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「原発事故について、どうして東電、政府、原子力安全・保安院は合同記者会見を開かないのか」――災害救助研究の専門家、ハーバード大学のマイケル・ファンルーエン准教授が語る危機のリーダーシップ(World Voiceプレミアム|ダイヤモンド・オンライン)
http://diamond.jp/articles/-/11624
巨大地震、大津波そして原発事故――。日本は、言語に絶する大災害に直面した。しかし、いくら災害の規模が想像を絶しているとしても、政府の指揮命令系統の混乱が正当化されるわけでも、許されるわけでもない。災害救助研究の専門家として知られるハーバード大学のマイケル・ファンルーエン准教授は、日本の最大の問題は、国民に向けた公的メッセージの統一が図られていないことだという。たとえば、福島原発事故について、東京電力、菅内閣、経済産業省原子力安全・保安院の合同会見があってしかるべきだと同氏は提言する。
(聞き手/ジャーナリスト、瀧口範子)
――あなたは災害救助の専門家そして医師として、世界各地の戦争や災害の被災地で実際に救援活動に携わった経験を持つが、今回東日本を襲った大震災の惨状をどう見ているか。
マイケル・ファンルーエン
(Michael VanRooyen)
ハーバード大学公衆衛生学部准教授で、同大学のヒューマニタリアン・イニシアティブの共同ディレクター。戦争や災害の被災地での救援活動や緊急医療について、各国政府やNGOに医学面・政策面でのアドバイスを行っている。コンゴ、ザイール、スーダン、ボスニアなど、被災地での医療活動は30カ国に及ぶ。その活動に関連して、リーダーズ・ダイジェスト・ヘルス・ヒーロー賞他、受賞多数。
地震、津波、原発事故は、本来ならばそれぞれに異なった一連の破壊や混乱を引き起こす深刻な災害だが、今回はそれらが同時に起こっているところに困難の源がある。災害時には通常、新しい問題が発生するごとにそのことについて喚起を促す指揮命令系統が必要だ。しかし、東日本大震災に際しては、その仕組みがうまく機能していないようだ。
特に福島原発事故では、問題の深刻さについてどのように国民に伝えるかという点において混乱している様子がうかがえる。ただ、日本は地震についても、原発問題についても、備えの面では世界でもっとも優れていた。一方的に批判することはしたくない。
――これほどの災害では、指揮命令系統の混乱も仕方ないということか?
そうは言っていない。今回の惨事は、考え得るどんな最良のシステムでも対応しきれないほどの深刻な出来事だと言っている。だから、日本政府を一方的に非難するようなことは避けたいのだ。同じ規模の災害がもし他の国で起こっていたら、(被害は)さらに拡大していただろう。
ただし、日本政府の対応に、課題がないわけではない。公的なメッセージの伝え方という点では、問題がある。被災地のコミュニティや住民、そしてさらに国民全体がこの危機をどう乗り越えるかについて、公的な声の統一が図られてないという問題だ。
――では、どうするべきなのか。
相反するニュースが巷に溢れ、国民がそれらに晒されている中で、政府に出来ることは、1)問題を把握していること、2)適切に対処していること、3)それでもまだ未解決の問題が残されていることを包み隠さず伝えることだ。今は、人々がいつでもどこでも情報を手にしたいと考える時代だ。政府も真正面から正直に国民と向き合う必要がある。
――では、もしあなたが東日本大震災の救済ディレクターになったら、この状況を具体的にどう改善するか。
たとえば、原発問題をめぐっては、政府、東京電力、原子力安全・保安院の三者の責任者が文字通り同じ舞台に立ち、現状をわかりやすい言語で説明し、国民を安心させるための合同会見を開くべきだ。
そうしたシンボリック(象徴的)な振る舞いは、このような非常事態のときに大変役立つものだ。ひとつの声で語られることにより、国民は政治、技術、公共が一緒になって動いていると確認できる。
また、これは日本で今も実践されているとは思うが、原発問題に限らず、信頼できる「顔」を前に出し、これからこういうことが起こる、これが今やっていることだ、といった内容を常に発信し続けることだ。毎日定時に複数回テレビカメラの前に立ち、国民に向かってブリーフィングをし、アップデートした情報を伝えることを決して怠ってはならない。
過酷な避難生活を強いられている人々には多くのいらだちがある。そうした現実の問題の解決と同時に、信頼できる情報を伝達することは非常に重要だ。
――アメリカでは、大災害の際、誰がその役割を果たしているのか。
たとえば、FEMA(連邦緊急事態管理庁)のトップだ。特にFEMAに強力なリーダーがいた時には、うまく機能していた。その人物が、非常に力強いメッセージを出していたからだ。だが、そうしたトップがいなくなって問題が起きた。ハリケーン・カトリーナの大惨事がその例だ。日本は、その失敗から学べると思う。
――災害時の指揮命令系統に話を戻すが、被災地が非常に広範囲に広がり、しかも複数の問題が同時進行している今回のようなケースでは、どのようなかたちの指揮命令系統が理想的なのか。
確かに都市部で集中的に起こる災害とは、今回はまったく異なった様相を示している。中央に中枢調整システムを置き、その下にサブの指揮命令系統が複数存在するという仕組みが必要だろう。
中央では、メッセージや救済のコーディネーションを行い、さらにさまざまな機関が被災地で問題のアセスメントを行うことを推進し、その内容を各地域や全国に伝えるといった構図だ。もちろん、現地へのアクセスやロジスティックスが破壊された現状では、それは決して簡単なことではない。
――被災地救済のロードマップは、これからどうあるべきか。
まず極限状態にある人々を救い出すこと、物資供給のラインを確保すること、被災者の中でも高齢者や妊婦などの弱者を優先して保護することだ。その後は、復興へ方向転換する。
方向転換は簡単ではないが、数週間のうちに始める必要がある。被災地で大人数で寝起きしている状態は、感染症が広まる危険性も高く、メンタルヘルスの面でも問題がある。ことに、文化的にコミュニティの絆の強い(日本のような)社会では、持ち物も家もコミュニティもなくしたことは大きな不安感のもとになる。早く復興に向かう必要がある。
――今回の災害では、被災地の病院の患者情報の把握や入院患者の移動がうまく行かず、多数の死者が出た。アメリカには、災害時にこのような事態を回避するための備えはあるのか。
現在全米の多くの病院がHICS(ハイクス)という病院災害司令システムを導入している。災害時の指揮命令系統と情報管理、医薬品の供給チェーン管理を統合したもので、訓練にも使える仕組みになっている。
だが、平時には使えても、今回のような大災害時には、移動する患者数の多さだけを考えても情報管理の限界を超えていただろう。そういう場合には、原始的な紙での管理が役立つこともある。
――最後に、災害問題の研究者の立場から、東日本大震災の教訓とは何であると考えているか教えてほしい。
端的に言えば、公共サービスのリソースや複数のタイプの災害の同時発生を管理できる、もっと強靭な指揮命令系統が必要だといことだ。繰り返すが、一方的に批判するだけでは何も生まれない。失敗から学ぶ姿勢が何より大切なのである。
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