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http://www.the-journal.jp/contents/hirano/2011/05/54.html
■菅首相で「国民の生命と財産」が守れるか!
東日本大震災発生から2ヶ月が過ぎた。復旧のための第一次補正予算が5月2日(月)に成立した。菅首相の対応は後手後手となり、責任逃れの発言が目立つ中で、国権の最高機関たる国会は国民を代表して職責を果たしていると言えるのか。今でも被災地は復旧・復興どころか混乱を続けている。特に、福島第一原発事故に至っては、当初の菅首相の「安全発言」が完全に誤りであったことが世界中に晒されている。
菅首相で「国民の生命と財産」が守られるのか、戦後最大の政治危機として国民は深刻さを深めている。菅首相の退陣による強力な大震災対策政権の樹立が叫ばれる中、これらの動きを「つまらぬ政争」として、菅政権の継続を主張するメディアの影響をうけ、政治家レベルの菅首相退陣論はしぼんでいる。こんなことでよいのか、菅政治を検証してみよう。
■菅直人政治七つの問題
東日本大震災への対応を中心に、菅直人政権を検証すると「七つの問題」にまとめることができる。要点を述べておこう。
1)非常事態という認識がない問題
千年に一度という大震災、これに人類史上初めての人災が伴う原発災害事故、ともに、日本有史以来の国難である。これを「非常事態」と認識しなくて国民の生命と財産が守れるはずはない。私たちは党派を超え、政府高官の協力も得て、菅首相に、国会決議による「非常事態対策院」を設置することを進言した。政・財・地方・労働各界の強者による党派・階層を超えた司令塔をつくろうとするものだが、敢えなく拒否された。危機に臨む政治指導者としての資質に問題がある。
2)政権担当能力に致命的欠陥がある問題
菅首相自らが「仮免政権」と自嘲した時期があったが、大震災対応で致命的欠陥が明らかになった。私はかつて菅さんから「政権担当能力」について質問を受けたとき、「戦略的自己抑制力」だと答えたことがあったがまったく理解しなかった。政治とは集団行為であり一人ではできない。ましてや、内閣総理大臣ともなれば「国民の生命と財産」を守る最高責任者である。その能力は司つかさ、部署部署にいる責任者の意見を聞き、適切な指導を行うことである。これが首相のリーダーシップだ。
菅首相が事態に対する冷静さを失い、官邸の自室に閉じこもったり、報告に来た閣僚や官僚を理由もなく怒鳴るなどの異常行動は、歴代の首相には見られなかったことだ。きわめつけは、東京電力本社に怒鳴り込んだ奇行だが、大震災の直前には「在日違法献金問題」で菅首相の首は風前の灯火であったことが原因と思われる。昨年末からの菅首相の発言や行動に対して、心療内科の複数の医師(国会議員を含む)から危惧する意見が出されている。要するに、人格に問題があるということだ。
3)政権延命のため、情報隠蔽を操作した問題
自然災害と人災が重なった原発事故が発生した翌3月12日(土)の与野党党首会談で、現場に押しかけ視察した直後の菅首相は「安全で心配いらない」と報告した。その直後に水素爆発は起こった。菅首相は正確な情報を知っていたのか、知って隠蔽したのか、工作したのか。あるいは本当に知らなかったのか、知らなかったならさらなる責任があろう。米国はじめ諸外国では、事故の当初から最悪の状態となる情報を把握しており、日本政府にも通知していたと言われる。この菅首相の姿勢が、原発事故の対応を全てにおいて混乱させ、現在でも続いている。
そもそも、12日早朝のパフォーマンス視察が事故拡大の根本原因ではないか。政府が「ベント」を命令して、菅首相が放射能防護服も着用せず、専任カメラマンを同行して現場に現れたら、「ベント」などできるはずはない。東京電力もこの辺の事実を情報公開すべきだ。原発事故レベルを最初は「4」として、数日後には「7」に上げた説明も、国民だけではなく、国際社会を納得させることができなくて、不安・不信を増大している。原発事故はあらゆる意味でこれからが問題であり、全てにおいて失敗した菅首相を居座らせて解決できないことは明確である。
原発事故の情報隠蔽は数限りなくあるが、きわめつきは、小佐古敏荘東大教授が「原発事故の取り組みがその場限りで、事態の収束を遅らせた」と涙ながらに記者会見して、内閣官房参与を辞任したことである。福島県内の小学校など、校庭の利用基準で被爆限度を年間20ミリシーベルトと設定したことへの抗議である。国会で取り上げられたが、菅首相は「問題はない」と発言した。これは暴言だ。小佐古教授の学問的生命を懸けた抗議は人間、なかんずく子供の生命にかかわる基本的人権という憲法上の主張である。これに唾を吐いたのが菅首相の答弁といえる。
4)国際社会への不信を増大させた問題
米軍をはじめ各国の好意的支援のおかげで、今日の復旧が実現したことには心から敬意を表したい。同時に菅政権の判断ミスで各国の好意に対して失礼な対応をしたことが数多く指摘されている。その諸外国の好意に礼ならぬ「放射能汚染水」を垂れ流したのが、日本国政府であった。
これはさすがに隣国は苛立った。日本の「原発安全神話」は消え、放射能管理の杜撰さを露呈し国際社会に拭いきれない不信を与えた。一方、日本には原発事故の後始末に巨額の経費がかかるだろうし、先進国企業は国を挙げてそれを狙ってこよう。
5月末にはサミットが開かれる。話題の中心は「原発事故」だ。仮に菅首相が退陣せずに出席することになれば、どんなことになるだろうか。原発事故の不始末を謝罪することになると、各国は言葉には出なくとも、腹の中では計算が働こう。原発事故始末を口実として、日本に「新植民地化」を強いてくるだろうが、菅首相では対応することはできまい。
5)風評被害を発信させた問題
菅政権から発信される情報が、放射能被害が「安全」から始まり、「直ちに問題はない」となり、続けて野菜や魚の規制が始まり、そして避難勧告が拡大され風評被害が全国に拡大し、さらに果樹・野菜や魚はもとより、工業輸出品へのチェックとなる。
きわめつきは菅首相が言ったといわれる、福島県のある地域は「2〜30年住めなくなるだろう」という話だ。躍起になって打ち消したが、まともにうけとる国民は少ない。一連の菅首相の、その場の思いつきによる軽口が風評被害の最大発信源となっている。こんなことで国政ができるのか。
6)国会で不誠実な暴論を繰り返す問題
個々の問題は取り上げないが、大震災後の菅首相の国会発言には被災者の感情を逆なでしたり、専門家の意見を冒涜する発言が多かった。
代表的なものとして、早朝の原発現場視察とベントが遅れた問題、政府機能が停止するような事態の検証、避難対象地域には住めなくなるとの発言、小佐古教授の内閣官房参与の辞任等々、菅首相の答弁には不誠実で暴言的なものもあった。国会議員からは鋭い指摘もあったが、総じて技術論が多く、非常事態に対応する政治の在り方という基本認識での議論が少なかった。菅首相の政治姿勢だけでなく、国会にも問題がある。早い機会に関係者を証人喚問すべきだ。
7)政権交代した民主党を崩壊させた問題
大震災後の地方統一選挙は民主党の惨敗に終わった。岡田執行部は強がりを言っているが、民主党に対し、全国的に拒否反応が起こっていることは事実である。その原因は大震災前から見えていた。鳩山政権の成立は、自民党政権からの歴史的な政権交代であったことは疑う余地はない。それでは菅政権への交代は何であったろうか。
形の上では党内での首相の交代だが、政治心理学的には大変な問題を抱えている。菅首相は昨年6月の就任にあたって「小沢氏の排除」を宣言し、それを政権浮揚に利用した。しかし、参議院選挙には敗北した。同年9月の代表選には小沢氏が出馬し、「自民党との政権交代の原点を守るか」、「政権交代の原点を放棄するか」を問う選挙だった。放棄派の菅首相が勝利し、政権を続けることになる。この対立は政党の通常の派閥抗争とは異なる。政権交代を国民に公約して成功した民主党が、偽装した正規の手続きで政権交代の原点を否定するわけだから、有権者への裏切りである。民主党国会議員の多くはこのことを理解していないようだ。
小沢氏に対する検察審査会の強制起訴という政治的謀略が、裁判の段階に入るや、民主党執行部は徹底的な「小沢氏排除」に出た。しかし、小沢氏側には「小沢一郎」と書いた200名の衆参国会議員がいる。その中で小沢氏を支援する人数は150人前後といわれる。菅首相も岡田執行部も無視することはできない。それでも菅首相と岡田幹事長は、政治倫理審査会出席をめぐって、小沢氏を「党員資格停止処分」とした。
東日本大震災は、小沢氏の「党員資格停止」を待っていたかのように起こった。この非常事態に対応するには、まず、政権政党が挙党体制を創ることが最重要課題である。小沢氏は3月19日(土)、菅首相の招きに鳩山氏らと応じ「何でもやるから何でも言ってくれ」と心境を述べたといわれる。菅首相にはそれに続ける言葉はなかったようだ。小沢氏は岩手県の出身で東日本大震災の復旧・復興に欠かせない政治家である。菅首相は、大震災という犠牲を払っても小沢元代表と挙党体制をつくることを拒否しているわけだ。民主党は政治心理学的には、肉体と霊魂が分離したような状況にある。菅直人という人格の反映だ。
さらに、大震災の復興を悪用して、政権交代後から菅首相が策謀していた「大増税」を断行しようとしている。最悪の不況下で、民主党の立党の精神と「国民の生活が第一」という党是を否定するもので絶対に許してはならない。
報道によると、鳩山元首相ら党幹部の中には菅首相の言動を批判する動きに、民主党を割る行為をしないようにとの意見のようだ。国民のほとんどは、菅・岡田体制を自民党から政権交代した民主党とは思っていない。菅首相が民主党を崩壊させた現実を直視し、立党から政権交代に至る歴史を振り返り、新しい政治への展開を志すべきである。
鳩が蒔き 小沢が育てし民主党
ただやすやすと 壊すは菅なり
貞 夫
統一地方選が終了した4月25日(月)、衆議院議員会館の地下廊下で、当選一回の民主党所属議員三人と出くわし、立ち話となった。彼らは「民主党は、これまでの支持者から拒絶されるようになりました。次の総選挙で私たちは棄てられます。私たちはどの船に乗ればよいのかわかりません」と話しかけられた。小沢グループの議員ではなかった。私は「他人の船に乗る時代ではないよ。自分たちで船をつくることを考えてはどうか。議会民主政治はそういう思想でできているのだよ」と、答えておいた。
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