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私は、空気を読むという言葉が嫌いである。周りの人間が何を言おうと、人間は自主的にものを考え、発言すべきだと学生にも教えている。それにしても、今の政治家が空気を読む能力を持っていないことには、辟易させられる。政治家というのは権力を追求する動物である。与党の中には次の宰相になりたい政治家がいるのが当然だし、野党は常に政府を攻撃し、政権を奪還することが任務である。だが、権力闘争にも時と場合がある。家族が瀕死の状態にある時に夫婦喧嘩をする人はいない。永田町にはそのような常識が通じないことに、人々は呆れている。
大震災さえ倒閣の手段にしようとする自民党は浅ましい。もっと非常識なのは民主党内で首相退陣を叫ぶ政治家である。原発事故は日本にとって初めての経験であり、試行錯誤もやむを得ない。首相を代えなければ解決できない問題があるのか。倒閣を叫ぶ政治家は、他人の無能をあげつらう前になすべきことを精一杯しているのか。鳩山由紀夫前首相は、菅首相に私心を捨てて行動せよと言ったが、逆に反菅グループの動きからは私心しか見えてこない。
自然災害は不条理である。この不条理にどう立ち向かうかで、人間の値が量られる。先日、作家の辺見庸氏がテレビでアルベール・カミュに言及していたことに触発され、私も三十数年ぶりにカミュの『ペスト』という小説を読んだ。これは、ペストの発生で完全に封鎖された都市で、患者を治療する医師、リウーの闘いを描いた物語である。リウーは言う。
「今度のこと(ペストの流行)は、ヒロイズムなどという問題じゃないんです。これは誠実さの問題なんです。こんな考え方はあるいは笑われるかもしれませんが、しかしペストと戦う唯一の方法は、誠実さということです。(誠実さとは何かと問われて)僕の場合には、つまり自分の職務を果たすことだと心得ています」
大震災という不条理に直面し、名もなき人々は誠実さを発揮し、我々を感動させた。みずからが津波に呑まれるまで防災無線で住民に避難を呼びかけた役場職員、半鐘を叩き続けた消防団員、放射線を浴びながら原子炉に放水した消防官、そして多くの警察官、自衛隊員、保健師。当今の日本人は徳義を失っただの、公務員はたるんでいるだのと、くだらない説教をしたがる連中もいる。しかし、普通の人々は危機に直面し、自らの役割を誠実に果たしているのである。
政治家は国民の反映だと言うが、これほど立派な国民がそれぞれの持ち場で社会を支えているにもかかわらず、政治家はそうした律儀な国民を反映していない。政局を飯のタネにする政治家には誠実さを感じないのである。政治家の役割は、被災者の救援、復興のための法律や予算を速やかに決定し、実行することである。
本格的な復興策や原発事故の補償の仕組みを確立することは、来年の通常国会までかかる大仕事である。それが終わる頃には、民主党も自民党も代表、総裁の任期切れを迎える。あと1年少し権力闘争を停止し、震災対策の目処がついたところで心おきなく権力闘争をすればよい。
もちろん、以上の議論は菅直人首相を無条件で擁護するものではない。今までの対応について謙虚に批判を仰ぎ、政府与党の総力を結集することが、首相の使命である。倒閣を画策する政治家を首相が嫌うのは当然だが、政治家が本来の役割を果たすためには、首相も与党議員の力を引き出す度量を持つべきである。小沢一郎氏の党員資格停止処分を解除し、東北地方の再建のために彼の持っている情報や経験を生かすことも必要である。国民がこぞって何かをしたいと願っている時に、与野党、派閥を問わず、政治家こそ何をすべきか、反省する時である。
熊本日日新聞2011年5月1日
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