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東日本大震災の後、首相のリーダーシップ不足や官邸の機能不全が叫ばれ、菅首相の資質を問う議論も高まっている。しかし、首相の資質を問う声は毎度繰り返される政治の一幕だ。
漫画好きで漢字がまともに読めなかった首相。“トラスト・ミー”と口先ばかりで、親から多額の子供手当てをもらっていた首相。そして経済音痴でリーダーシップが不足する首相。この前に、所信表明直後に突然辞任した首相や「あなたと違うんです」と迷ゼリフを吐いて政権を投げ出した首相がいたことなど、遠い昔の出来事だ。
このように短期間で首相が変わる状況が続き、政治と共に日本経済も停滞するばかりだ。たまたまこのような状況が続いているだけなのか。それとも制度の機能不全から生じているのか。
小泉首相が2006年9月に退任した後、4年も経たない間に5人目の首相となった菅首相は、戦後まもなく誕生した東久邇宮内閣から数えて32人目の首相だ。約66年で32人であるから、平均在任期間は約2年だ。宇野宗佑首相の69日、羽田孜首相の64日など、政権が短命に終わる姿は、必ずしも最近だけの傾向とは言えない。イギリスでは、1945年8月以降で数えると、首相の座に就いたのは13人だけで、平均在任期間は約5年となる。最大8年の任期を務める米国大統領や5年の任期がある韓国大統領と比べても、日本の首相が政権を担う期間が短いのは明白だ。
長い任期を約束し、首相に強い権限を与えなければ、リーダーシップを発揮しづらい側面があるのは事実だろう。大震災後も力強いメッセージの一つも発することが出来ない菅首相を擁護するわけではないが、「ねじれ政権」下で、政権の座をいつ引きずりおろされてもおかしくない状況が続けば、誰が首相になっても困難な舵取りが要求されるのは事実だ。
そのような状況を打破すべく、首相公選制も一案としてあるものの、日本国憲法は、国会の議決に基づいて内閣総理大臣を指名するとしているため、首相公選制の導入には憲法改正が必要である。また天皇制との整合性を絡める議論もあり、導入へのハードルは高い。
仮に首相公選制が実現できたとしても、困難が生じる可能性もある。イスラエルの首相公選制時代には、首相には国益を、国会議員には個別利害を期待するといった、有権者の投票行動に変化が生じた。その結果、大政党が溶解して少数党が乱立し、従来にも増して連立工作を行う必要性が生じたため、期待とは裏腹に首相の指導力は弱体化し、首相公選制は廃止された。
日本でも、国益を代表する首相と地元への利益誘導型の国会議員が併存し、同様の混乱に陥る可能性がある。首相と議会の間に対立が続けば、党議拘束も強く、個別議員の切り崩し策は成立しづらい日本の国会は、膠着状態に陥るだろう。革新的な主張を唱えて知事や市長になったものの議会との対立により、改革が停滞する例は身近にも存在する。やはり強い指導力を発揮するためには、安定した議会の存在も不可欠だ。
今の日本で具体的な解決策はないのか。
一案として、首相の選出方法を透明化し、またその前提となる党首の選出方法も、より国民に開かれた形に出来ないのだろうか。
民主党や自民党などの党首選への投票権を、票の重みも重くしたうえで国民に幅広く付与し、政策論争を活性化させ、長期に亘って党首を決めていく。活発な議論の下、長期間、国民やメディアの厳しい審査がなされれば、スキャンダルなどの醜聞は選挙期間中に出し尽くされ、資質がない人は選挙を勝ち抜くのは難しくなるのではないだろうか。
そのうえで、党首が首相になることを選挙の際に明示するのだ。そうすれば「○○党の議員への投票=△△を首相にするための投票」となるため、間接的とはいえ、国民が選挙で首相を選ぶことができる。首相と議会のねじれが起きることもなくなるし、国民が(間接的に)選択した首相を国会議員だけの論理で交代させることも減り、首相の在任期間も長くなることが期待できるのではないだろうか。
これ以外にも様々な改革や工夫が必要だろう。日本には権限の強い参議院の存在があるため、衆議院と参議院でねじれが出た場合、「参議院は衆議院の採決を最大限に尊重し、いたずらに反対しない」といった強い世論形成が必要だ。官僚の任免権の拡大など、全体的に首相の権限強化も必要だし、党首が突如辞任した場合に備えて、党首選の際に副党首も同時に決めておく必要があろう。
これは、絵に描いた餅なのかもしれない。また異なる意見も多く存在するはずだ。しかし、新しい仕組みを模索することなく、いたずらに首相の顔を変えても、今のままでは時間の浪費となるばかりだ。
政治が変われば日本も変わる。逆に言えば、政治が変わらなければ日本は変わらない。今こそ、強い首相を生み出し、思い切った改革が出来る土壌を形成しなければならない。この手の議論が活発化することを望む。
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