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反射鏡:被災地の痛苦と政治家の軽薄=論説委員・小松浩
http://mainichi.jp/select/opinion/hansya/news/20110501ddm004070036000c.html
毎日新聞 2011年5月1日 東京朝刊
震災で被災した人たちの目にいま、この国の政治家はどう映っているのだろうか。
先日、菅直人首相の退陣を求める民主党の国会議員たちの集まりで、民主党はこのままでは壊滅だ、という声が上がった。とっさに思い浮かべたのは、ひと月ほど前に電話で話した岩手県釜石市両石町の町内会長さんの言葉だった。
「両石は、壊滅です」
両石町は私の生まれ育った海沿いの小さな集落である。小さいころからよく知っている近所の人や家が、波にさらわれた。幼なじみと上って遊んだ防波堤は、無残に砕けて倒れた。津波はそこに住む人たちの家を、家族を、海の仕事を、平和な日常を根こそぎ奪っていった。
ほかに、どんな言葉で表現できるというのだろう。
壊滅−−。それは、住む町を失った者、その光景を自分の目で見た者が振り絞るような声で発する、心の叫びである。政治家が政党の浮沈話で安易に口にする言葉とは重さが違う。
被災地の痛苦と政治家の軽薄の対比が、日に日に際だってきている。
「座して死を待つのか」「首相には国民の声が見えない」
菅首相降ろしの集会では、そんな発言もあった。
座して死を待つかのような極限状態に置かれているのは、食べ物も薬も足りない避難所で、今日一日を必死で生きている被災者たちではないのか。首相には国民の声が見えないと言ったのは「国民が聞く耳を持たなくなった」と言って1年前に首相を辞めた方である。なにかにつけては「国民」を持ち出す政治家にとって、国民とは、どこにいる、誰のことか。被災地に身を置く者なら、そう問いつめたくなるだろう。
津波で家を失い、家族と離ればなれの生活を強いられている小学校時代の同級生は、永田町で繰り広げられる政権党の権力争いに、復興話にからんだうさん臭さを感じるという。そんな時間があるのなら「ヒトとモノとお金」を被災地にもっともっと流してほしい、仮設住宅の入居をお盆まで待たされたら体がもたない人がおおぜい出てくるのが心配だ、と言う。必要なのは、政争の言葉ではなく、具体的な実践だ。
国民は毎日、どこかで声を上げている。聞こえないのは、政治家の声の方ではないか。
民主党は、リベラルな政党である。競争社会から生じた格差や不公平を減らしていこう、という政党だ。そこに多くの有権者は希望を託した。
だが、美辞麗句と実際の振る舞いの落差もまた、この政党の性格なのだろうか。震災をタネにして、被災者より政局優先の「国民生活第一」とは、いったいどんな政治なのか。都会育ちの裕福な政治家が口にする「友愛政治」は、この震災でどこにいったのか。
菅首相が掲げた「最小不幸社会」は、弱い立場に立たされた人に手をさしのべる政治だったはずだ。原発事故で苦しむ漁民への想像力があれば、何の相談もなく海に放射能汚染水を放出し、抗議を受けて頭を下げる醜態はありえなかったろう。「最小不幸社会」ではなく「最大多数の最大幸福」が大事なら、そう言えばいい。もっともそれでは、自民党の政治と何の違いもなくなるが。
アメリカの政治推理小説に、主人公のこんなモノローグが出てくる。「一部のリベラリストについて、彼らは人民を愛しているが、その一方でがまんできないのもその人民であると言われる」(リチャード・バウカー「上院議員」、高田恵子訳)
抽象概念としての「人民」を愛しているが(あるいはそういう心がけの自分自身を愛しているが)、血の通った一人一人の人民には決して愛情を持つことはない−−。リベラリストが陥りがちな態度への、皮肉たっぷりの警句である。
絵空事の理念を競う政治がはやりだしたのは、自民党の安倍晋三元首相が「美しい国」を言い出したあたりからだ。政治の目的は、国民の日々の安全を守ることである。スローガンで救われる命はない。
遺棄死体 数百といひ 数千といふ いのちをふたつ もちしものなし(土岐善麿)
震災の死者・行方不明者2万5千人余に、それぞれかけがえのない暮らしがあった。「被災者」「国民」という言葉でひとくくりにするのではなく、可能な限り、固有名詞と顔を思い浮かべることから、まず始めるべきではないか。リベラリストの覚悟が問われている。
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