要閣僚を務めていることにもなる。
京都大学大学院教授で政治学者の中西寛氏も言う。
「海江田経産相の『処分する』発言が事実なら、『公務員は死の危険を伴う職務を拒否できない』と言っているわけですから、問題です。昔の日本軍も、特攻隊に『死にに行け』と命じたのではない。あくまで特定の攻撃を命じたわけで、また形式的にせよ、その命令に従うかどうかは本人の意思で決めることになっていました。
原発の作業員たちについても、『志願した人を選ぶ』という一線は絶対に守るべきです。また、フクシマ50を過度に賛美するのも疑問。彼らの危険を最小限にするという、国と東電の責任が曖昧にされる恐れがあるからです」
65歳以上を集める
もちろんこの事故は、現代文明にとって完全な「想定外」の事態だ。そうなると、今までの法や政治、社会の約束を超越して、場合によっては国の力で国民を原発に送り込み、身を挺して復旧の努力をしてもらうこともあり得る—とする考え方もある。たとえば、
「被害の決定的な深刻化、拡大を防ぎ事態を収束させるには健康を害する被ばくの危険性を伴う犠牲的な活動が不可欠である」(『四国新聞』4月18日付)
と記した共同通信編集委員の柿崎明二氏は、次のように説明する。
「今回のような緊急時には、まず最悪の事態を決め、それを回避することに全力を挙げるべきです。今回はとにかく、放射性物質が日本そして世界へ拡散することを、何が何でも防がなければならない。不測の事態になったら、決死隊を行かせなければならなくなるかもしれません」
その際、人手が必要になるなら、国民の生命と財産を実力で守ることが任務である自衛隊が行くべきだ—というのが柿崎氏の意見。そのときに、技術的に自衛隊だけでは放射性物質の拡散防止が難しいということになれば、政治の力で民間人も入れる必要がある。
「しかし、それを強制的に行うとすれば超法規的措置になるので、菅首相は事態が収束した時点で退陣し、国会議員も辞職すべきです。同時に、過去の原発政策を進めてきた自民党の責任も厳しく追及されねばなりません」(柿崎氏)
危険な現場の作業は自衛隊に頼む、という点では危機管理評論家の佐々淳行氏も同じだ。
「自衛隊員にお願いするにせよ、危険を十分に認識させた上での志願制とする。加えて手厚い特別手当を与え、作業終了後もずっと放射線障害の健康診断を受けられる仕組みを整える。やむなく東電の人間も加えるのなら、身分が保障された正社員に限定する。現場で危険な作業に当たらせる人は、これが限界でしょう」
こう語る佐々氏は、今回の原発事故の現場でキャリア官僚が陣頭指揮を執らないことを「卑怯としか思えない」と批判する。確かに、キャリアが安全地帯にいてすべて責任を下に押しつけたのでは、倫理上も問題だし、士気も低下し、組織の意思決定が遅れて、危機管理上のリスクも高くなる。
「これまで日本の大事件や大事故では、キャリアが前面に立ってきました。ところが今回の原発事故では、驚いたことにそれがない。原子力安全・保安院の西山英彦審議官が現場から離れたところで淡々と惨状を報告しているのは、私には理解できません」(佐々氏)
人を動かすのは、法律や政治権力だけではない。経済的動機、すなわちお金欲しさに、人間はしばしば信じられないことをやってのける。「決死隊の原発への突入」が、本人の経済的動機を満たし、また社会の利益にもかなう行動になる可能性はあるのか。嘉悦大学教授で元財務官僚の高橋洋一氏は言う。
「経済合理性で割り切れば、国が外人部隊を雇うように、東電は特攻隊を雇うでしょう。多額のお金を払えば、被曝の危険などかえりみずに働こうという人たちがすぐに集まると思います。東電は資産を売却すれば、そのお金など簡単にひねり出せる。正義や不正義を忘れて合理的に考えれば、これで金で解決、となります」
そうなれば政府も、お金のやり取りについては見て見ぬふりをして、突入命令を出せる。あるいはもっと露骨に、まさに外人部隊のように、政府が特攻隊に直接お金を出す可能性もある。実際、ある政府関係者はこう証言する。
「まだ正式に進んでいるわけではなく、政府の一部で頭の体操%Iに考えているだけですが、最後には特攻隊を政治の責任で結成するという案が出ています。メンバーの対象は65歳以上で、1日の報酬10万円、1回の作業は30分程度。これを月に2~3回やってもらうというものです」
総理と東電社長が行くべき
つまり法的、政治的に考えて、政府が国民に突入を強引に命令することは難しい。そこで、募集に応じた人たちに報酬を支払って突入を依頼する、という流れが浮上しつつあるのだ。
今回の事故では、国と東電の情報公開の遅れが世界中から非難された。放射能汚染の実態が分からず、国民が不安に陥ったのは当然だが、現場の作業員たちはおそらく不安を通り越して恐怖を感じていただろう。
この、現場が中央から情報を与えられない中で頑張ったという点は、旧日本軍と同じ。太平洋戦争中、大本営は戦局を把握していたが、最前線の兵士たちは何も知らされず、無謀な戦いを強いられた。昭和史研究家の保阪正康氏は言う。
「中央の原発官僚と福島の現場で働いている作業員の関係は、まさに大本営と現地戦闘員のそれに重なりますね。中央の司令官は『つべこべ言わずに死ね』と命令し、戦闘員は特攻や玉砕の形で死んでいった。その論理が、今も原発の世界ではまかり通っているのだなと思いました」
せめてこの平成の時代、原発の「特攻隊」には正確で十分な情報が与えられ、生命と健康に配慮がなされて、家族が安心できるよう望みたい。
戦前から日本では、政治とメディアが特攻隊を含む若い兵士たちの活躍を持ち上げ、その陰で政治家や官僚、軍幹部らの失敗の責任が不問に付される—というパターンが繰り返されてきた。今回の原発事故について同様のことを危惧するのは、東京大学大学院教授で哲学者の高橋哲哉氏だ。
「今後、大量被曝しながら原発で作業を強いられた人が亡くなれば、『国家国民を守った尊い人』として、靖国の英霊のように持ち上げられるでしょう。かつての日本は、上層部の失敗によって兵士たちが非業の死を遂げると、国家のための尊い犠牲であるとして、靖国神社というシステムの中で美化してきました。一方、上層部の責任は曖昧にされることが多かった。そういうことが繰り返されるのに、私は賛成できません。
それよりまず、歴代の首相や電力会社社長、官僚、学者ら、『絶対安全』と言って原発を推進してきた人たちに、今の危険な現場に行ってほしい。そうして責任に向き合ってほしいと思います」
高橋氏によると、原発の下請け労働者は放射線の充満する場所での作業を強いられ、それが原因と疑われる病気や死亡例が後を絶たない。福島第一原発の周辺でも、'70年代からそういう問題が起こっていたが、一部のジャーナリストなどが追及しただけで、事実上、無視されてきたという。
「原発とは平時から、現場の労働者の被曝という犠牲を組み込んでおかない限り、成り立たないものです。そのシステムを今、根本から問い直す時期が来ていると思います」(高橋氏)
あなたなら、フクシマ50に突入命令を出せますか?
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