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2011-04-16(00:02)
経産省幹部が公表をストップさせた「東京電力解体」案 この霞ヶ関とのもたれあいこそが問題だ
長谷川幸洋「ニュースの深層」(現代ビジネス2011年04月15日)http://gendai.ismedia.jp/articles/-/2449
福島第一原子力発電所の放射能漏れ事故が長期化する中、東京電力のあり方が焦点になってきた。
兆円単位に及ぶとみられる被災者への補償負担を考えれば、東京電力が自力で苦境を乗り越えられる可能性はほとんどない。いずれにせよ、政府の関与は避けられない。では、東京電力をどうすべきなのだろうか。問題点を整理しておきたい。
東電処理政策の目標として、とりあえず次の4点を考える。事故の再発防止、納得感がある補償、国民負担の最小化、電力の安定供給確保である。ほかにもあるだろうが、ひとまず措く。
まず、事故はなぜ起きたか。巨大な地震と津波という自然災害が直接の原因だが、そもそも原発の安全確保体制にも問題があった。
政府は原子力安全・保安院と原子力安全委員会という二本立てで原発の安全性を監視していた。前者は経済産業省の外局であり、後者は内閣府の審議会(+事務局)という位置づけである
。
■東電が天下り先の経産省に監視できるわけがない
経産省は外局に資源エネルギー庁も抱え、省を挙げて原発推進の旗を振ってきた。同じ役所が右手で原発を応援し、左手でチェックする体制になっていたのだ。現場で働く役人は同じ経産官僚である。東電は経産省からOB官僚の天下りを受け入れてきた。
規制する側が規制される側の世話になってきたわけで、これで十分に監視できるわけがない。
原子力安全委員会は学者が委員を務めている。実態は政府と東電の「御用学者」ばかりと言っていい。たとえば、松浦祥次郎元委員長は安全確保には「費用がかかる」と発言していた(テレビ朝日『サンデーフロントライン』4月10日)。番組でも指摘したが、東電のカネの心配をするのは、税金で報酬を得ている原子力安全委員の仕事ではない。これでは東電の代弁者ではないか。
保安院も安全委員会も「監視役」という本来の役割を果たしていなかった。保安院の経産省からの切り離しを含めて、抜本的な体制見直しは当然である。
東電を十分チェックできなかったのは、単に政府側の体制の問題というだけでなく、実は東電が地域独占だったという点を無視できない。
ほかに代替できる企業がないから、東電の力は必然的に強大になる。問題が生じたときに政府がペナルティを課したところで「絶対につぶせない」ので、時が経てば元に戻ってしまう。
政府とのなれ合いは、他に競争相手がいない地域独占が招いた必然の結果である。なれ合いが不十分な監視の温床となって、それが事故につながった。そう考えれば、地域独占をやめることがもっとも根本的な再発防止策であり、東電処理の必要条件になる。
電力事業をめぐっては、かねて発電事業と送電事業の切り分け(発送分離)が課題になっていた。発送分離して東電の送電線を自由に使えるようにすれば、発電事業に企業が新規参入しやすくなる。風力や太陽光など新しい再生可能エネルギーの活用も進むだろう。
ここは東電の発送分離に加えて、地域独占の廃止も組み合わせるべきだ。
■「絶対につぶれない」という前提を見直す
納得感のある補償をするには、政府の支援が不可欠になる。一方、政府は国民負担を最小化する必要もある。そのためには、独占にあぐらをかいて大甘になっていたはずの東電の経営に徹底的なメスを入れなければならない。
役員報酬・退職金の返上はもちろん社員待遇の見直し、不用資産の売却、子会社の整理など大リストラが必要だ。
以上を前提に、電力供給の確保と新しい経営形態を考える。ここに「東京電力の処理策」と題された6枚紙がある。作成したのは経産省のベテラン官僚である。これをみると、いくつか斬新なアイデアがある。
先に東電処理の出口(EXIT)をみよう。
東電を発送分離して「東京発電会社」と「東京発電会社」に分けた後、第2段階として発電部門の東京発電会社を「事業所単位で分割し、持ち株会社の下に子会社として直接配置する」とある。その後で子会社の売却を提案している。
つまり東京発電A社、東京発電B社、東京発電C社というように発電所単位で子会社にして、それぞれ売却してしまうという案だ。これだと、発送分離に加えて1社による地域独占もなくなる。Aに致命的な事故や不祥事があった場合には、AをつぶしてBやC、あるいは新規に参入した会社が経営を引き継ぐことが可能になる。
これまでのように「絶対につぶれない」という前提がなくなる点が重要だ。もしものときは「会社がつぶれる」という状態に置くことで、それぞれの経営に緊張感が生まれる。経営母体が異なるのでAとB、Cの間で競争が生じて、ひいては電力料金の抑制にもつながるだろう。
この出口に至る途中のプロセスはどうするのか。
処理策は東電の経営を監視する「東電経営監視委員会」を弁護士や企業再生専門家らでつくり、経営を事実上、監視委員会の下に置くように提案している。一方で資金不足に陥って電力を供給できないような事態に陥らないよう、政府が必要に応じて東電の借入資金に政府保証をつける。
当面は事業をそのまま継続する。ただし役員報酬の返上など大リストラは、この段階で直ちに着手する。そうでなければ、企業価値を算定するときに東電の値段が無駄に高くなってしまう。ひいては国民負担につながる。
その後、放射能漏れの被災者に対する補償額、国と東電の負担割合が決まってから、東電の企業価値を算定し、経営監視委員会が再生プランを作成する。プランが出来れば、現在の株式は100%減資して、新たに株式を発行する。100%減資は既存株主にも責任を負担してもらうためだ。
■誰が新会社の株主になるのか
問題は、だれが新株式を買うのか。この点について、ペーパーは何も触れていない。
考えられるのは、まず政府だ。政府が東電の新株式を買えば、国有化になる。
政府でなくても、たとえば企業再生支援機構のような組織を使う手もあるかもしれない。支援機構は政府と金融機関が預金保険機構を通じて出資し、2009年に設立された。本来は中堅、中小企業の再生のために存続期間5年限定でつくられた国の認可法人だが、大幅に資本金を拡充して東電再生に使う。
あるいは、東電再生を目的にした政府と民間による専用ファンドを新設する手もあるだろう。
ただし国有化にせよ、支援機構あるいは専用ファンドの保有にせよ、それが最終決着ではない。あくまで発送電を分離し、地域独占もやめて会社を複数に分割、それぞれ民間に売却するところが出口である。売却先として、電力供給義務を課したうえで、外資に門戸を開いてもいいだろう。
巷では、東電に対する怒りも手伝って「東電国有化」論が飛び交っているが、単に政府が東電を国有化するだけでは、これまでの政府との癒着関係が致命的にひどくなるだけだ。原発事故の反省もうやむやにされ、官僚と御用学者が再び大手をふって歩くようになるだろう。
政府と御用学者、東電は事実上、一体だった。それが事故の遠因になった。政府と東電を切り離し、複数の民間企業が競争して発電事業を担うようにする。そこがポイントである。国有化は途中経過で一時的にありうるが、それが問題の解ではない。
考えてみれば、電力供給も1社による地域独占状態より、複数の会社が発電事業に取り組んだほうが安定する。それは当たり前ではないか。1社に問題が生じても、別の社がセーフティネットになるからだ。
東電が宣伝していた「地域独占で供給が安定する」という話は、今回の事故で完璧に崩壊した。それは神話だったのだ。
■経産省体質にこそメスを
最後に前回のコラムで試したように、思考実験として「政府が東電の資金難を支援するだけにとどめ、東電の経営形態は現状のまま」とした場合にどうなるか、考えてみよう。つまり抜本的な東電処理政策を実行しないケースだ。
政府は形だけ監視体制を手直しする。たとえば原子力安全・保安院と原子力安全委員会を合体して、独立の「原子力規制委員会」を新設したとする。
そこが東電を監視するが、東電自体は相変わらず「絶対につぶれない」状態に置かれているので、たとえ官僚に厳しく指導されたところで「どうせ、おれたちはつぶせないでしょ。だれが電力を供給するの。なんなら、あなたを天下りで受け入れてあげるよ」となめられるのが関の山だ。
東電1社だけでは、だめだ。電力供給体制の複数化が東電見直し論の鍵である。
ちなみに、この6枚紙の「処理策」はすでに経産省幹部も目を通している。ところが、執筆した官僚が公表しようとすると「絶対にだめだ」とストップをかけたという。天下りを通じて東電となれ合ってきた経産省の既得権益を侵す恐れがあるからだ。
そういう経産省の体質こそ、国会で真っ先に追及されるべきである。海江田万里経産相も、ここは勝負どころだ。しっかりと指導してほしい。そうでなければ、これから苦しい暮らしが待っている何万人もの被災者たちが浮かばれない。
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