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『週間ポスト』
平成23年4月25日発売
小学館 通知
会計士・磯崎哲也氏の詳細試算で驚愕の結果
それでも東京電力は「債務超過」「上場廃止」にならない
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「損害補償額は数十兆円」「国有化は必死」「上場廃止で株券は紙くずになる」──。
日本有数の安定企業とされてきた東京電力が、原発事故をきっかけに、市場で信頼を失いかけている。東電は潰れるのか。
株主と市場は「東電ショック」に苦しむのか。カリスマ会計士・磯崎哲也氏が財務諸表を徹底解剖し、意外な事実を突き止めた。
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(写真)右は避難区域の福島・双葉町の市街地、下は出荷停止になったコマツナ
核燃料は9300億円の「固定資産」
東京電力の株主は約61万人で99%は個人投資家が占める。高齢者が手堅い資産連用のために保有しているケースが多いのが特徴だ。
その東電の株価は、原発事故前の約2000円から約500円に暴落。それだけでも株主のショックはいかばかりかと思われるが、今後の廃炉作業や巨額の補償金支払いで債務超過に陥り、上場廃止となって株券が紙くずになりかねないとの懸念が広がっている。
東電は総資産約14兆円、資産から負債を引いた差額である純資産は約3兆円の超優良企業だった。
果たして本当に債務超過に陥っているのか。
10年12月末時点のバランスシート(連結貸借対照表)によると、固定資産総額は約12兆4000億円と、固定資産が総資産の約9割を占める。
原発も巨大資産かと思うと意外にもそうではない。
実は、福島第一原発の帳簿価額は、東電広報部によると1930億円(炉ごとの価額は非公開。09年3月末時点)しかない。福島第一の全6基が使用不能になり、土地(700億円程度)も価値を失うとしても、東電の財務の規模からすれば大きな損失とはならない。
水力、火力、原子力を合わせても発電所の設備資産が総資産に占める割合は18%程度。原子力の設備に限れば約8500億円だ。固定資産の中で大きいのは、電線や配電所などの「送電・変電・配電」設備で、合計約5兆円を占めている。
実は、原発設備よりも高額な固定資産が核燃料で、約9300億円と計上されている。そのうち福島第一原発(全6基)にある燃料棒の合計帳簿価額は519億円。本数は2808本なので、1本当たり約1850万円。炉心溶融が起きたと見られる福島窮一原発1〜3号機の炉内には、燃料棒が1496本残っていたが、これが再使用不能になるとすると、280億円程度の損失と試算できる。
続いて解体・廃炉費用を見ていく。1兆円規模の資金が必要になるといった専門家の指摘もあるが、ビジネスやファイナンス情報で人気のメールマガジン『週刊isologue』の執筆者で、公認会計士の磯崎哲也氏はこう分析する。
「11年3月期から会計ルール上、福島第一原発の帳簿価額には、『資産除去債務』として解体・廃炉にかかる費用も含まれています。価額の半分が廃炉費用、さらに放射能汚染で作業費が2倍かかると見積もっても、2000億円程度のコストで済むと考えられます。実際にもっと支払うことになったとしても、廃炉は10年単位の長期にわたるので、将来必要になる分は金利分を割り引いて計上される。
その分、金額は小さくなります」
磯崎氏は、むしろ福島第一の事故が東電管内の他の原発に与える影響を考える必要があると指摘する。
「もし反原発の動きが広がり、今後、福島第二と柏崎刈羽の操業を縮小せざるをえなくなったとします。減損によって資産価値が半分になるとすれば、2400億円程度の損失が発生すると想定されます」 以上を合計すると、バランスシート上の原発施設関係の損失は、7000億〜8000億円と見積もることができる。
風評被害は免責される?
福島第一原発の事故は現在進行形であり、現時点で損害補償轍を正確に見積もることは難しい。それだけに、数十兆円に達するという予測も飛び出しているが、果たして妥当な数字なのか。
磯崎氏がいう。
「補償額をいくら見積もるのかは、会計上、引当金にどれだけ計上するかということを意味します。『企業会計原則』に従えば、引当金は合理的に見積もれる≠烽フしか計上できません。
たとえば、出荷制限がされていない地域の野菜や海産物の売れ行きが風評被害によって落ちても、東電の責任の立証や損害額の確定が難しければ補償範囲に入らないと考えられます」
磯崎氏が、引当金の試算のベースとしたのは、福島第一原発周辺の市町村の人口、農業産出額、工業製品年間出荷額などの各種統計である。
まず、原発事故による休業損害や慰謝料だ。30`圏内の農業産出額全額、商店年間販売額の粗利分(4割として計算)、工業製品年間出荷額の粗利分(6割)を、これらの産業が生み出していた付加価値を考えると、合計で1056億円になる。
3年分支払うと仮定すると、ざっと3000億円程度と見積もれる。
次に原発周辺の土地の価値減少に伴う損害補償額はどうか。東海村JCO臨界事故(99年)の時は補償されなかったが、今回の事故では今後、居住や農業、商工業ができなくなる可能性があるという被害の深刻さを考慮して、磯崎氏は補償額に組み込んだ。
福島第一原発から10`圏内の市町村と、多量の放射性物質が見つかった飯舘村を補償の対象とすると、その地域の10年分の農業産出額を農地の価値と計算して1187億円。10`圏内で商業や工業もできないとすれば、商店年間販売額の粗利(4割)と工業製品年間出荷額の粗利(6割)の10年分を商業地や工業用地などの価値と仮定して、8473億円となる。宅地の価値については、居住者の収入が農地や商工業地の補償額に含まれているので考慮していない。
ここまで休業補償、慰謝料と土地の損害補償を合わせて、補償額は合計1兆2500億円程度になる。
「30`圏内の人口は約20万人だが、避難している人は約10万人といわれる。実際には半分程度の規模を想定すればいいかもしれないが、あえて多めに見積もりを行なってみました。実際の補償額はこれより小さくなる可能性があります」(磯崎氏)
さらに、政府は「出荷制限の補償は東電に着任がある」(枝野幸男・官房長官)と明言していることから、出荷制限を受けた農畜産物などについては、補償が発生する可能性がある。先に見積もった30`圏内と飯舘村を除いた、現在出荷制限がある地域の農業産出額(出荷停止農畜産物以外も含む)の半年分と、その後のl年間の風評被害の売り上げダウン50%を見積もると、約1560億円となる。
もちろん、被害が確定していないので、この試算額では済まない可能性もある。
だが、原発廃炉などの特別損失と合わせても、2兆円を大きく超えることはなさそうで、純資産3兆円を抱える東電が、一気に債務超過に陥るとは言い難いという結果になった。ちょっと意外な感じもする。
しかも、東電がこの補償額をすべて支払うわけでもない。15日に開かれた「原子力発電所事故による経済被害対応本部」(本部長は海江田万里・経度相)では、原子力損害賠償法に定められた上限の1200億円分の補償額を国が負担することを決定した。さらに同法には、国会の議決があれば、1200億円を超える分を政府が援助するとの条文もある。
「電気料金値上げ」に逃げるのか
資産(ストック)の分析では、東電が債務超過に陥るほどの損失はないと試算されたが、収支(フロー)には、深刻な影響が出る。
東電の有価証券報告書には、「事業等のリスク」として、次の記載がある。
〈原子力設備利用率が低下した場合、燃料費の高い火力発電設備の稼働率を高めることとなり総発電コストが上昇する可能性がある〉
東電は、電力需要がピークを迎える7月末に向けて、火力の発電力増強を急いでいる。これは燃料費増を招き、収支を悪化させる。
07年7月の新潟県中越沖地震のため、柏崎刈羽原発が09年は月まで操業を停止した時、電気事業の営業利益は07年3月期の5263億円から、08年3牒期、09年3月期がそれぞれ、943億円、216億円と大幅にダウンした。
東電の借金が増えることもフローを圧迫する。
「事故後、東電はメガバンクなどから2兆円の融資を受けました。今後1年間で返済する社債や借入金の合計額も1兆円に及び、さらに補償費用もあるので、新たな借金をする必要も出てきます。財務体質が悪化するのは間違いなく、調達金利が上昇すれば、利払い負担がさらに収支を悪化させることが考えられます」(磯崎氏)
前述のとおり、東電には3兆円の純資産がある。補償などで2兆円の損失が出ても、年間1000億円程度の赤字で済めば、10年間はもつ計算になるが、じわじわ経営体力が弱っていけば、倒産危機に陥る。
ただし、東電にはそれを避けるための方策がないわけではない。
東電は経費に利益を上乗せして電力を販売する「総括原価方式」を採用している。簡単にいえば、燃料費高騰分を電気料金に上乗せできる仕組みである。それを国民が許すかどうかは別問題だが、独占企業ゆえにできるズルイ経営だ。今後、議論の対象にはなるだろう。
東電が、すぐに債務超過や上場廃止になることはなさそうだが、国有化される可能性はあるのか。「東電が債務超過に陥るか、資金繰りが滞る兆しがないと、国が民間企業に介入して国有化に踏み切る理由が付けづらいと思います。また、他の電力会社を国有化しないなら、それらとのバランスも考える必要があります」(磯崎氏)
東電の綱渡りの経営が続くことは間違いない。また、たとえ倒産を免れても、社会的な責任を果たし、国民の信頼を回復することは並大抵なことではない。投資家にも、冷静な分析と評価が求められるだろう。
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政府内部文書に記された電気料金値上のシナリオ
52nからの記事の通り、福島第一原発の廃炉や事故の被害者保障をめぐって、東電に対する国の支援のあり万が検討されている。そんななか、本誌は内閣官房の内部資料を入手した。東電の保障問題に関する状況をまとめた資料だが、注目すべき記述が見られる。
そこには、この問題に関する「前堤」として、東電の財務が震災によって原発事故補償の前に相当傷んでいる、と書かれており、さらに、年度末に確保した2兆円程度の資金も長くは持たず、原発の廃炉や補償などの費用で簡単に債務超過になる状況だと記されている。また、見通しが立たないため、財務諸表へ「危ない会社」のサインである「注記」を監斎法人から求められている、ともある(東電広報部は「現在、財務内容については数字をはじいている最中なので、お答えできない」と回答)。
その後に続くのは、「JALと同様の国有化論は株価に大きな影響を与えるので、東電の倒産につながる可能性大」「何でも来電が負担しろ、という東電追い込み論は金融機関からの融資が止まるため倒産する可能大」「事業者負担を強調しすぎると、東電に止まらず全電力会社(沖縄電力を除く)が経営危機になる可能性大」と、東電の経営破綻について、繰り返し言及している。
だが、52nからの記事で詳しく分析したように、東電が一気に債務超過に陥るとは考えにくい。
ここから見えてくるのは、東電の経営危機を強調することで、東電国有化も破綻もさせないまま存続をさせる仕組みを作ろうという政府の目論見だろう。事実、その後報道された原発賠償の政府原案は、その通りの内容となった。
なお、文書には、東電の事業利益から長期的に補償費を負担させる仕組みとして、具体的に、毎年の電気料金を1`ワット時あたり0・5円上げていく案も記されている。
企業の財務に詳しい東洋大学大学院教授・益田安良氏はこれについて、「国は、東電の経営破綻を避けて電力会社が協力して支えることや、電力料金の値上げで乗り切るシナリオかもしれないが、東電が破綻しようとしまいと、結局のとごろ最後にその高いツケを電力料金値上げや税金などにより支払うのは、消費者である国民なのです」と手厳しい。
そもそも、これらはすべて「東電がすでに危ない」という前提に立つ話。経営悪化を喧伝することで、国民に過度の負担を押しつける方向に進むとすれば、由々しき問題である。
(写真)投資家の心配は募るばかり(謝罪する清水正孝・東電社長。右上は福島第二原発の核燃料プール)
(写真)原発事故のの練済被害対応本部。中央は本部長の海江田経産相
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