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<サンデー時評>ベテラン議員30人が先頭に立て
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20110406-00000000-sundaym-pol
サンデー毎日 4月6日(水)18時0分配信
◇岩見隆夫(いわみ・たかお=毎日新聞客員編集委員)
テレビをつけると、若い男性が出てきて、
「あなたはひとりじゃない」
と言う。別の男性は、
「日本はひとつのチームなのです」
と語る。さらに、男性歌手が、
「日本の力を信じている」
と力説する。それを民放各局がしょっちゅう繰り返す。スポンサーはよくわからないが、被災者のみなさんよ、国民のみなさんよ、しっかりしろ、大丈夫だから、と励ましてくれているようだ。
そうかと思うと、有名俳優や有名スポーツ選手たちが、突然画面に大写しになって、
「がんばろう日本」
とか、
「つながろう日本」
と大声をあげる。かつてなかったことで、異常な感じを受ける。
掛け声は結構だが、東日本大震災後の日本はそんなことで何とかなる状態だろうか。日々、国民こぞっての結束力は示されているが、同時に失われるものがある。この国の骨格が揺らぎ始めたのではないか。
〈震災と民主主義〉
について考えてみなければならない。3・11の巨大地震と巨大津波が大被害をもたらしたが、そこまでなら悲劇に耐えながら、持ちこたえることができたかもしれない。しかし、福島第一原子力発電所の爆発と放射能被害という〈魔物〉が加わったことによって、日本の民主主義は変調をきたしている。
代議制民主主義の頂点に立つ菅直人首相は原発爆発に動転し、直後にヘリコプターで現地に飛んだ。それが批判され、三月二十九日の参院予算委では野党が、首相視察によって初動の対応が遅れたと追及、菅さんは、
「その批判はまったく当たっていない」
などと釈明に追われた。菅さんについて、永田町では、
「原発でパニックに陥っている。ほかのことに手が回らない」
と言われ、そうかもしれないと思われる面があった。大震災という非常事態の発生で、総指揮官はどう行動しなければならないか、菅さんにはその備えがなかったのではないか。
発生の直前まで、政界では菅さんの退陣を求める声が次第に強まっていたから、とっさに〈現地視察〉というパフォーマンスを演じ、得点しようとしたフシがある。そうだとすれば、緊急事態の処理よりも自己保身を優先したことになる。菅さんに求められたのは指揮所の首相官邸に腰を据え、情報を敏速に集約し、適切果敢な指示を与えることだった。
菅さんは頼りない指導者という印象を国内だけでなく外国にも与えている。それは大変残念なことで、危急存亡の時、被災者や国民全体に不信を持たれた責任は重大だ。最近も菅さんは緊急に会う必要のない学者などを招いて、意見を求めているが、自信のなさを示すだけで、肝心の決断が後回しになっている。
◇震災復興の指揮官不在 スピード感が全くない
しかし、そうした菅さんの不甲斐なさは困ったことではあるが、民主主義の基本にかかわることではない。たまたま緊急時に非力な人物が首相のイスに座っている不運は感じる。だが、首相がすべてを仕切るわけではない。阪神・淡路大震災で震災対策担当相をつとめた自民党の小里貞利さんは、
「オールジャパンで取り組む環境をつくってほしい」
と訴えているが、その通りで、菅さんを批判するだけでは解決にならない。私たちが民主的に選んだ七百二十二人の衆参両院議員はどこで何をしているのだろうか。
三月末の国会が、子ども手当の〈つなぎ法案〉をめぐる駆け引きに費やされたのにはあきれた。子ども手当などのバラマキ的な政策はとりあえず廃止して財源を震災対策資金に回すべきだという意見は、発生直後に与野党双方から出ていた。当然のことだ。
それが実現しない。決断を避ける菅さんに第一の責任があるのは言うまでもないが(なぜ避けるのかわからない)、与野党の議員集団が傍観し、結果的に〈つなぎ法案〉で存続させるのに手を貸しているが、どうしてこんなことになるのか。
子ども手当は一例である。七百二十二人には、団結して非常事態に立ち向かうという決意と使命感が極めて乏しく、大震災前の延長のようなことを漫然とやっている。国権の最高機関が役に立たない。言い換えれば、代議制民主主義が機能していないのである。
国会が選んだ首相は、何を尋ねても、
「検討している」
の繰り返しだ。被災現場はそんなまどろっこしい政治に付き合っている余裕などあるはずがなく、自主的にエネルギッシュに復興に取り組んでいる。それを支えているのは国民全体が示すオールジャパンの熱気と、百三十数カ国にのぼる諸外国の敏速果敢な支援である。
ところが、政治だけが、この内外の結束体から抜け落ち、いまだオールの体制が組めない。菅さんは三月十九日、自民党の谷垣禎一総裁に震災復興担当相として入閣を求め、断られると、人事は放ったらかしのままだ。実務の指揮官がいない。一体どうしたことなのか、スピード感がまったくないではないか。
特に当選回数の多いベテラン議員たちの責任を私は問いたい。いま衆院には当選十回以上が二十四人いる。羽田孜、小沢一郎、渡部恒三、森喜朗(以上十四回)、加藤紘一、野田毅(十三回)、鹿野道彦、中井洽、中野寛成、保利耕輔、坂口力、亀井静香、中村喜四郎、鳩山邦夫(十一回)、菅直人、麻生太郎、古賀誠、高村正彦、谷垣禎一、中川秀直、町村信孝、平沼赳夫、与謝野馨、横路孝弘(十回)のみなさんだ。全員、勤続二十八年以上。
参院でも二十八年以上は西岡武夫、石井一、草川昭三、山東昭子、藤井孝男の五人だ。このベテラン約三十人はぜひとも、危機突破の先頭に立ち指導的役割を果たしてもらいたい。そうでないと、ベテランの意味がなくなり、民主政治は頼むに足りないシステムとして、おかしくなる。
<今週のひと言>
震災疲れだ、被災していないのに。
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