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原子力は何よりも大量破壊技術であり、それを同盟国で共有してコントロールすることは、冷戦におけるアメリカの世界戦略にとって重要だった。しかし被爆国である日本には「核アレルギー」が強く、原子力を持ち込むことは困難だった。この対立を利用して原子力利権を生み出したのが、正力松太郎である。以前の記事では本書の電波利権の部分を紹介したが、原子力利権の部分も興味深い。
アメリカが日本に原子力を売り込む上で、正力が読売新聞のオーナーであることは重要だった。原水禁や原水協などの左翼団体は原子力の導入に強く反対し、原子力発電をゲンパツというゲンバクとまぎらわしい略称で呼び、「原発は原爆のように爆発する」と恐怖をあおった。左翼が消滅した今日でも、こういう勢力は「エコロジスト」と衣替えして生き残っている。
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これに対して、読売新聞は「原子力は夢のエネルギーだ」というキャンペーンを張った。冷戦構造の中で日本をアジアの橋頭堡とすることでアメリカと正力の利害は一致しており、彼はCIAから巨額の工作資金をもらって政界工作を行なった。原発の最大のリスクはその核燃料が原爆に転用されることなので、アメリカはそれを防ぐために「原子力の平和利用」という理由で原子力技術を売り込むと同時に、兵器に転用することを防ぐために監視する必要があった。
正力の本当のねらいは平和利用ではなく、日本が憲法を改正して核武装することだった。これは米軍のマイクロ回線を全国に張ってテレビ放送を行なうという彼の構想と一体だった。しかしアメリカは、原発によって旧敵国の日本が核兵器の材料を入手することは望んでいなかった。正力はそれを知らず、アメリカとの交渉が決裂してイギリスから原発の導入をはかろうとしてCIAに捨てられた。
結果的にはアメリカも、他国の原発を日本に売り込まれるより自国のGEなどを売り込むほうが得策と判断して、日本の核開発に協力した。他方、正力の念願だった憲法改正は吉田茂に阻止され、一時的なものだったはずの米軍駐留が半永久的に固定された。米軍のマイクロ回線を使う正力の「日本テレビ放送網」の夢も電電公社に阻まれ、今の県域免許体制ができた。
このように原発は電波利権と同様、冷戦の中で日本をアメリカの世界戦略に組み込む上で重要な役割を果たした。その役割はもう終わったのだが、米軍基地も原発もテレビ局も巨大な負の遺産として残り、それをなくすことは政治的には不可能に近い。これを変えるには原子力利権を生む地域独占の構造から変えていくしかないが、電波利権に手もふれられなかった民主党政権にそれができるとは思えない。
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